台所の血みどろ最終決戦!!
「キャアアッ!!」
「ぐはっ……!」
悲鳴と、肉の潰れる鈍い音が同時に台所に響いた。
熟女の一人が、人妻の左手に掴まれた瞬間、
内臓を押し潰されたように血を吐き、床に崩れ落ちる。
「やったわね……!」
「「「今こそ、左手に眠りし邪悪な力を解き放つ時よ!!」」」
それが合図だったかのように、
熟女たちが一斉に左手の包帯をほどいた。
――どくん。
耳ではなく、
空間そのものが脈打った気がした。
音はない。
だが確実に、台所の“密度”が変わる。
黒く、粘ついた気配が、
床から、壁から、天井から――
ゆっくりと染み出してくる。
息を吸うたび、
喉の奥にぬめっとした違和感が引っかかり、
空気が肺に入るのを拒んでくる。
「せっかく安全のために包帯を配ったのに……!
やめるのじゃ! 本当にやめるのじゃ!!」
村長の悲鳴は、
瘴気の重さに押し潰され、ほとんど届かなかった。
「ご飯よこせぇええ!!」
「キャアアッ!!」
「ぐはっ!」
「キャアアア!!」
狭い台所で、凄惨な乱戦が始まった。
村人Lv1とはいえ、全員が元・勇者。
包丁、鍋、まな板、何もかもが凶器になり、
血と瘴気が混ざり合って空間を汚染していく。
――誰かが言っていた気がする。
台所は、主婦の戦場だと。
……たぶん、気のせいじゃない。
やがて、最後の一人が膝をついた。
「そ、そんな……
“はじめての村の女豹”と呼ばれた私が……ぐはっ……!」
人妻が、その首を掴み、
力なく床へと叩き伏せる。
……女豹って称号、
本当に戦闘力と関係あったのか?
「ふふ……ふふふふ……」
人妻は立ち上がり、
全身から異様な闘気を放った。
「ふははははは!!
さあっ、早くアタシに――
GOHAN をよこしなさい!!」
狙いは、俺の手元。
俺が齧っていた、
猪の丸干し。
人妻が飛びかかってくる。
呪われた左手が、一直線にこちらへ――。
――終わった。
そう思い、目を閉じかけた、その瞬間。
「おっかあ!!
架様は、アタイのものよ!!」
――ズゴォンッ!!
爆音と衝撃。
人妻の体が、
信じられない速度で吹き飛ばされた。
目を開けると、そこに立っていたのは――
猪の丸干しをフルスイングで振り抜いた、
水色髪のポニーテールの少女だった。
「キィィイ!!
キサマァァ!!
母であるアタシに逆らう気かァ!!」
人妻は、あり得ない角度に曲がった首を
ゴキゴキと鳴らしながら立ち上がる。
「おっかあは、ご飯が食べたいだけでしょ!?
アタイは違うの!
アタイは――架様を愛してるの!!」
「……!」
言い切ってから気づいたのか、
少女は顔を真っ赤にして、もじもじした。
「きゃ……言っちゃった……」
「……お前、そんなに……」
人妻は一瞬、
感動したかのような表情を浮かべ、少女に近づき――
その肩に、そっと左手を置いた。
「ぐはっ!」
少女が血を吐いた。
……美少女が吐血する光景、
情報量が多すぎる。
「キャハハハハ!!
引っかかったわね!!
十六にもなって嫁に行けない娘は、口減らしよ!!」
意味不明なことを叫びながら、
即死の瘴気を叩き込む。
だが――
少女は、倒れない。
むしろ、口元を歪めて笑った。
「……うふふ……
そんなので、アタイを倒せると思ったの?」
「……バカな!?」
人妻が、明確に動揺する。
「おっかあには秘密にしてたけど……
この間、気づいたら――
新しいチート、手に入れてたの」
血を吐きながら、少女は言った。
鑑定。
【蘇生&全回復】
――連打。
即死寸前 → 蘇生。
即死寸前 → 蘇生。
死に続けて、生き続けている。
……どんな精神力してるんだよ。
「架様のためなら……
何回でも、死ねる!!」
少女は叫び、
猪の丸干しを振り上げた。
「くらえぇぇ!!
愛の鉄槌!!」
――ドゴォンッ!!
一撃。
人妻は床にめり込み、
白目を剥いて沈黙した。
台所に、ようやく静寂が戻る。
……いや、戻ってないな。
俺は深く、深くため息をついた。
……もう現実世界に帰ろうかな。
帰れるかどうか知らないけど、
この世界、どう考えてもクソゲーだ。




