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1話

真新しい制服を身にまとい、姿見にうつす。

新緑に染め上げられた生地は繊維の一本一本が強靭で切れにくい。

その上通気性は高く過ごしやすい。

過酷な環境下での活動も視野に入れて作られているため軽量で動きやすい。

新品の服など普段着る機会などないため少し変な感じだが、夢にまで見たこの服を着れた喜びに比べれば些細なことだ。

王立第三軍事訓練校の制服。

大陸有数の軍事大国であるこのシエル王国においてこの制服は平民の若者にとっての憧れである。

法律によって徴兵制の一巻として特定年齢における軍事訓練校への入学を義務付けられている。

その中で第一と第二の軍事訓練校は貴族階級の子弟しか入学できないため、第三軍事訓練校は平民の中ではもっとも位の高い訓練校となる。

もちろん卒業後の進路においても融通がきく。

そのため入学のための試験も厳しく、定員は300人。

第一と第二から漏れた貴族も入るため実際にはさらに少なくなる。

そうして厳しい試験をくぐり抜けた者だけが着ることが許されるのがこの制服なのだ。


「ヤエト、そろそろ行こう。

早めに教室を確認したいんだ」

「おう、今いく」


残りの荷物はあとで新しい宿舎のほうに運んでもらえる手はずになってため必要最低限の荷物だけをまとめ、ここ数日世話になった宿を後にする。

外では同じように第三軍事訓練校の制服を着たクロウがいた。

クロウはオレと同じ街で一緒に育った幼馴染で共に試験に合格した仲間でもある。


「それにしてもお互い無事に受かってよかったよ」

「またそれかよ、これで何度目だ?」

「はは、そうなんだけどね。この制服を着ると改めて思うんだ」


まあ気持ちはわかる。俺もこの制服を着て改めてここまで来たと思う。

ただまあひとつ問題がないわけでもない。

俺の制服とクロウの制服では一点だけ異なる部分がある。

それは左胸の位置に刺繍された徽章だ。

この徽章はこれから俺たちが配属される学科を記している。

クロウの剣と盾の徽章が意味するのは歩兵科。最も多くの訓練生を迎える学科で戦場の主役である歩兵を育てる学科だ。

歩兵科を卒業した生徒の多くが小隊長、あるいは中隊長として軍に入ることになる。

それにたいして俺の徽章は真円の中に反転させた二種類の三角形が重なり合っている。

今年から新設された魔法科という学科の徽章なのだが、いまひとつよくわからない。

少なくとも常識的に考えて戦場における魔法の役割は少ない。専門的な教育が必要なこととなるとそれは軍人ではなく学者の役割だ。

わざわざ訓練校で専門の学科を作り教育する必要はない。


正門をくぐり抜けたところでクロウと別れ、魔法科の校舎へ向かう。

制服と共に支給された地図によると他の校舎が東側にあるのに対し魔法科だけは西側にある。

わざわざ他と隔離されているように見えるのも不安を感じる理由の一つだ。


校舎の中に入り、案内に従って教室に入る。

中にはすでに六人の訓練生がいた。

席が決められているようで俺の席は窓側の一番前だ。

教室にいる顔ぶれを見ていると、知った顔が一つあった。

その顔を見た瞬間、この学科に対しての不安と不信感が一気に膨れ上がった。

「どうかしたのか?」

いきなり眉間にしわを寄せたのを見た隣の席の女が声をかけてきた。

「いや、何でもない」

本来ならばこの場にいるはずがないそいつから目をずらし、隣の席へ目を向け、息をのんだ。

頭の後ろでまとめられた艶やかで長い黒髪。

目鼻の整った顔立ちにすらりと伸びた背筋。

そのたたずまいからは普段目にすることの気品と言うもの感じた。

そして何より胸元につけられたら紋章が自分とは別種の人間であることを物語っている。

貴族だ。

先ほどの奴とは別の意味でこの場にいるはずがない存在に俺は混乱していた。

この第三軍事訓練校に来る貴族は基本的に騎兵科に配属され、一部の志願者が歩兵科に配属される。

少なくともこんなよくわからない学科に配属されるはずがない。

配属されるとすればこの学科がよほど期待されているか、とてもそうは見えないが彼女が余りにダメなのかのどちらかだ。

「ふむ、私はリリエル・アルヴァス。

君の名は?」

「あ、ああ、はい、俺はヤエトです。よろしくお願いします」

「よろしく、ヤエト。それからそんな無理に畏まらないでいい。

確かに私は貴族だが継承権があるわけでもないし、これから二年ほどともに過ごす仲間だ。

気軽にリリエルと呼んでくれていい」

呼べるか!

俺みたいな平民どころか貧民階級の人間がそんなことをすれば不敬罪で首がとぶ。

しかしだからといって反抗すればやはり首がとびかねない。

とりあえずこの場は適当に誤魔化すとして今後どうするかは考えないとならないな。

生きて無事に卒業するために。


その後、やってきた教官から敬礼のしかたについて指導を受けた後、講堂へ赴き入校の訓辞を受けた。

しかし本当に驚くべきことはこの後に待っていたのだった。

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