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ハイポストの夏

春。

県立・青嶺せいれい高校の桜は、風が吹くたびにグラウンドへ散っていく。


その花びらを見上げながら、一年生の浅倉あさくら みなとは、自分の長い手足を持て余していた。


小学校の頃、湊の身長はクラスでも後ろから数えた方が早かった。

「チビ湊」なんて呼ばれ、体育では埋もれ、好きだった女子には「弟みたい」と笑われた。


だが中学に入ってから、身体は急に変わった。


一年で十センチ。

二年でさらに八センチ。


制服はすぐ短くなり、昔見上げていた友達を見下ろすようになった。

けれど、背が伸びても中身は変わらない。


自信のないまま、高校生になった。


そして——。


「お前、バスケ部入れ」


入学式の翌日。

体育館前でそう声をかけてきたのが、二年生の倉本くらもと 蓮司れんじだった。


青嶺高校バスケ部のエース。


短く刈った髪。鋭い目。

なのに笑うと子供みたいな顔になる。


「いや、俺バスケやったことないんで」


「でもデカいじゃん」


「その理由だけ?」


「十分だろ」


そう言って蓮司は笑った。


湊は昔から、何かに本気になるのが怖かった。

どうせ自分には無理だ、と先に諦める癖があった。


だが、その日の体育館は妙に熱かった。


床を鳴らすシューズ音。

ネットを揺らすボール。

汗。声。衝突音。


そこには、自分の知らない“青春”があった。



最初は悲惨だった。


ドリブルは腰より高い。

レイアップはリングに届かない。

パスを取れば顔面にぶつける。


一年生の西尾にまで笑われた。


「浅倉って、鹿みたいだな」


「うるせぇ」


だが、湊には一つだけ武器があった。


リバウンドだった。


跳ぶタイミングだけは、なぜか感覚で分かった。

落ちてくるボールの位置が見える。


「……お前、それ才能だぞ」


顧問の早乙女が初めて真顔で言った。


その日から、湊は毎朝六時に体育館へ来るようになった。


シュート百本。

フットワーク。

スクワット。

居残り練習。


誰より不器用だから、誰よりやるしかなかった。



夏。


青嶺高校は県大会ベスト8まで勝ち上がっていた。


次の相手は、絶対王者・私立黒曜学院。


全国常連。

スター選手だらけ。

観客席も相手校の応援で埋まっている。


試合前、蓮司が言った。


「ビビってるか?」


湊は少し考えてから答えた。


「……めちゃくちゃ」


「だよな」


蓮司は笑った。


「でもさ、高校の三年間なんて一瞬だぜ」


体育館の照明が白く光る。


歓声。ブザー。

汗の匂い。


蓮司はコートへ向かいながら、振り返らずに言った。


「だから、今日くらい本気でやれ」



試合は圧倒された。


黒曜学院の速攻。

正確なスリー。

強靭なフィジカル。


前半終了時点で18点差。


観客席からは「終わったな」という空気が流れていた。


だが後半。


湊は吹っ切れた。


ルーズボールへ飛び込み、

何度も床に叩きつけられ、

泥みたいに汗を流しながら、リング下で跳び続けた。


気づけば、観客席がどよめいていた。


「あいつ誰だ?」


「一年らしいぞ」


「リバウンド全部取ってないか?」


残り30秒。


2点差。


最後のシュートが外れた瞬間、湊は誰より高く跳んだ。


指先に触れたボール。


そのまま押し込む。


ブザー。


歓声。


体育館が揺れた。



試合後。


床に寝転がった湊へ、蓮司がペットボトルを投げてよこした。


「お前さ」


「……はい」


「もう初心者じゃねーよ」


湊は天井を見上げた。


小学生の頃には、見えなかった高さだった。


けれど今は、少しだけ届きそうな気がした。

読んでいただいてありがとうございます。

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