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4話

今日から俺たちが暮らす寮は魔法科の校舎のさらに西側にあり、校外に出るにも正門を使うよりも西門を使った方が早い。校舎同様隔離されているような気がしてあまり気分は良くない。

しかし建物自体はよく手入れされていて傷んだところなど見当たらない。客間は全部で二十あり、俺たち男は一階の西側の部屋を、二階は魔法科の女たちが使っている。

元々がしっかりとした館なのでキッチンや談話室、今は空っぽらしいが遊戯室などもあるらしい。

そういうそれなりに大きな館なので談話室も広い。

十人どころかその三倍は席が用意されており、それでもなお広いスペースがあった。

各テーブルにはすでにいくつかの料理が並べられている。

「すごいな、いつのまに用意したんだ?」

「そりゃあの人たちが前もって準備していたんだろう」

「なるほど」

レントが示した先には今も料理を並べている長いスカートをはいた人たちがいた。

「たぶんお嬢さんが連れてきた使用人だろうな」

いや、それはおかしい。

「たしか原則的に一人で生活しないといけないはずじゃなかったか?」

「今日だけは特別だ」

返答は横にいるレントではなく、後ろからきた。

「今日は荷物の搬入があるため、特別に許可されている。

明日にはみないなくなっているはずだ」

リリエル・アルヴァスがそこにいた。

正直言ってこのお嬢様は少し苦手だ。

というよりも貴族そのものが苦手だ。

俺の故郷にも貴族はいた。

別に傲慢だとかわがままだとか他人に迷惑をかけるような性格をしていたわけではない。

厳格で規律に厳しい性格で、俺の故郷の町をそのまま人にしたような人だった。

そしてこのお嬢様からも似たような雰囲気を感じるのだ。

それは今このときにわざわざ制服を選んで着てくることからもわかる。

まさか俺のように制服が一番いい服だからということはあるまい。

他の皆は各々私服に着替えているので俺たち二人はが少しばかり浮いている。

まあそれでも主催のお嬢様ほどではない。

ぱっと見ただけで良いものだとわかる生地で作られた服は華やかで、手が込んでいるのがよくわかる。

しかも体のラインにピッタリ合うように作られていることから一点物の特注品だろう。

さらに言うならば大胆に大きく胸元を開いたデザインはよほど自分の容姿に自信がなければ着こなせないだろう。

レントなど先ほどから視線が釘づけだ。

お嬢さん自身もそのことに気がついているようだが気にしているようには見えない。

むしろそれが当然とばかりに振る舞っている。

まさか普段からあんな格好をしているということはないと思うが。

だがそんなことよりせっかくのごちそうだ。

早速いただくとしよう。


親睦会が始まった当初はなんだかんだとばらばらに行動していたがしばらくすると二三人で集まって話をするようになった。

俺も一人、朝教室で見かけて気になっていたそいつに声をかけた。

「おい、お前なんでここにいるんだ?」

「君いきなり何言ってんの?」

名前はたしかアキラ、自己紹介のときにそう言っていた。

「いや、だってお前試験落ちただろう。なのに何で入学しているんだ?」

「落ちてないよ! 失礼だな」

嘘をつくな。こいつが落ちていないはずがないんだ。

俺はこいつが受かるはずがないことを知っている。いや、俺だけではない。オレと同じときに同じ場所で試験を受けた者なら誰もがこいつが受かるはずがないことを知っている。

「だっておまえ、試験中に脱走したじゃないか」

「ぶっ!」

そう、こいつは座学の試験中に試験場を飛び出し、そのまま終わるまで帰ってこなかった。

それで合格しているのだとしたらそれは試験を受けて落ちた連中にたいしての冒涜以外の何者でもない。

「な、何でそのことを!?」

「同じ試験場にいたからな。あの時試験を受けた奴でお前のことを知らない奴はいないぞ」

「がーん」

まあそれがなくともその前に行われた体力試験ですでにやたらと目立っていたから大人しく試験を受けていたとしても覚えられていたと思うが。

「えっと、ボクもよくわからないんだけど合格だって連絡が来たんだよ。

さっきも教官に聞いてみたけど魔法兵? なんかそれになるための才能があるから特別に合格になったんだって」

魔法兵の才能ねえ。そういえばさっきも教官は俺たちが魔法兵になれる可能性が高いと言っていた。

ならば教官たちはすでに魔法兵育成のための方法に目処がついているのだろうか?

まあそのうちわかるだろう。

「ふーん、まあずるしたわけでなければ別にいいか。

 同じ数少ない男としてよろしくな、アキラ」

「うん、よろしく。ってボク男じゃないよ!」

「は?」

「だから、ボクは女の子! 男じゃなくてちゃんとした女の子だよ!」

改めてアキラを見る。

背は小柄で俺よりも頭ひとつ分小さい。髪は俺と同じぐらいに短く、むき出しの両腕は細身ながらもしっかりと筋肉がついている。

顔は童顔でたしかに女だといわれても通用しそうである。肩や腰は細く、やや華奢な印象も受ける。

失礼を承知で言わせてもらうならば男と女の見た目における最大級の違いのひとつである胸部において、女性としての特徴は見受けられない。

総合的に考えて基本的に少年に見えるが、女といわれてみればそんな気もするという程度だ。

しかし談話室全体を見回してみても俺とレント、そしてアキラ以外に男の姿はない。

教官からは寮に入る前に魔法科の男の数は三人と聞いていたし、実際レントとは逆隣の部屋にも人は入っている。

消去法的に考えてもアキラは男だということになる。

それともあれだろうか、世の中には男でありながら女の精神を持ち合わせた人間がいると聞いたことがある。

アキラもその類なのかもしれない。

「あー、そうだな、アキラは女だ。俺が悪かった」

「うー、なんかまだ信じてなさそうだよ。もう一度言うけどボクは本当に女の子だからね」

「ああ、もちろんわかったとも」

世の中にはいろんな人がいると聞いてはいたが、本当にいるものなんだな。

これからの生活に今までとは違う意味で不安になってきた。


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