21話
しばらく間が空いてしまって申し訳ありません。次もなるべく早めにあげられるようにいたします。
Said リリエル
最初何が起きたのかわからなかった。
ヤエトとアキラの様子から危険な何かがいることは理解できた。
しかし全員で対処すれば問題ないと考えていた。
しかしヤエトはそれを否定し、そればかりかこれまで聞いたことがないほど余裕がなく怒鳴った。
さらに横から飛び出したオーガに驚き、思わず声を上げてしまう。
二人を助けにいこうとしてヤエトに怒鳴られた。
早くアンナとリサを安全な場所に逃がすことが私の役目だと言われてなおまだ理解できていなかった。
繰り返すがこの期に及んで私はまだ状況が理解できていなかった。
ヤエトがオーガの登場に目も向けず、森の奥をにらみ続けるのかも。
アキラがそんなヤエトに目もくれず一人でオーガと戦っているのかも。
やや困惑している私の袖が引っ張られる。
振り向けばリサが私の袖をひいていた。
だがその視線は私ではなく、オーガでもなく、ヤエトと同じで森の奥に向けられている。
「…早く逃げた方がいい」
「リサ?」
「あれは危険」
リサの手が震えている。
リサの言葉の意味を問うよりも早く、それは来た。
「−−っ!?」
一瞬吹き飛ばされるかのように感じた衝撃。
昔同じような経験をしたことがある。
あれはお祖父様に稽古を付けていただいた時だ。
稽古の締めに行った乱取りでそれは起きた。
剣を構えることなくお祖父様から放たれた、質量を伴うかと思うほどの闘気に当てられたら私は前に進むことができず、気が付けば後ろへと下がっていた。
あの時と同じ、ただそれだけで気圧される圧倒的な力。
そんな存在がこの先にいる。
そのことに私は全く気が付かなかった。
おそらくこの中で気が付いていなかったのは私とアンナだけだろう。
もしヤエトがあそこで構えていなければ、アキラがオーガを抑えなければ今頃私たちは殺されていた。
リサだってそうだ。
もし私やアンナがいなければとっくにこの場から離れていただろう。
しかし私はヤエトが奴を足止めするために森の奥に踏み込んでいくまで動くこともできなかった。
ヤエトの姿が見えなくなってからの行動は迅速に行えた。
これまでの遅れを少しでも取り戻すためにも急ぐ必要がある。
私たちがしなければならないのはまず第一にこの森から出ること。
次に奴の存在を報告し、対策すること。
今この森や近くの基地にいる兵士たちでは対応できないだろう。
他の場所から精鋭部隊を連れてくる必要がある。
そして最後にヤエトたちの救援だ。
「ねえ、ヤエト君たち大丈夫かな?」
「……ああ、大丈夫だろう」
アンナの問いにすぐに答えることができなかった。
アキラもヤエトも強い。しかしオーガは本来人間が一人で挑むような相手ではない。熟練の兵たちであったとしても最低でも小隊単位で戦う相手だ。
しかもヤエトが戦っているであろう相手の強さはそれを遥かに凌駕する。
あれは多くの犠牲を出すことを覚悟した上で戦略をたてて挑まなければならない相手だ。
とてもではないが個人が対抗できるような相手ではない。
もし私が戦ったとして時間稼ぎに専念したとしてももって五分程度だろう。
魔法の扱いに長けているとはいえ単純な剣の腕で言えば私よりも劣るヤエトでははたしてどれだけの時間が稼げるか。
無論ヤエトもそのことはわかっているはずだ。こうして私たちが退避したのだから二人とも無理せず隙を見て逃げてくれているはずだ。「……期待しない方がいい」
これまで黙っていたリサがぽつりと、呟いた。
「えっ?」
「アキラはともかくヤエトは絶望的」
はっきりと言われて思わず息を呑む。
「あれは絶対に戦ってはだめな相手。
距離があるうちに逃げる以外に助かる方法はない」
だがヤエトは自分から向かっていった。
そうすれば自分が助からないとわかっていたはずなのにもかかわらず。
きっと、私たちを逃がすために。
「くっ」
自分のふがいなさに拳を握りしめる。
もしあの時すぐに私たちが逃げていればヤエトたちも逃げれていたかもしれない。
戦場ではなにが起きるかわからない。
だからあれと遭遇してしまったこと自体は致し方ない。
だが今の現状を招いたのは他ならない私自身のミスだ。
ヤエトの言葉を受け入れず判断を誤ったのだ。
「そんなのだめ。絶対だめ!」
「なっ!?」
アンナが叫び元来た方へと走り出す。
その行動に一瞬反応が遅れた。
さらに追いかけようとする私をリサが止める。
「私たちのやるべきことは少しでも早くこのことを伝えること。
それでも追うの?」
その問いかけに考える。
すぐに答えは出た。
「追う。すまないが報告には一人で行ってくれ」
私はもうこれ以上仲間を見捨てたくない。
少なくともアンナだけは無事に連れ戻してみせる。
「……わかった、先に行っている」
そう言うとリサは私から離れ素早く森の中を駆け抜けていく。
その速さは私たちと一緒にいたときとは比べものにならない。
なんということはない。
リサにとっても私たちは足手まといだったということだ。
本当に私は未熟だ。
だがそんな私でもまだできることはある。
すでに姿が見えなくなりかけているアンナを追い、私は走り出した。




