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19話

アンナは魔法科の中であまり優秀なほうではない。


特別合格組の六人の中でも総合的に見て下から二番目だ。


そこそこ裕福な商人の家に生まれ大切に育てられてきたアンナはまず体力がなかった。


体が一回り以上小さいリサでさえ、村の仕事をこなしてきたためそれなりに体力がある。


勉強についても商人としての心得や基礎学習は身につけていても、軍事知識や地理などの知識はほとんどなかった。


本人もそのことはよくわかっていた。


だからこそ不安だったのだろう。


余りに成績がひどければ転校しなければならない。


それに二番目に近いところにいるのがアンナだった。


事実、今回の試験が決まって一番悩んだのがアンナをどうするかだった。


剣を持って戦わせるのはまだ不安だったし、弓を使うにしてもあまり練習する時間はなかった。


結局のところ魔法武器を使うことに決めたが、もしなかった場合はなるべく戦わせない方向で動くことに決めていた。


これは単純に能力の問題ではなく、経験の問題でもある。


軍人に囲まれて育った俺や幼い頃から鍛えられてきたお嬢様、狩りの経験があり森の中での行動になれているアキラとリサはある程度心構えができている。


アンナが毎日アキラとリサと一緒に井戸まで水くみに行っていること、毎日一生懸命勉強していることも知っている。


その上でなお、まだ早いと俺は感じていた。


とんだ見込み違いもいいところだ。



「もう大丈夫か?」


「うん、ごめんね」


「気にするな」



溜め込んだ不安を吐き出してひとしきり泣いたアンナを助け起こす。


恥ずかしながらもどこかすっきりした様子に安心する。



「ヤエト、兵士達から聞いたのだが、今朝の段階でこのあたりにいたゴブリンはあと八匹だそうだ」


「わかった。ならあと一回か二回だな」



残りの数から予想できる戦闘回数を考え手持ちの武器の確認にうつる。


俺の火の魔法剣はだいぶ消耗している。


燃焼一回分なら三回、二回分なら一回といったところか。

予備の改良型が残っているので問題はない。


アンナの風の魔法武器はさっきの無茶がきいたのかほぼ消えかかっている。


リサの矢も回収したが二本は魔法陣が消滅しているが未使用が一本、半減しているのが一本。


お嬢様とアキラはまだ慣れないためかあまり魔法は使っていないため、ほとんど消耗していない。


これなら残りぐらいはなんとかなるだろう。



「アンナのはもう使えないな。

リサもだいぶ消耗しているしお嬢様は後ろに下がって二人のフォローと俺たちへの指示を頼む。」


「わかった、後ろは私がしっかり見ておくから二人は前を頼む」


「了解」


隊列を組み直し、さらに進む。


八匹ということだが実際にその数通りという保証はない。


むこうも敵対する相手が入り込んでいることに気がついている可能性もある。


これまで以上に警戒しながら進むこと一時間、ようやく七匹のゴブリンを見つけた。


予定より一匹少ないがどうしたのだろうか?


ゴブリンの性質上、単独行動はあまり考えられないのだが。


どこかに隠れているのか、それともすでにここにはいないのだろうか。


あまり考えても仕方がない。


伏兵に備えてお嬢様をアンナたちのところに残し、俺とアキラで襲いかかる。


俺たちが飛び出したところで気が付かれたが関係ない。


石剣を持った一匹を袈裟切りにし、返しの一撃で喉を裂く。


次に棍棒を持った一匹を燃焼一回分の魔力をこめて、まっすぐ振り下ろし、棍棒ごと切り裂いた。


続けて三匹目とは剣で攻撃を受け流し、柄頭を顔面にたたき込む。


のけぞったところで足を払い、倒れたところで喉を突き刺す。


背後から襲いかかる四匹目を前に身を投げ出してかわし、改良型火の魔法剣を抜く。


燃焼三回分の魔力を収束させつつ、ゴブリンに向かって走る。


体勢を低くし、交差する瞬間に赤熱した剣を振り抜く。


腹部を深々と切り裂かれ息絶えるゴブリンを後目に周囲を確認する。


倒れているゴブリンの数は六匹。最後の一人はたった今アキラのハイキックを受けて昏倒したところでとどめを刺されている。


これでひとまず片付いた。


残りの一匹がどこにいるのか、どうするのかは監督役の兵士たちと相談しないと−−



「−−−−!?」



低く響きわたる地響きに、遠くからわずかに聞こえた悲鳴に剣を構える。


他のみんなにも聞こえたようで、お嬢様もアキラも、今まで後ろで見ているだけだった兵士たちも険しい目で周囲を警戒する。


俺は悲鳴が聞こえてきたと思われる森の奥を見る。


あっちにはたしかゴブリンたちを逃がさないように兵士たちか待機していたはずだ。


もし今の悲鳴が彼らのものだとするとそこに現れたのはゴブリンではない。


もっと凶悪なものだ。


そのまま誰一人として口を開かないまま時間が過ぎる。


離れていてもわかる。


この先にいる何かが放つ重圧にいやな汗が流れる。


ふいに、右の茂みが揺れ、思わず視線をずらすと正面から猛スピードで何かが飛んできた。


かろうじて剣でたたき落とし難を逃れたが、あまりの威力に思わず剣を落とすところだった。


改めて柄を握り直し、叩き落とした物を見る。


首をねじ切られた兵士の頭があった。



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