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10話

魔法陣の店を後にした俺は再び先ほどの市場に向かっていた。

その横をなぜかアンナがついてきていた。

「……何でついてくるんだ?」

「だってせっかくのデートだから」

「いや、違うだろう」

偶然同じ店に行く知り合いと会って一緒に行っただけだ。

「でもさっきのおじさん、ヤエト君のこと彼氏だって」

「勘違いしただけだろ」

「でも勘違いしたってことはデートだってことだよね」

「何でそうなる」

その論理の飛躍は全く理解できない。

そもそもデートってどこからがデートだ?

第八の訓練校にいるあいつらと出かけることはデートって言わないよな。

あいつらは女じゃなくて幼なじみとか妹とかいう生き物だし。

「私デートしたことないから楽しみ♪」

「だから違うって言っているだろう」

「別にいいでしょ。

それとも私とデートするのそんなにいや?」

「嫌だ」

はっきりと言っておく。

今日はいろいろと忙しい。

まず市場に行って必要な物を揃える。

その後今後の生活のためにいくつかの店に挨拶に行かなければならない。

新しい環境で俺みたいな人間が生きて行くにはいろいろと大変なのだ。

「あ、そうなんだ……

ごめんなさい。

私、そんなに嫌われているなんて思わなくて……」

やばい、泣きそうだ。

はっきり言いすぎたか。アキラみたいなタイプはともかくアンナに泣かれるのはまずい。

特にここみたいに人通りの多いところだとなおさらだ。

アンナは可愛らしい服を着て、可愛らしくアクセサリーや髪を整えた普通に可愛らしい年相応の女の子だ。

そんなアンナを泣かせたのを見られたら間違いなく良くない噂が立つ。

第三の在学期間は二年。

その間街の人々から白い目で見られるようなことになれば生活に支障が出る。

それは避けなければ。

「え?」

俺はアンナの手を優しく握った。

「勘違いするな。別に嫌いな訳じゃない」

「……本当?」

「ああ、本当だ。

ただ今日はいろいろと行かなきゃならない場所があるんだ。

だからあんまりゆっくり遊んでいる時間はないんだ」

「そうなんだ」

「だから……デートとやらは午前中だけにしてくれ」

くっ、なんで俺がこんなことを言わなければならないんだ。

しかし効果はあった。

さっきまで泣きそうだったアンナはとても嬉しそうに笑って、

「うん♪」

と返事をした。

その笑顔に少しだけ、本当に少しだけ胸が高鳴った。



俺とアンナが向かったのは市場の中でも細工物や加工品を扱っている場所だ。

目的は魔法陣の土台に使う木材だ。

街の木材屋ではなく市場に足を運んだのはここのほうが安いからだ。

というのもここにある木材は基本的に二級品、つまり売れ残りの品だからだ。

本当にいい物は全て街の木材屋に持ち込まれている。

しかし俺の作る魔法陣はあくまで消耗品、つまりそこまでいい木材を使わなくても問題ないのだ。というわけで俺たちは木材を見て回っているわけなのだが…………

先ほどからちらちらと向けられる視線が痛い。

その原因はアンナにある。

より正確にはアンナに繋がられたままの手にある。

あの後から俺の片手はアンナに握られたままだ。

とても恥ずかしいのだがとても嬉しそうなアンナを見ていると引き離すこともできない。

そういえばアンナはいつ手袋をはずしたんだろうか?

魔法陣の店に行く前はしてたはずだが。

「あ、これかわいい」

アンナが止まったので俺も止まる。

目の前には木の実や石を利用して作られたアクセサリーが並べられていた。

どれも10ミリリルから30ミリリル程度の安い物であるが一つ一つが手間暇をかけて作られている。

アクセサリーの他にも売り手の商人の故郷の村で作られたのであろう品物が並べられている。

その中でオレが目を留めたのはやはり木材だ。

さほど長くはないがぱっと見では特に痛んでいるところも見えない。

実際に手にとって見させてもらっても特に問題は無いように見える。

「そいつは余った分で持ってきたんだけどね。

この街の木材屋じゃ短すぎて買い取ってもらえなかったんだ」

「値段は?」

「80ミリリルでどうだい?」

短いが太さはある。

この一本で先ほど売った魔法陣と同じものが十枚ぐらいは作れるだろう。

それを考えればその値段は悪くない。

わかった。

オレがそう答えようとしたところでアンナが口を挟んできた。

「ねえおじさん、これとこれも買うからもう少し安くして」

「そうかい、だったら70でいいや」

「わーい、ありがとう」

そう言ってアンナは銅貨を渡し、二つのアクセサリーとお釣りをもらっていた。

「次行こう」

「あ、ああ」

そのまま俺とアンナはその場を後にした。


「さっきは驚いたな」

俺は木材の分の金額をアンナに渡し、先ほどのことを思い出していた。

「何のこと?」

「さっきの値切りのことだよ」

あの金額は俺にとって許容できるものだったし、街の木材屋であの量だけを買おうとするともう少し値が張ったはずだ。

そのため値切ろうとは思わなかったし、仮に値切ろうとしても交渉に時間がかかっただろう。

「えー、だって物はできる限り安く買うべきだって私は教わったよ」

そういえばアンナは商人の娘だった。

「しかし俺のほうよりも自分のほうを値切ったほうが良かったんじゃないのか?」

「え? なんで? こんなにかわいいのに」

「その理屈が俺にはわからないよ」

「あのね、価値あるものにはきちんと値をつけないといけないの。

こんないかわいいものを値切るなんて絶対にありえないよ」

「ああ、そうか」

価値あるものには、か。

まあその理屈はわからないでもない。

ただまあ、俺にはアンナの買ったアクセサリーにそこまで価値があるとは思えないんだけどな。


その後俺とアンナは昼食をとったところで別れ、俺は他の用事を無事に今日中に済ませることができた。

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