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自己啓発男

作者: かちこち
掲載日:2026/10/19

あきらには少し変わった友がいた。


中学のころからの友達で、大学に入ってから少し疎遠になったが、今でも時々こうして会っている。


今日はなにやら大事な話があるということで、いつもと違う、少し高級な喫茶店に来ている。


「なあ、あきら、聞いてくれよ」


毎回こんな調子で話しかけてくる。


「この前読んだ本に、俺の人生を変えることが書いてあったんだ」


またか、と思った。


こいつはいわゆる自己啓発にはまっている痛いやつだ。それも中学のころからはまっている。


中学生特有のそれかと思っていたが、そうでもないらしい。遺伝子レベルでそういうものが好きなやつなのだ。


そういうやつは基本的に嫌いだ。特に人に勧めるやつは、痛いやつを通り越して、なんというか軽蔑すらする。


だが、こいつだけは例外だ。


自己啓発にはまっていること以外はめちゃくちゃいいやつだし、自己啓発の話をされても、なぜか嫌な気がしない。


……少しは嫌だが。


「それで、何が書いてあったんだ?」


「『あなたが行動する勇気』って本だったんだけど、なんて書いてあったと思う?」


毎回こんな感じで聞いてくるときは、少し面倒くさいと感じる。


ただ、輝いた目で聞いてくるから、なんというか、なんとも言えない気持ちになる。


「なんだろ? わかんね」


そっけなく質問に答えると、今度は意気揚々とその本の内容をしゃべるのがいつものことだ。


「行動するって書いてあったんだ」


「それでな、いつも不思議に思っていたんだ。こんなに本を読んでいるのに、俺の人生はなんで変わらないのか? ってな。それでこの本を読んでわかった。俺は行動していなかったんだ」


開いた口がふさがらなくなりそうだったので、口を開けないことにした。


今まで散々話を聞かされてきた。


朝にランニングするとか、寝る前に水を一杯飲むとか、そんなことを話していたのに、それすら行動していないということか。


あきれた。


「それで俺は、これから本で読んだことをすべて実践する」


「そして社長になるんだ」


「そうか」


その後は大学生活のことで談笑しながら、料理を楽しんだ。


一年後、LINEの通知が来ていた。


「あきら、俺、社長になったよ」


社長になったといっても、会社を立ち上げることは簡単だ。少しの金と時間と頭があれば。


とはいえ、最初と比べたらすごい進歩だ。


続いて、さらにメッセージが来た。


「記事にもなったんだ」


「ん?」


URLも送られてきたから、それを開いてみると、「若き社長、年商10億」という文言が書かれた記事があった。


……


「お前、行動だけが足りなかったんだな」

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