16話
明日は朝から森に向かって出立するというのにどうも眠れない。
異様なほどに神経が研ぎ澄まされ、木々の葉を揺らす風の音がずいぶんと騒がしく、肌がピリピリする。
これから何かが起こりそうなとき、時々このようになる。
その一方でそういう時ほど調子がよかったりする。
俺はベランダへ出て大きく深呼吸をする。
昼に比べて程良く冷えた空気で肺を満たし、ゆっくり吐息をはく。
同じリズムで呼吸を繰り返し、魔力を練り上げる。
一つ目はゆっくりと、手応えを探るように慎重に練り上げて、右手首の周りを囲むように停滞させる。
二つ目は一つ目と同じようになるように気を配りながら練り上げ、左手首の周りで停滞させる。
三つ目はこれまでよりも少しだけ早く、その上で形が崩れないようにだけ気をつけながら右腕へ。
四つ目は一息で練り上げ左腕へ。
両腕に二つずつ、魔力を輪っかの状態にして停滞し続ける。
思った通り今日は調子がいい。
魔力の流れがはっきりとわかる。
このまま新記録を目指してもいいがそこまでの無理は心労が激しくなる。
両腕に魔力を維持したままいつも首から下げている袋からお守りを取り出す。
そのお守りは銀の台座の上に内側に白い紋様のはいった透明な水晶が鎮座している。
その水晶に四つの魔力を収束させーーーー
「お、お仲間発見」
るはずだった魔力が拡散していく。
「ヤエトも眠れないんだろ。
少し話さねえ?」
「ああ、わかった」
やれやれこれぐらいで集中がとぎれるなんて俺もまだまだだな。
「しかしお互い意外だな。
ゴブリン退治ぐらい緊張するほどのことでもないだろうに」
「自分のことならな」
「ははは、まあそうだな。
俺もあの三人が心配だ」
まったくもって心配性だ。
「それに比べればまだこっちは楽だな。
こと戦闘にたいしてはアキラの心配をする必要がないからな」
「そりゃそうだ」
妖魔といってもゴブリンよりも熊のほうが強い。
自称熊よりも強いアキラなら問題ない。
あいつの弱点は頭だからな。
「こっちも大丈夫だと思うんだけどな。
ジジとトーラはスイが見てくれているし、カナタはあれで意外とできる。
心配するほどのことないはずなんだけどな」
レントの言葉に苦笑する。
心配しなければならないことなんてないはずなのに心配してしまう。
それは俺も同じだ。
落ち着いてやれば問題ないはずなのに、根拠のない不安が胸を締め付ける。
手に持ったままの御守りを力強く握りしめてしまう。
「……さっきから気になっていたんだけど、それなんだ?」
「これか? これも魔法陣だよ」
手に持った御守りをレントが見やすいように持ち上げる。
「マジで!? なんの魔法陣?」
「わからない」
「え?」
呆然とするレントに苦笑する。
「魔法陣なのはわかっているんだ。
でもこれまで一度も発動させられたことはないし、調べても複雑すぎて理解できないんだよ」
魔力によって精査しても魔力の流れが毎回わずかに異なりその全貌がつかめない。
「もしかして遺失武器か?」
「武器かどうかはわからないが、似たようなものだろうな」
遺失武器、シエル王国建国よりも古い時代に造られた、今では製法が伝わっていない武器のことだ。
「しかしヤエトでも無理ってそれは相当だな」
「俺なんかはまだまだだよ」
世の中にはもっとすごい人がたくさんいるはずなんだ。
俺は魔導士じゃないし、あの人だって同じだ。
本職の魔導士に比べればずっと劣る。
でもいつか、この魔法陣がなんなのか、どんな力を持っているのかを突き止めたいと思っている。




