11話
入学からすでに一月が過ぎた。
午前中は座学を中心とした授業を受け、午後は戦闘訓練などの実技訓練を重ねてきた。
特に戦闘訓練では今までまともに剣を握ったことの無い三人もそれなりにしっかりとしてきた。
特にアキラはもともと身体能力が高いこともあり、油断すると俺も一本取られかねない。
もっとも本人曰く、素手のほうが強いらしい。
まあ素手のほうが動きやすいのはわかるが実際の戦場で鎧も身に着け、剣を構えた相手に素手で勝つのは難しい。
他の仲間との連携のことも考えるならしっかりと剣術を身につけるべきだ。
本人にとっては大変かもしれないが一応は未来の指揮官候補生なのだ。
基本となる技術はしっかりと身につけておかないと。
今日の訓練ではもう一度その辺をしっかり教え込んでおかないと。
そう思っていたのだが、その日の訓練はこれまでとは違ったものになった。
「今日の訓練では新しく開発されたこの武器のテストをしてもらう」
「テスト?」
教官が手に持っているのはこれといって特徴のない普通の剣だ。
あえて言うならば普通より少し鍔が大きいことぐらいだ。
冶金技術の向上で新しい鉄でもできたのだろうか?
だとしたら良いことであるが、そのテストが俺たちに回ってくることが理解できない。
普通そう言う役目は本職の、もっと従来の剣を使い慣れているベテランが行うものではないだろうか。
「今回訓練生諸君に使ってもらうのは現在開発中の魔法兵用の新兵器だ」
「え? それが?」
「うむ、これは魔法剣の試作品で最近新しく発見された技術が使われている。
正式な完成品ができたら諸君等に支給される予定だ。
その時を少しでも早めるためにも真剣に参加してくれ」
魔法剣か、それに使われている新しい技術には興味があるな。
「各自一本ずつ受け取った後、実際に使ってみるように。
的はあそこに用意してある」
奥の方に細身の丸太に藁を巻いた物が刺さっている。
あれが的だろう。
しかしあれを使うのは少し後だ。
先にこの剣について調べなくては。
まずは鞘から抜き、刀身を調べる。
普段授業で使う物と比べて幅広で肉厚だ。
その分重量があり、アンナやリサが使うには少し重すぎる。
柄の部分には特に変化は見られない。
軍で正式採用されている物だ。
次に鍔の部分を見る。
この場所には小さく熱の魔法陣が刻まれていた。
しかし小さすぎる。
これではよほどいい素材を使わないとたいした熱量は出せない。
しかも魔法陣の中心に刀身が貫いている。
このままではまともに魔法が使えるかもわからない。
「ねえ、何も起こらないんだけど」
「今日は魔法を使う訓練だ。
手袋をする必要はないぞ」
「あ、そっか」
いそいそと手袋をはずすアキラ達をよそに俺は剣に魔力を通す。
まずは柄から、そして鍔へとのばす。
鍔の魔法陣にすっと魔力が通っていく。
だがしかし、魔法陣の中心部に近づいたとたん魔力の流れが歪んだ。
その歪み方に違和感があった。
通常魔法陣の出来が悪いときに起こる、土台に魔力が無駄に漏れていくような歪み方ではない。
きれいな流れのまま突然向きが変わったかのような歪み方だ。
もう一度確認のために先ほどよりも多くの魔力を流す。
すると今度も同じように魔力が流れ、中心近くで突然向きを変えた。
ただし今度はそこで終わらずそのまま切っ先に向かって魔力が流れていく。
なので今度は鍔だけでなく、刀身すべてまでを覆うように魔力を流す。
そこまでやってようやくこの剣に施された魔法陣の全貌をつかむことができた。
この剣には二つの魔法陣が施されている。
一つは鍔に刻まれた魔法陣。
もう一つは刀身の内側に刻まれている魔法陣だ。
たしかにこんな魔法陣は見たことが無い。
それが俺がこれをみて思った最初に思ったことだった。
通常魔法陣は真円状に描かれる。
だがこの刀身に描かれた魔法陣は楕円状に描かれている。
もちろんそのまま形を楕円状に変えただけではだめだ。
楕円状に変えるために円の内側に書かれる文様自体を新しく考えなければならない。
それだけでも驚くべきことなのにもかかわらず、この魔法陣は鍔の魔法陣と刀身の魔法陣とが重なり一つの魔法陣となっている。
そのために魔法を発動させるための魔力がその魔法陣の規模に比べて多くなっている。
おもしろい。
俺は改めて手袋をはめなおし、魔法陣に送るための魔力を練り上げる。
多少の魔力では足りない。
普段勝手に体内で作られた魔力を集めるだけでは発動させることで精一杯だろう。
それではこの剣を、魔法陣を知るには足りない。
どうせやるならば全力でやってみたい。
体内で練り上げた魔力を両手に集める。まだ足りない。
魔力を両手にとどめたまま、さらに魔力を練り上げる。
練り上げた魔力を両手に集め、さらなる魔力を練り上げる。
魔力を練り上げるという作業は体力を削る。
魔力を拡散させること無くとどめ続けるには集中力がいる。
体力を神経を削る作業を繰り返しながら、同じ作業を八回ほど繰り返す。
ここが限界だろうと思えるまで作業を繰り返して集めた魔力は膨大で、本来ならば百人がかりで発動させる魔法陣すら動かせそうだ。
それこそ以前魔法陣の店で見た幻獣を材料にした魔法陣すら発動させられるだろ。
それほどの魔力を一気に魔方陣へと流し込む。
刀身が一気に白く燃え上がる。
鍔から離れた部分を持ち、熱に強い軍用の手袋をしてでさえ柄を握る手が熱い。
しかしそれに耐え、剣を振りかぶり、的へ振り下ろす。
白熱の炎剣と化した刀身はたやすく的を切り開き、燃え上がらせる。
「――――――っ!?」
「うっわー、なにそれ!?」
それを見ていた後ろから声が上がるがそれを気にしていることなどできなかった。
ひどく熱された柄を持っていることができず落とす。
いまだ冷めることなく白熱化したままの刀身は地面に落ちた衝撃で折れてしまった。
自身の持つ高熱に刀身自体がもたず、ひどく脆くなってしまったためだ。
だが俺はそんなことよりも今の魔法陣が持つ力に歓喜と諦観を覚えていた。
歓喜はこの魔法陣の持つ力ゆえに。
これだけの力があれば相手がいかなる武器を、いかなる防具を持っていようとも一刀にて切り捨てることができるだろう。
諦観はこの魔法陣が持つ限界ゆえに。
一つは素材の耐久度。
これだけの熱量では今現在王国で使われている武器ではもう少し威力を抑えたとしても二振りしか持たないだろう。
もう一つはこの魔法陣の耐久度。
これだけの物を持ってしても俺の全力には耐えられなかった。
刃を振り上げるよりも前、刀身が白熱化した瞬間にはすでに魔法陣は消滅していた。
「ヤエト訓練生、感想を聞こうか」
呆然とたたずむ俺の隣にいつのまにか教官が来ていた。
俺が言葉に迷う間、教官は黙って待っていた。
「……魔法陣としてはこれまでに無いほどの力を持っていると思います。
しかしその魔法陣の力を発揮しようとすれば現状の金属では耐えられません。
敵が一人ならばともかく、集団戦においては現状のままでは使用に耐えられません」
あるいは軍全体がこの剣を使えるならば話は別かもしれない。
だがこの魔法陣を発動させるだけの魔力を個人でまかなえる者が果たしてどれだけいるか。
「……そうか、わかった。
今のでだいぶ疲れただろう。先に戻って休め」
「……了解しました」
俺は教官の言うとおり、先に教室に戻った。




