おはよう。
「……ふあぁ」
ぼーっとした頭のまま、ぺたぺたと洗面所まで歩く。
じゃぼーっ、て水道の水をいつもよりぜいたくに出しちゃうのだ。
ぱしゃぱしゃ。
「ぷはぁっ」
覚醒っ。
勅使河原蒼弐等訓練生、目が覚めましたっ!
備え付けの鏡に向かって、ぴしっと敬礼。
鏡の向こうでは、まるであたしみたいな顔した女の子が敬礼を返してる。
あたしが笑うと、その子も笑った。
体調がいいのだー。
体が軽いのだのだー。
「ぜっこーちょー、ってやつですな」
足取りも軽く、ベッドルームに戻る。
「うーむ、やはりいつ見ても最高にかわいいですな、千歳の寝顔は」
ふむふむ、とあごをさすって何度もうなずいてみたりして。
いつもなら千歳は、あたしが起きだした気配で目を覚ますんだけど、今日はちょっとおねぼうさんみたいだ。
まあしかたないね!
昨日の夜はちょっとアツかったからね! お疲れだよね!
おふろではのぼせちゃったんだし、うん、しかたないしかたない!
千歳の寝顔がちょっと赤いのもそのせいかな!!
あはっ。
それはそれとして。
壁掛けのアナログ時計は、7時の5分前を示している。
いそがなくては。あさごはんに遅れちゃう。
ちとせー、おきろー。
ゆさゆさ。
ほらー、ちとせー。
おきろー。あさだぞっ。
ゆさゆさ。
「……んぅ、……やぁあ」
やーじゃないでしょ、もう。
かわいいけど。
ねぼすけさんのちとせ、すんごくかわいーけど!
「……ぁお、ちゃ、……んー」
なーにー。
「んー」
んー?
こてっ、と首を傾げつつ、千歳に顔を近づける。
どうしたー。
「んー」
がばっ、と。
千歳の両手が、触手のように、食虫植物のように、あたしに絡みついてきて。
「んっ……」
「ちょ、……ぁっ」
「…………」
「っ…………」
「……ぷは」
「はぁっ……はっ……ちょ、ちとせ」
「……ん?」
ぺろり、と。千歳の真っ赤な舌が、千歳の唇を濡らす透明な液体を、艶めかしく舐め取るのを見てしまった。そうしてあたしは、一瞬、硬直してしまう。あたしの背筋を、冷たいだけじゃない何かがぞわっと駆け上がった。
「なぁに、あおちゃん?」
ちょ、だから、
「んー?」
ち、近いってば。
「いーじゃん」
いい、けどさ。いまは良くないというか、その。
「むぅ」
視界の端の隣のベッドに、千歳愛用の目覚まし時計が見えた。7時じゃすと。
「ほ、ほら、あさごはんっ、まにあわなくなっちゃう!」
「…………」
「……ち、ちとせ?」
「うん、わかったよ。……おはよう、あおちゃん」
「お、おはよ。ちとせ」
悪魔みたくきれーな笑顔で、千歳は朝の挨拶をしてくれましたとさ。