自己啓発男
あきらには少し変わった友がいた。
中学のころからの友達で、大学に入ってから少し疎遠になったが、今でも時々こうして会っている。
今日はなにやら大事な話があるということで、いつもと違う、少し高級な喫茶店に来ている。
「なあ、あきら、聞いてくれよ」
毎回こんな調子で話しかけてくる。
「この前読んだ本に、俺の人生を変えることが書いてあったんだ」
またか、と思った。
こいつはいわゆる自己啓発にはまっている痛いやつだ。それも中学のころからはまっている。
中学生特有のそれかと思っていたが、そうでもないらしい。遺伝子レベルでそういうものが好きなやつなのだ。
そういうやつは基本的に嫌いだ。特に人に勧めるやつは、痛いやつを通り越して、なんというか軽蔑すらする。
だが、こいつだけは例外だ。
自己啓発にはまっていること以外はめちゃくちゃいいやつだし、自己啓発の話をされても、なぜか嫌な気がしない。
……少しは嫌だが。
「それで、何が書いてあったんだ?」
「『あなたが行動する勇気』って本だったんだけど、なんて書いてあったと思う?」
毎回こんな感じで聞いてくるときは、少し面倒くさいと感じる。
ただ、輝いた目で聞いてくるから、なんというか、なんとも言えない気持ちになる。
「なんだろ? わかんね」
そっけなく質問に答えると、今度は意気揚々とその本の内容をしゃべるのがいつものことだ。
「行動するって書いてあったんだ」
「それでな、いつも不思議に思っていたんだ。こんなに本を読んでいるのに、俺の人生はなんで変わらないのか? ってな。それでこの本を読んでわかった。俺は行動していなかったんだ」
開いた口がふさがらなくなりそうだったので、口を開けないことにした。
今まで散々話を聞かされてきた。
朝にランニングするとか、寝る前に水を一杯飲むとか、そんなことを話していたのに、それすら行動していないということか。
あきれた。
「それで俺は、これから本で読んだことをすべて実践する」
「そして社長になるんだ」
「そうか」
その後は大学生活のことで談笑しながら、料理を楽しんだ。
一年後、LINEの通知が来ていた。
「あきら、俺、社長になったよ」
社長になったといっても、会社を立ち上げることは簡単だ。少しの金と時間と頭があれば。
とはいえ、最初と比べたらすごい進歩だ。
続いて、さらにメッセージが来た。
「記事にもなったんだ」
「ん?」
URLも送られてきたから、それを開いてみると、「若き社長、年商10億」という文言が書かれた記事があった。
……
「お前、行動だけが足りなかったんだな」




