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22話

首筋めがけて振り下ろした剣はあっさりと腕ではじかれた。


何回目のことかなんかいちいち数えていないし、覚えてなんかいられない。


ヤエトに向かって襲いかかったオーガをひきうけたはいいけどまったくといって相手にならない。


動き事態はヤエトやリリエルに比べれば荒っぽい。


しかしスピードもパワーも圧倒的にオーガが上だ。

何より硬い。


何度剣で切っても皮膚しか切れない。


力を込めた筋肉が刃物を通さないなんて反則だ。


がんばって覚えた魔法もボク程度では全く通用しない。


時間があれば剣に十分な魔力を送れるかもしれない。


でも戦いながら魔力を停滞されるなんてボクにはできない。


できるヤエトは絶対におかしい。


剣術にしたってとても褒められたものじゃない。


だからこそ、ボクは剣を鞘にしまった。


代わりに取り出したのは愛用のグローブだ。


幸い支給された軍用グローブは薄手だからその上に直接かぶせる。


このグローブは殴る部分に鉄板を仕込んである特別製で、うまく当てれば熊だろうと猪だろうと倒せる。


オーガは皮膚や筋肉は硬いけれど体そのものは普通の生き物で、脳だって内臓だってある。だから刃物よりもハンマーなんかの打撃武器の方が倒しやすい。


だからオーガと戦うときは離れたところから投石機で攻撃するって教官が言っていた……たしか。


だったらきっと剣で切るよりも殴った方がいいはずだ。


拳を浅く握り、状態をやや前に倒し、踵をあげる。その上で魔力を練る。


これは魔法の練習を始めてから気がついたことだけれど、ボクの体は普通と少し違うらしい。


本来魔力は作られた先から体の外へ向かい拡散していく。そのため何もしなければ体の中に魔力が留まったりはしない。


でもボクの場合は少し違う。なぜかはわからないけれど練り上げた魔力の大半は体の外に流れていかないで一度体の内側を巡っていく。


その体を巡った魔力は最終的に両肩に集まり、体の外へと流れていく。そのおかげか肩の周りに魔力を停滞させるのは思ったよりも簡単にできた。


でもそれだけじゃない。


前へ踏み出して一気に距離をつめる。それに合わせるようにオーガの右腕を持ち上げ、振り下ろす。


その大降りの攻撃に体を外側へと逃がしつつ手を添え、受け流す。


さらに腰を落とし体を回転させながら半歩踏み込み、肘を空いた脇の下へと突き入れる。


人体の中でも筋肉の薄い急所への攻撃は基本構造が人間に近いオーガに対しても有効だ。


唸るオーガの脇を抜けて背後へまわり、しゃがむ。


頭上を風を切りながら豪腕が通り過ぎる。膝にためた力をばねにして体を跳ね上げ、顎へ拳を突き上げる。


さらに大きくのけぞり無防備にさらされた喉元に手刀を叩き込む。


もうひとつボクが他の人と違うのは魔力によって肉体が強化されることだ。


どういう体質なのかよくわからないけれどボクは体内を巡る魔力の量を増やせば増やすほど運動能力が上がる。


ヤエトが言うには本来魔力によって身体能力を上げることは理論的には不可能ではないけれど実際にはできないらしい。


というのもそもそもそのための魔法陣が無いし、仮にあったとしてもその魔法陣を直接体に刻まなければならない。しかもその上魔法を使えば使うほど魔法陣の土台である体が削られていくので自分の命を縮めてしまうのだという。


だから魔力によって肉体を強化できるのは本来体内にそのための器官を持って生まれてくる魔獣の類なだけらしい。


にもかかわらずなぜかボクは自分の体を強化できる。


もしかしたらボクの中には魔獣の血が流れているのかもしれない。ヤエトは呆れたようにそんなことを言っていた。


その力の効果はすばらしく、三メートル近くある大熊さえも倒せるだろうと自信を持っていえる。


しかしそんな攻撃を筋肉の薄い箇所で三回も受けていながらオーガは倒れることなく、少し後ろに下がっただけだ。


今ので喉ぐらいはつぶせるか思ったのだけどそんなことも無かったようだ。


むしろ殴ったボクの方が痛い。


それでも少しはダメージがあったのか、咆哮をあげて突進してくる。


でもそんな攻撃じゃボクは倒せない。


大振りの攻撃をかわして、腕をつかみ、足をかける。


仰向けにひっくり返ったオーガの喉を全力で踏みつける。


それでも喉をつぶすことも首を折ることもできなかったけれど、代わりに大きく口が開いた。


剣を抜き、その口に体重をかけて突き刺した。


切っ先が口内へと刺さる。そのまま体重をかけ続け、少しづつその深さを増していく。


その間に魔力を練り、剣へ送り込む。


発動した魔法陣により刀身が熱をだしてオーガの口内を焼いていく。


苦しみだすオーガが僕の足をつかみ引き剥がそうとするけれど、かまわず魔力を送り続ける。


停滞なんて技術は使わない。そのかわりに練り上げた先からひたすら魔力を送り続ける。


刀身の熱はどんどん上がっていき、切っ先はオーガの肉を突き破り地面へと刺さった。


地面に縫いとめられたオーガの口内を、喉を、そして肺を刀身の熱とそれによって熱された空気が焼いていく。


どれくらいの間そうしていたのか、いい加減魔力を練り上げる力も無くなったこと。オーガが死んだ。


剣から手を離し、座り込む。


オーガにつかまれていた足がすごく痛い。


歩けないほどではないけれど、もしかしたら骨に皹くらいは入っているかもしれない。


そんことよりも魔力を練りすぎたことによる疲れのほうが大変だ。一歩も動きたくない。


でもそんなことは言ってられない。


僕は今倒したオーガよりもずっと危険な敵がまだ残っている。


たぶんリリエルがあの様子ではすんなりと逃げることは難しいと思う。


だからヤエトはきっとあの敵と戦っている。


ヤエトは強い。ヤエト自身が思っているよりも、たぶんボクが感じているよりも。


でもそれでもあれに勝てるとは思えない。


少しだけ休んだら手伝いに行かないと。


二人でなら倒すことはできなくても逃げることぐらいなら何とかなるかもしれないから。




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