おふろ。その3
首の後ろのあたりがあったかい。
しかもふにふにしててやーらかい。
「……うーん」
目を開けるのが億劫。瞼ってこんなに重かったっけー。
「あおちゃん、気がついた?」
「……ち、とせ?」
一気に意識を覚醒させる。
目を開くと、千歳の心配顔があたしの視界を埋めた。
うへ、なにか心配させるよーなことしちゃったかな。
千歳が、ほっと息を吐いた。
「よかった、あおちゃん。……あ、ちょっと待っててね。お水汲んでくるから」
「うん……」
あたしの頭が持ち上がって、ぽすんとベットの上におりる。
ごそごそと移動した千歳が、視界から外れる。
視線だけでそれを追いかけて。
ちょこちょこと歩く千歳をぼんやり見やりながら。
あー。あたし今まで千歳にひざまくらしてもらってたのかー。
「はい、あおちゃん。お水。起きられる? 横になってたままのほうが良い?」
「うー……。このままのがらくかも」
「はいはい。いいよあおちゃん。寝てて」
「うん」
「はい、ストロー。飲める?」
「だいじょびー」
顔のそばまでコップを近づけてくれたから、顔だけ千歳のほうを向いて、ストローをくわえる。
ちう。
こくこく。
ありがとー千歳。
徐々に状況がわかってくる。
どーやら、あたしは。恥ずかしいことに。のぼせすぎて倒れちゃったみたい。
「そーだよ。あおちゃん、気がついたら沈んでるんだもん。びっくりした」
それで引っぱり上げてベットまで運んでくれた、と。
ごめんよー千歳ありがとー。あいしてる。
「やだ。心配したもん」
ふくれてそっぽ向く千歳かわい……じゃなくて。
心配させてごめんなさい。気を付けるから。もうしない。
「ほんとにびっくりしたんだよ。怖くなったの。あおちゃん返事してくれなくなっちゃったから」
うん。ごめん。
どーにも貧血で血が足りないけど。
手を伸ばすくらいなら、だいじょうぶかな。
千歳の頭を撫でる。
「心配させてごめん」
「もうしない?」
「しない。約束する」
「なら許す」
「ありがと、千歳」
千歳の髪の毛に、あたしの指が触れている。
口の中に記憶がよみがえる。
お湯の味と、少しリンスのにおい。そして千歳の味がした。
……千歳の味って、変態ちっくだなあ。
せっかくだし聞いてみるかー。
ねー千歳。あたしの髪の毛、どんな味だった?
「……ふぇっ?」
おふろ上がりだからか、千歳は、ちょっと顔が赤い。
きっとあたしも、ちょっと顔が赤い。湯当たりするくらい入ってたんだもん、まだ熱っぽくったって当然だよ。
「えっとね、……あおちゃんの味がした」
ちう。
ストローで水を飲む。
ちょっと痛いくらいに、冷たかった。