24話
息が苦しくむせる。その度に胸に激痛が走る。そればかりか時折吐き出した息に血が混じる。
これはやばい。
倒れこんだ体を起こす力も無いまま思う。
幸か不幸か先が切落ちた腕であったためにまだ生きているがとてもではないが動ける状態ではない。
それでも痛みにこらえながら首だけでもオーガへと向ける。
そこには片足を大きく切り裂かれ膝を突いたオーガがいた。
いかに高熱を持つ熱剣でも傷口を即座に焼けるわけではない。その傷口からは大量の血が流れ出している。
致死量に及ぶかどうかはわからないがあの状態ではあまり動き回ることはできないだろう。
これで少なくともみんながあれに襲われる危険はなくなった。
もっとも俺に関してはそういうわけにはいかないだろう。
魔力の連続行使に制御の難しい魔力射出による遠隔発動、それだけでも辛いのに最後の最後で気を抜いてしまったところに受けた一撃。
間違いなく肋骨は何本も折れ、あるいは肺に刺さっているのかもしれない。
幸いそれ以外に大きな怪我はなさそうだがそれでも体が動かないことに変わりは無い。
このままいけば俺は奴に殺されるだろう。
まったくばかげた話だ。
俺は一人前の軍人になって故郷の街を守るために努力して第三に入ったってのに故郷からは程遠い森の中で一人死ぬわけだ。
でもそれでもしょうがないか。
結局俺一人が強くなったところで街が守れるわけでもない。最前線の守りである故郷を守るには二度と連中が攻めてこれなくなるほどの力がいる。
そんなことは不可能で、俺も当然できるとは思っていなかった。
でも魔法兵ならばそれを実現できるだけの力が手に入るかもしれない。そう思ってしまったのだ。
アンナもリサもアキラもまだまだ未熟だ。でも普段の授業からでも才能があるのはわかる。
あいつらが成長し、魔法科がもっと大きくなって戦場で戦える多くの魔導士が出てくれば終わらない戦争を終わらすこともできるはずだ。
だからこの結末も決して悪いことではない。
自分自身にそう言い聞かせ…………
「ヤエト君!!」
聞きなれた声に目を見開く。
「ヤエト君、ヤエト君、ヤエト君」
何でこんなところにいるんだ? とっくにお嬢様につれられて逃げたはずだろう。
「死んじゃだめーー!」
なんでアンナがこんなところにいるんだよ!?
わからないわからない。なんでここにいる?
こんなところにきたって今のアンナにできることなんて何も無いんだぞ。
ここに来たってただ殺されるだけだ。
逃げろと叫びたい。でもその声を出すことすらできない。
そうしている間にもアンナは俺の元に駆け寄ってくる。
大声をあげて走ってくるアンナに奴が気がつかないはずも無く、傷ついた足を引きずるように向かってくる。
それでも十分に早い。アンナがここに着くよりも早くここに来るだろう。
そして俺を殺し、そのままアンナも殺すだろう。
だがそれよりも早く、アンナを追い抜いて二人が飛び出してきた。
アキラとお嬢様だ。
アキラはこぶしを握り、お嬢様は剣を構え、俺とオーガの間に立ちふさがった。
「ヤエト、まだ生きているか?」
「ヤエト、大丈夫?」
振り返ることなく尋ねてくる二人に俺はろくに返事をすることすらできない。
それでもかろうじて声を絞り出して応えると二人は安心したのが見て取れた。




