カフェ。その2
「あ、ほくろ先輩」
「今日もせくしぃな泣きぼくろですね」
新たなストレス解消先を見つけたあたしたちは、くるっと標的をお互いから声の主へと替えた。
「うるせえぞ凸凹コンビ」
身長の高いあたしとちまっこい千歳とじゃ、確かに並ぶと凸凹だけどね。
「逆だ。身長じゃなくて胸のぐぁッ……!」
「……ふん。セクハラで訴えるぞ、ほくろ」
セクハラ野郎に綺麗なストレートをお見舞いして、千歳に視線を戻す。
と、自然にあたしの視線は、千歳の顔から少し下の方に行ってしまう。
「……」
う、うらやみゃしいなんて思ってない!
千歳のが体格に比べて大きいだけなんだから!
あ、あたしだってふつうだもんっ!
それに時代はスレンダーなんだっ!
心の中でほくろ野郎と、ついでに千歳もこーげきしていると、今度はカフェの似合うような男の人の声がした。
「竜、席取ったよ……、あっと、蒼ちゃんに千歳ちゃん。こんにちは」
「あ、おーじ先輩」
「今日も綺麗ですよ、王子先輩」
「あはは、ありがとー。でもやっぱり王子先輩て恥ずかしいよ。貴美也って下の名前で呼んでくれる?」
「はーい、きみや先輩」
学園の王子様こと、本名王子貴美也。
名前がぴったり過ぎ。しかも実家がお金持ちで、本人もa.a.ランクDの秀才で美男子とか。
天は二物を与えてる。
「貴美也先輩、どうしてここに? あ、香坂先輩と待ち合わせですか!」
千歳が目をきらきらさせて聞いた。
千歳、乙女モード。
「ううん、華夜は来ないかな。今忙しいみたい」
「そうですか……」
乙女、消沈。
見たかったのは分かるけど。王子先輩と香坂先輩は、学園一の美男美女カップルだもんね。
「今日はこいつがホットケーキ食いたいとかぬかしやがったんだ。……にしてもだいぶ扱いちがくねえか、俺と」
ほくろ野郎が復活していた。
こっちもモテるのが気に食わない。強いのは認めるけどさー。
「だっておーじ先輩だし、片やほくろだし」
「ああ? てめぇ……」
「あ、紅葉ちゃん。そーか、デートだったのか」
「おい……」
さくっと話題転換して、乗りだしてきたほくろ先輩を避ける。
ととと、って可愛い子が小走りに近付いてきた。
紅葉ちゃんだー。
かの香坂先輩の妹で、なんとこのほくろ野郎の彼女さん。
初めて聞いた時は驚いた、ほんとに。
泣きほくろのくせに彼女作るとか。こんなかわいー娘捕まえるとか!
……なーんて。
泣かせるって分かってて、しょーじき失望した。
「竜先輩っ、お待たせしましたっ!」
「待ってねえよ全然」
「そうですか、良かったぁ。……はわっ、蒼先輩に千歳先輩っ! こんにちはっ!」
元気いっぱい、ぴょこんと頭を下げる紅葉ちゃん。ポニーテールが合わせて動いた。
「こんにちは、紅葉ちゃん」
「よっ、紅葉ちゃん」
うん、かわいい。
「じゃあ、僕たちあっちに席取ったから。お邪魔しちゃってごめんね? またね」
王子先輩がそう言って、三人と別れる。
「いいえ、全然です」
「しーゆーあげん、ですよー」
王子先輩にあいさつして、ほくろは無視。紅葉ちゃんに手を振る。
今度ショッピング行こーねー。