26話
身体を太い幹によりかからせて息を付く。
今来た道を振り返ってもオーガの姿は見えない。
だが奴がこのまま引いてくれるとは思えない。
そして満足に体を動かせない俺がいる限り、いつか必ず追いつかれる。
俺が今こうしていられるのはお嬢様やアキラが時間を稼ぎ、アンナが肩を貸してくれたからだ。
いや、三人だけではない。
「ここまで来ればひとまず大丈夫でしょう」
「そうですね。戦うにしても逃げるにしてもまずはケガの治療をしましょう」
先ほど合流した彼女たちの平然とした様子が心強い。
「よし、こっちは大丈夫だ。
あいつは今俺たちが仕掛けた罠で足止めしている。
ゆっくり休む時間ぐらいはとれそうだぜ」
「本当に助かったよ、レント」
「気にすんなよ」
レントをはじめとしたB班の協力なしにはこうして無事に逃げることはできなかっただろう。
アンナたちが来たときはまだまだ切羽詰まった状況だった。
俺は満足に動くこともできなかったし、アンナは戦力にならない。
そんな二人をかばいながらの戦いは残る二人に不利を押しつけていた。
お嬢様はいくら足の踏ん張りがきかないとはいえあの豪腕を器用に受け流しながら時折攻撃を仕掛けていた。
しかしその刃がオーガの肌に届くとしてもその強固な体を傷つけることはできない。
アキラが身軽な体を生かし、俊敏にオーガを翻弄して打撃を叩き込もうともびくともしない。
途中からは足の痺れで機動力が落ちるのを避けるために拳による攻撃だけになった。
お嬢様も口や目といった比較的柔い部分を狙うもわずかにずらされ、受けられた反動で手が痺れ、危うく剣を取り落としそうになっていた。
このままでは負ける。
俺だけでなく全員がそう感じていた時、矢が飛来した。
それもただの矢ではない。リサが使っていた物と同じ雷の魔法陣が刻まれた矢だ。
それがオーガの足の傷を正確に捉えた。
傷口から流れる雷の魔法に僅かに動きを止める。
その隙を見計らって飛び出す影が二つ。
レントとスイだ。
二人は事前に準備していた魔力を収束させて、熱の魔法陣を発動させた剣を振るう。
スイは刃を水平に構えて腕の傷口を突き、レントは体重をかけて残っている腕へと切りかかる。
スイの剣は傷口をえぐり、その内側にある柔らかい肉をさらに焼く。
その痛みにスイを振り払おうとするが無事だった腕の先にはレントの剣が、それも指の間に収まるように食い込んでいる。
レントはそれをてこの原理を利用するようにひねり、動きを止める。
その隙を突いて今度はアキラががら空きになっているオーガの顔を正面から殴る。
オーガの動きを最低限に抑えながら連携して攻撃を重ねていく。
だが最初こそ効果があったものの、さほど堪えた様子はない。
しかしその間にカナタとジジの二人が俺たちに合流し、その場から離れることができた。
あらためて見回してみれば弓で援護していたトーラはともかく直接対峙していた四人は大きな怪我はしていないものの疲労は隠せない。
あのオーガを相手にしていたのだ。
怪我をする前に離れることができたのは僥倖だ。
問題はこれからどうするかだ。
まず逃げることは難しい。
先にも言った通り足下のおぼつかない俺をつれて逃げればすぐにでも追いつかれる。
今見つからずにすんでいるのはこうして動かずに隠れているからだ。
もし下手に動けばすぐに気が付かれてしまうだろう。
次に戦い倒すこと。
これも現実的とは言い難い。
まず今の俺たちでは倒せるだけの攻撃力がない。
たとえ魔法兵器があったとしてもレントやスイ、お嬢様では十分な魔力を収束させるだけの技術がない。
俺も今の状態ではそれだけの魔力を練ることは難しい。
残る手はこのまま隠れてなんとかやり過ごすしかない。
だがあそこまで傷つけられてそうそう引いてくれるとは思えない。
何が何でも俺たちを見つけ出そうとするだろう。
「やっぱりヤエトの回復を待つしかないな」
「悔しいですがそれしかありませんわね」
レントとスイも俺と同じ結論に達したようだ。
俺の体力が走れるほど回復すれば逃げることもできるし、十分な魔力を練る余裕があればカナタやアンナの剣を借りて戦うこともできる。
だがそれまでこのままの状況を維持できるのか?
そう思っているのは俺だけではないようで、誰も口を開かない。




