そして俺達は仕方なく冒険に旅立つ
台所は、もはや原形を留めていなかった。
壁も床も血と瘴気に染まり、
力尽きた熟女たちが折り重なるように倒れている。
中央には――
床にめり込んだまま、白目を剥いて沈黙する人妻が一人。
その惨状のど真ん中に、
あまりにも場違いな存在が立っていた。
水色髪のポニーテール。
可憐な笑顔。
……ただし、
手には血糊まみれの猪の丸干し。
「さぁ〜て、さてさてぇ〜」
少女は、くるりとこちらを向いて微笑んだ。
「皆いなくなっちゃったし……
お嫁さんは、アタイで決まりかな?」
そう言って、
何の躊躇もなく俺に抱きついてくる。
……近い。
血の匂いがする。
「そ、そうだな……
ハーレム一人目は、お前に決定だ!」
多少――いや、かなり情緒が危うい気はするが、
可愛いは正義だ。
可愛いから、いい。
「やったぁ〜♪」
満面の笑み。
……その直後。
「なりませぬ……
なりませぬのじゃ……」
低く、粘つく声。
見ると、村長が立っていた。
顔が引き攣り、全身を小刻みに震わせている。
「そ、そんな小娘を嫁にするくらいなら……」
一歩、また一歩と近づいてくる。
「このワシを――
ハーレムに入れてくだされ!!」
「……は?」
意味が分からない。
だが、
本能が全力で警鐘を鳴らした。
――まずい。
鑑定。
Lv1だったはずの数値が、
500、1000、10000……と、異常な速度で跳ね上がっていく。
空気が、歪む。
「架様のお嫁さんになるのじゃぁあああ!!」
村長が、
人間とは思えない速度で飛びかかってきた。
――死ぬ。
そう直感した瞬間、
俺は全力で逃げ出していた。
扉を蹴破り、外へ飛び出す。
その瞬間――
世界が、変わっていた。
村全体が、
黒く、まがまがしいオーラに包まれている。
家の周囲には、
左手に真っ赤な包帯を巻いた村人たち。
……多い。
ざっと見て、三百人。
「「「ふふふふふ……」」」
次の瞬間。
「「「私たちに逆らおうなんて、
百三十八億年早いのよ!!」」」
三百人が、
同時に喋った。
背筋が凍る。
村人たちは一斉に包帯をほどき、
瘴気を噴き上げる。
鑑定。
【女神託】
――女神が憑依し、自由に操る。
……スキル?
いや、どう考えても呪いだ。
引きこもっていれば安全だと思っていた。
だが違った。
女神は、
真綿で首を絞めるように、
じわじわと村を“改造”していたのだ。
俺を追い出すために。
……なるほど。
「仕方ねぇな」
剣を構える。
「クソ女神の思い通りにしてやるよ!!」
「勇者ビィィィーム!!」
一直線に道が穿たれる。
俺は、その隙間を全力で走った。
「待ちなされぇえ!!
架様ぁああ!!」
背後から、村長。
鑑定。
【架様LOVE】
――想いが強いほど、能力が暴走的に強化。
……悪意の塊か。
「クソ女神……
いつか必ず、ぶっ殺す」
そう誓った、その時。
「架様〜!!
アタイも連れて行ってぇ!!」
声。
振り返ると、
少女が村長の頭にしがみついていた。
「愛の鉄槌!!」
――ゴンッ!!
猪の丸干しが炸裂。
村長は地面に叩き潰され、
ぴくりとも動かなくなる。
鑑定。
【愛の鉄槌】
超ダメージ+一定時間行動不能。
……便利すぎる。
少女はその勢いのまま跳び、
俺の背中にしがみついた。
「これからよろしくね!」
「……あぁ」
俺は少女を背負ったまま、
村の出口へ向かって走り続けた。
背後で、
狂気と女神の気配が渦巻くのを感じながら。
こうして俺は――
クソ女神の陰謀により、
否応なく冒険の旅に出ることになった。




