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12話

今回から少し書式を変更しました

何故こうなった?


この状況でまず思ったことはそれだった。


放課後の教室に残っているのは俺とお嬢様の二人だけだ。


他のクラスメイトが帰った中、俺が残っているのはこのお嬢様に頼まれたからだ。


いや、あれを頼まれたというのは間違っている。


俺はお嬢様から命令されてここに残っている。


お嬢様は普段から表情がほとんど動かず、強い意思を秘めた瞳で見られると思わず威圧される。


それが貴族に対する苦手意識のせいだということはもちろん承知の上だ。


しかしそれを差し引いても今日のお嬢様は格別だ。


絶対に逃がさないと顔に書いてあった。


本気だ。

もし逃げたとしても絶対に追いかけてくる。


そう思うととてもではないが逃げる気にもならない。



「まずこうして時間をとってもらったことに感謝する」


「いえ、気にしないでください」


「そう言ってくれるとこちらも助かる」



そうしている間もお嬢様は射抜くような視線を向けてくる。



「今日こうして時間をとってもらったのは他でもない。今後のためにも同じ班員として意見をすり合わせておきたかった」


「……なるほど」


「まずひとまず私の意見を言っておく。今後あの三人の育成において私は基本的に協力するつもりは無い」


「はい?」



いや、言われてみればこれまで一度たりともお嬢様があの三人に何かを教えているところを見たことが無い。


そもそもお嬢様があの三人と話しているのを見ること自体あまりない。



「そもそもをしてものを教えるのは私たちではなく教官の役目だ。


私たちの仕事は他人を指導することではなく自分たちの能力を高めることだと私は思う」




まあ、言っていることは間違っていない。


それは俺も同じように考えている。



「無論将来において部下を育成することはあるだろう。その勉強をする必要も理解はできる。


しかしそれは今ではなくもっと実力をつけておから行うべきことのはずだ。


いまだ半人前に過ぎないはずの私たち訓練生が行うことではない」




反論のしようもない。まったくもって正論だ。俺だってあの三人がだめだったとき他の訓練校に移されるかもしれないということさえなければこうもしっかり面倒を見ようとは思わなかっただろう。


ましてや貴族でありここより下に移されることの無いだろうお嬢様にとってやる気にならないのは仕方が無いことなのかもしれない。




「特に私は自分でいうのもなんだがあまり優秀なほうではない。


それは今私がここにいることでもわかるだろう」



あー、なるほど。貴族は基本的に第一第二に入る。そこから漏れたということは試験でよい成績を残せなかったということだ。


俺ら平民にとっては第三は最上級の訓練校だが貴族にとっては最下層の訓練校だ。


ましてやこの新設で何の実績もない、このまま身を任せていいのかわからないような学科。


しかもやっていることは魔力はあっても他に問題がある落ちこぼれの指導ばかり。


魔法についての指導は基本的なことばかりだし、この前の新しい試作武器のテストなどのようなものも前回が初めてだった。


立派な軍人になるためにここに来た俺にとっても不満が無いわけではない。


俺だってもっと自分の能力を高めるために時間を割きたいと思っていた。



「私はアルヴァス家の人間として誇れるような軍人になるつもりだ。


そのためには他の者のために時間を割いている余裕などない」



そこでお嬢様は一息入れ、これまで以上に力強い目で俺の目をまっすぐに見つめてきた。



「私は、初めてこの教室で君を見たとき、自分と同じだと思った。


未来の軍人としての誇りを持ち、己の能力の研鑽を、より立派な軍人として成長するためにこの訓練校に来たのだと」



そう、たしかに俺はそのためにここに来た。


『あの人』との約束を守るため、一人前の軍人となるためにこの訓練校に入学した。


そういう意味では確かに俺とお嬢様はたしかに同じだろう。


生まれも、育ちも違っても胸に抱える一人前の軍人になるという思いは同じだろう。



「しかしここ最近の君を見てもしかしたら違うのかもしれないと思った」



これまで俺のほうを向けていた目線を伏せ、心なしか気落ちした声で言う。



「今の君は自分の力を高めるよりも周りを育てることにばかり気を払っているように思える」



お嬢様の考えは正しい。今の俺は己自身の力を高めるのと同じくらいあの三人を育てようとしている。


しかしそれは俺の一人前の軍人になるという目標をないがしろにしたものではない。


むしろ一人前の軍人になるという目標の、そのさらに先の目標を果たすために必要なことだと思っている。


それがきっと、俺とお嬢様の違い。


だからこそ、このことだけははっきりと伝えなければならない。



「俺は、これからもあの三人を育てる」


「――っ!」



お嬢様が悔しそうにしながらも顔を上げる。


きっとお嬢様は否定してほしかったのだろう。俺もお嬢様と同じ考えなのだと認めてほしかったのだろう。


だが俺の考えはお嬢様と違う。


俺とお嬢様では『一人前の軍人になる』という目標の先にある目標が違う。



「お嬢様は一人前の軍人になってどうする?」


「無論、ゆくゆくは騎士の称号を拝命し、アルヴァス家の人間として恥じぬようこの国のために尽くすつもりだ」


「……そうか」



やはり俺とお嬢様では考え方が違う。


お嬢様が一人前の軍人になるのは家のためであり、誇りのためなのだろう。


だが俺はそんなものを求めていない。



「俺は一人前の軍人になった後、故郷の街に戻る。そしてそこで街を守るために軍役に就くつもりだ」


「故郷の街に?」


「そうだ、だがそれだけじゃまだ足りない。街を守るためには俺一人がどれだけ強くなっても足りない。


もっと根本的に、この国自体が強くならなければならない」


「なぜだ? 街一つ守るのにそこまでする必要がある?」



普通ならそう思っても仕方がない。シエル王国は基本的に平和だ。


軍事大国であると同時に農業大国でもあるこの国では基本的に植えることは少ない。


たまに凶作のときもあるが一年ぐらいならば普段の備蓄で乗り越えられる。


そのため盗賊の類も少なく、大人たちは村人一人ひとりが軍人として訓練されているためそうそう被害に会うことも少ない。


森や山奥にいる妖魔は時として脅威になるが人里に出てくることはあまりない。


そう考えればたしかに街を守るだけならばこの国には十分な力がある。


ただしそれは普通の街ならばの話だ。そして俺の故郷の町は普通の町ではない。



「俺の故郷の名はデュデュカだ」


「デュデュカ……まさかあの要塞都市か?」


「そうだ」



要塞都市デュデュカ。


この国の軍人でこの街を知らないものはいないだろう。


なぜならこの国の平和はそのデュデュカによって守られているといっても過言ではない。


シエル王国東にあるクルカ山脈麓にあるこの街は山の向こうにあるシエルジェ帝国に対する最前線基地だ。


クルカ山脈において王国と帝国をつなぐ、ある程度の規模の軍隊が通れるほどのサイズの道は一つしかない。


もしその道以外を無理に通ろうとすればその山に住む妖魔や魔獣の餌食となるだろう。


結果、帝国が王国を攻めるには必ずデュデュカを経由しなければならない。


そしてそのデュデュカをめぐる小競り合いは多いときは年に数回、少なければ二三年に一回ほど起きる。


そして、時にその戦いは大規模のものとなり、多くの犠牲を出すことになる。


十年前の戦いでは俺の両親が死んだ。


四年前の戦いで『あの人』は帰らぬ人となった。


次に帝国が大規模の攻撃を仕掛けてくるかはわからない。


しかしその時がきたら多くの犠牲を出すことになるのは間違いない。



「デュデュカを守るにはこの国自体が帝国と戦う上で強くならなければならない。そのためには一人でも多くの優れた軍人が必要だ」



そのことを思えば今あの三人を育てるのもまちがいではない。



「それに最初は半信半疑だったが、魔法兵についても俺は期待している」



この前の魔法剣は良かった。


俺の全力には耐えられなかったがそれでもこれまで見てきた中ではかなり良い品だった。


あの新技術を利用し、もっと強力で耐久性のある魔法陣を量産することができるならば魔法兵も夢物語ではない。


そしてその技術が実用レベルに達したとき、あの三人が一人前の軍人として育っていればこれまでとは比べ物にならない力を持った兵ができる。


あるいはその力を俺が振るうことでデュデュカを守ることができえるかもしれない。


ましてやその魔法兵が量産されればもう二度と帝国に侵されることも無くなるかもしれない。


夢物語のように果てしなかった俺の目標も、決して手の届かないものではなくなる。


だからこそ、



「俺はあの三人を一人前の軍人として、頼れる魔法兵の一人として育てるつもりだ」



俺は心のうちを語り、一息つく。


できることならばお嬢様にも力を貸してほしかった。


俺だけでは見切れないところもあるし、少なくともお嬢様は俺よりも優秀だ。


そんな思いをこめてお嬢様に目を向ける。



「え?」



お嬢様が泣いていた。


普通に考えれば夢物語か妄想にしか思えないような俺の目標を聞いたお嬢様は呆けたような顔をしながら、両目から一筋の涙を流していた。



「え? え? どうして?」


「……いや、すまない。そうか、そうなのか」



お嬢様は慌てて涙を拭き、俺へと向き直る。



「前言を撤回する。馬鹿なことを言ってすまなかった」



いまだに状況がつかめない俺の手をとり、まくし立てる。



「私が愚かだった。私は結局自分のことしか、自分の誇りのことしか考えていなかった。


君がこの国の、もっとも危険なところでものを見て、その上で自分の故郷とこの国の行く末を考えていたというのに私は安全な場所でのうのうと自分のことしか考えていなかった。


それなのになんと偉そうなことを!」


「えっと、つまりどういうこと?」


「私もあの三人を育てることに協力する。いや、私の全身全霊を持ってあの三人を育てる。必ずだ」



あー、なんでそうなったかはわからないけど、まあ、良い方向に転がったってことでいいのかな。


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