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13話

代々騎士の家系として優れた軍人を輩出してきたアルヴァス家の次女として生まれた私は物心つく前から曽祖父や祖父から聞かされた物語に心を躍らせていた。


いつか自分も物語に登場する立派な騎士の称号を授かる軍人としてこの国に仕えたいと思っていた。


しかし父や一番上の兄に比べて私には才能というものが無かった。


御伽噺などに現を抜かし、鍛錬をおろそかにしていた三番目の兄のような体格など女の私には望むべくも無かった。


姉はそんなことよりも上に立つものとして、指揮官としての能力を磨けとよく言われた。


二番目の兄は根気よく私の鍛錬に付き合ってくれたが、私の才能の無さにはさすがに困惑していた。


それでもなんとかするべく、他の貴族がするような遊戯など一切行わず、ただひたすらに己を鍛えることに精を出してきた。


年頃の娘がするようなおしゃれなど行わず、気晴らしに行うことなど馬の遠乗りぐらいだった。




だがそれだけの熱意を、時間を鍛錬に割いたにもかかわらず、私は第一、第二の軍事訓練校に落ち、第三軍事訓練校へと送られた。


それだけでなく、魔法科などという新参の科に配属された。


しかもその理由が魔力が高いためという理由だけで。


魔法兵などという三番目の兄の好きな御伽噺などに出てきそうなものを目指せなどといわれ、しかも学友となったものの大半は第三軍事訓練校に入るにはまるで足りない能力の持ち主ばかり。


しかもその落ちこぼれの世話をしろといわんばかりの教官の言い分には温厚な私でもさすがに頭にきた。


救いがあるとすればこの科には自分とよく似た雰囲気を持つ男がいたことだろうか。


これまで私の周りにいた男など貴族としての誇りに疎く、誇りと傲慢の区別もつかないような男ばかりだった。


それに比べてその男は訓練校に入る前の一番上の兄と同じ一人の軍人であろうとする気構えが感じられた。


その男が貴族ではなく、平民の出身であったことは実に驚いた。


しかしそれでもその男が自分に近い人間であることは間違いないと思った。


親睦会でその男が自分と同じように訓練校の制服できたとき、その思いは確信に変わった。


それから少しでもこの男と話そうと、珍しく自分から積極的に話しかけたりしたが、男はなぜか私を避けようとしていた。


その男が自分とは違うのかもしれないと感じたのは休日に同じ班の少女と手をつないで市場を回っているのを見たときだ。


思い返してみれば彼はよく三人の面倒を見ていた。


私は他人の世話をしている暇があるなら自分を鍛えていたかったし、三人を育てることに僅かな興味すらなかった。


魔法陣の使い方を教え、魔力の制御方法を教え、武器の使い方を教え、軍について教えていた。


聞かれれば知っていることを次々に教えていった。


事実、彼らの実力は入学した当初と比べて飛躍的にあがっている。


それは間違いなく彼の功績だ。


だがしかし、肝心の彼の実力は一向にあがる気配がなかった。


私は自分の見込み違いだったと思うようになった。


その見方が再び変わったのは教官が持ってきた魔法剣の試作品というもののテストのときだった。


熱の魔法陣を利用したものだということはすぐにわかった。


だがそれが何だという思いしかなかった。


私も、あの落ちこぼれの三人も魔法剣を発動させたが刀身が熱くなるだけで期待できるような結果は何も無かった。


料理でもするわけでもあるまいし、刀身が熱を持ったからといって何だというのが私の感想だった。


だが、あの男は違った。


あの男が使った魔法は私たちが使うものと桁違いの力を持っていた。


それこそ、魔法陣を一度で使いつぶし、刀身すらも駄目にしてしまうほどの熱量を発生させた。


切られた的は激しく燃え上がり、その全てを燃やし尽くした。


にもかかわらずあの男はその現状に不満そうだった。それすらもあの男にとっては足りないのだと。


そして私はあの男がわからなくなった。


私が最初に思ったとおり誇り高い軍人となるべく高い志を持った男なのか、あるいは他のこれまで見てきたものたちと同じ、たいした誇りなど持たないつまらない男なのか。


だから確かめることにした。


しっかりと相対し、話をする。


そうしてあの男がどのような人間なのか見極めようとした。




結果として言えば私が愚か者だった。


自身のことを誇り高いなどと思ったこと事態が思い上がりもいいところだった。


あの男に比べれば私など取るに足らない小物だ。矮小というほか無い。


結局私は自分のことしか見ていなかったのだ。


一人前の軍人になってどうするのか、私にはたいした考えなど無かった。


ただ当たり前のようにこれまでの先祖のように騎士の称号を拝命することしか考えていなかった。


大切なのは騎士の称号を拝命することではなく、この国のために尽くすことだというのに。


結局のところ私もまたわかりやすい権威に目がいって本当の意味での誇りを理解していなかったのだ。


アルヴァス家が代々騎士の称号を得ていたのはこの国を守るために尽力してきたからなのだ。


それはあくまで結果として与えられるものであり、求めるものではない。


真にこの国を思う軍人の卵として私は未熟だった。浅はかだった。


あの男の姿こそが真にこの国の軍人として正しいのだ。


自分の住む街を守り、人々を守り、国を守る。


私たちが考えるべきことはそれであり、考えるべきはそのためにどうするかなのだ。


己の力を高めるのはその方法の一つに過ぎないというのに私はそのことばかりに固執していた。


今にして思えば兄たちや姉はそのことをわかっていたのだろう。


父や一番目の兄はいつも軍人としての心得を教えてくれた。


二番目の兄はいつも私の鍛錬に付き合ってくれ、どうすれば私が強くなれるか一緒に考えて指導してくれた。


姉はただ己を高めるだけでなく、人を使うことの大切さを説いていた。


まったくもって頭が下がる。


今ならはっきりと言い切れる。


この訓練校に来て良かった。


あの男に会えて良かった。


もしかしてあの男と出会えたことは私のこれまでの人生の中でもっとも幸運なことなのかもしれない。


ならばその幸運を大事にしよう。


明日から私もあの三人の指導に力を入れよう。


あの三人を育てるのは大変かもしれない。だが心配などする必要は無い。あきらめる必要は無い。


あの男と一緒なのだ。なんとかしてみせる。


そう、今なら何でもできそうだ。


そんな万能感と幸福感に包まれてその日は眠りについた。


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