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異世界の住人が皆チート過ぎてチートがチートになってない件について【リメイク版】  作者: よしみん
第四章 女神激戦

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太陽神と欠片の太陽神

おかしい。


どうして、こんなことになってしまったのか。


ワタシは、崩れ果てた大地を呆然と見つめていた。


不死となった人々と魔物達が血みどろで殺し合うたび、山は吹き飛び、川は途絶え、大地には巨大な穴が口を開ける。

かつて花が舞い、果実が実り、酒の川が流れていた黄泉は、もうどこにもなかった。


母上は、人々を守るために不死の力を与えた。

魔物を減らすために、さらなる力まで与えた。


けれど、その結果はどうだ。


魂は死ねなくなった。

死ねない以上、現実世界へ戻ることもできない。


黄泉は、安らぎの国ではなくなった。

亡者の魂を閉じ込める、巨大な牢獄へと変わってしまった。


チートスキル――あの力は、人が使うにはあまりにも強すぎる。


母上が魔物と呼ぶ動物達と、人々が戦うたびに、山や川が消え、街が吹き飛ぶ。

もはやこの世界を天国と呼ぶ者はいない。


ワタシが母上へ伝えなければならない。

この惨状を。

この狂いきった現実を。


そう思って、ワタシは祭壇へ向かった。


鏡を手に取り、いつものように母上の神託を受けようとする。


その時だった。


≪き……聞こえる……か……?≫


「え……?」


ワタシは、息を呑んだ。


鏡に映っているのは、ワタシの顔。

けれど、それはワタシであって、ワタシではなかった。


比べものにならないほど強く、まばゆい輝きをまとっている。

同じ形をしているのに、そこに立つだけで世界の色を変えてしまいそうな存在感がある。


「鏡のワタシが……喋った……!?」


≪ワタシは、現実世界のキミだ≫


鏡の中のワタシは、少しだけ息を整えるように間を置いてから言った。


≪やっと波長が合いました。そこにある剣が、アンテナの役目をしているみたいですね≫


ワタシは慌てて振り返る。


祭壇の脇に置いてあった天叢雲剣が、かすかに光り、鏡と弱く共鳴していた。


「現実世界の……ワタシ?」


そういえば弟――戦神が、以前そんなことを言っていた気がする。


≪そう。キミは、母上が黄泉へ呼び寄せたワタシの魂の欠片。ワタシは今も現実世界にいる≫


魂の欠片。


その言葉を聞いた瞬間、胸の奥に沈んでいた違和感がようやく形になった。


ずっと、自分のどこかが薄い気がしていた。

母上に愛されているはずなのに、自分は何か大事なものの影でしかないような感覚があった。


「……そうか」


ようやく、腑に落ちた。


「ずっと感じていた違和感は、これだったのね」


≪父上に頼まれて、黄泉の様子を知りたい≫


鏡の向こうのワタシは静かに言う。


≪教えてくれないか?≫


ワタシは頷いた。


そして、黄泉で起きてきたことをひとつ残らず話した。


母上が与えた不死の力のこと。

魔物と人々の戦争のこと。

チートスキルによって世界そのものが壊れていったこと。

黄泉が、安らぎの国ではなくなってしまったこと。


すべてを聞き終えたあと、現実世界のワタシは、静かに目を伏せた。


≪やはり……≫


その表情には、驚きよりも、長く続いていた疑念が確信へ変わったような重さがあった。


≪亡者の魂が、いつまで経っても現実世界へ帰ってこないから、おかしいと思っていたのだ≫


ワタシは鏡に手を添えた。


「どうして、そっちから助けられないの?」


≪もう手が出せないのだ……≫


鏡の向こうのワタシの声は、静かだった。


≪黄泉へ閉じ込められた魂達が絡み合って、神すら通さない結界になってしまっている≫


息が止まりそうになった。


≪結界ができる前に来た弟も、母上に呪縛のチートを与えられている。神気を封じられ、操られているから、あてにはできない≫


母上が与えていた不死の力は、恩恵ではなかったのか。


操るための、呪縛。


胸の奥が、冷たく沈む。


「そんな……」


ワタシの手が震えた。


「こんな酷いこと、母上に話してやめさせます!」


言いながら、涙があふれた。


母上は優しかった。

黄泉を天国にしたかった。

それなのに、どうして……。


≪待って≫


鏡の中のワタシが、鋭く言う。


≪今のアナタが行っても危険だ。力の弱いキミでは、きっと呪縛されて終わってしまう≫


「でも……!」


≪ひとまず、亡者の魂が黄泉へ流れ込むのは止める≫


その声は、静かで、強かった。


≪だから二人で、機会を待とう。大丈夫…….ワタシがついている≫


「うっ……ぐすっ……」


ワタシはその場に崩れ落ち、声をあげて泣いた。


同じワタシのはずなのに。

どうしてこんなにも、あちらのワタシは強いのだろう。


それから、気の遠くなるほど長い時間が過ぎた。


ワタシは現実世界のワタシに支えられながら、黄泉が壊れていく様を見続けた。


街は滅び、草木は枯れ、酒の川は血と灰に濁る。

不死の人々と魔物達は、終わりのない戦いを繰り返した。


そして、ある時。


「黄泉も限界が近いようです」


今日も、鏡の向こうのワタシに世界の状態を報告していた。


「大地に亀裂が入っています。いつ世界が崩壊してもおかしくないと思います……。」


≪そうか……≫


現実世界のワタシは短く息を吐いた。


≪用意していた計画では、もう間に合わないかもしれない≫


そして、苦しそうに続ける。


≪やっぱり諦めて、黄泉を崩壊させて……キミだけを助けるしかないか≫


「待って!」


ワタシは叫んだ。


「それだけは嫌!」


鏡を抱きしめるように握る。


「こんな世界でも、ワタシの世界なの! 危険でもいい、もう一つの計画を実行しましょう!」


その言葉を口にした時、ワタシはもう覚悟していた。


死ぬかもしれない。

けれど、それでも、見捨てたくなかった。


ワタシは、母上の分身がいる洞窟――黄泉比良坂(よもつひらさか)へ向かった。


その傍らには、弟である戦神がいた。


「ずっと乗り気じゃなかった姉上が、邪神退治を手伝ってくれる日が来るとは夢にも思わなんだ。」


戦神はぼやく。


ワタシは彼に、邪神退治だと伝えて連れてきていた。

彼は、ワタシが駄目だった時の奥の手だ。

死ぬ気はないけど念のため。


洞窟の最下層へたどり着いた瞬間、闇の奥から怒声が(とどろ)いた。


「キサマッ! どの面を下げて来た!?」


凄まじい形相の母上の分身が現れる。


「妾の可愛い動物達を、数えきれぬほどに殺しおって! 息子といえど許せぬ! その首をここに置いていけ!」


「ふんっ!」


戦神が鼻を鳴らす。


「あんな魔物を可愛がるとは趣味が悪いのじゃ!

邪神め!成敗いたす!」


そう叫ぶなり、ワタシが返した天叢雲剣を抜き放ち斬り裂いた。


だが。


「「ふふふっ」」


「ぐはぁっ!?」


戦神の背後に、倒したはずの分身が二人、すでに立っていた。


神気が、戦神の体を貫く。


「あまい、あまい!」


分身達は哄笑した。


「妾は、数えきれぬ動物達を復活させるため、無限ともいえる数に分身を増やしておるのだ! 一人倒したところで、髪を一本切った程度にも感じぬわ!」


「なんと……!」


戦神が血を吐きながら目を見開く。


「さすがは邪神……! ここはひとまず撤退を――姉上!? 何を!?」


ワタシは、その隙にさらに洞窟の奥へ走っていた。


そこに祀られていた、薄く光る勾玉を拾い上げる。


父上がかつて黄泉へ来た時に落とした神器。

これで、鏡・剣・勾玉、三種の神器が揃う。


これを使えば、邪神も女神も、本物のワタシや父上のいる神界へ飛ばせるはずだった。


「それは、夫の勾玉!」


分身の顔色が変わる。


「まさか、それを狙って来たのか!? こしゃくな!!」


ズギュルルルゥッ!!


分身の神気が放たれた。


ワタシは咄嗟に鏡を掲げ、闇の雷を受け止める。


だが、衝撃はあまりにも重かった。


鏡と勾玉が吹き飛び、欠けた破片があたりに散る。


「人間を贔屓する太陽神よ!」


分身が叫ぶ。


「生きるすべての者達の怨み、受けるがいい!」


次の神気が、ワタシの体を正面から貫いた。


熱も、痛みも、一瞬だけだった。


ワタシの体が、塵になって崩れていく。


ああ。


こんな時になって、思ってしまう。


まだやり残した事がいっぱいある……。

人間の様に、美味しいお肉を沢山食べてみたかった。

運命の人と出会って素敵な恋愛だってしてみたかった。


無限転生をもらっていればよかった……と。


やはりワタシは

ただの神の欠片。

弱いところだけ人間達と同じだったのだ。

足元にも及ばない。


それでも。


それでも、ワタシは。


彼らを、救いたい……。


砕け散った太陽神の魂は、何故か完全には消えなかった。


欠けた鏡の破片へ吸い寄せられ、宿っていく。


「姉上!!……これは!?」


戦神が叫ぶ。


次の瞬間、欠片は一人の赤ん坊へと姿を変えた。


その時だった。

岩影から、白い影達が一斉に飛び出してきた。

兎人だ。


「貴様らは月神の使いか!? 何用じゃ!?」


分身が叫ぶ。


一体の兎人が看板を取り出し、分身へ向けた。


月神様があなたに協力したいと言っているピョン。


「本当か!?」


分身が目を見開く。


その一瞬だった。


他の兎人達が素早く動く。


赤ん坊を抱え、勾玉を拾い、鏡の破片を集め、倒れていた戦神を担ぎ上げる。


「うおっ!? お前ら何をするのじゃ!?」


戦神が暴れる。


「ワシは差し違えてでも邪神を倒し姉上の仇を取るのじゃ!」


タイミングを見計らったように

分身が凝視していた看板の兎人がくるりと板を裏返した。


ウッソぴょーん。


「なんじゃとーっ!?」


分身が怒り狂い、神気を乱れ撃ちする。


だが兎人達は、ぴょんぴょんと跳ね回り、それをすべて避けた。


その混乱の中で、戦神は三種の神器を受け取った。


勾玉が淡く光り、彼を縛る呪縛へ小さな楔を打ち込んだ。


戦神の目が見開かれる。


「ワシは……何ということを……」


次の瞬間、その顔が変わった。


「そうか。そうであったか……」


ぎり、と歯を食いしばる。


「姉上の意思、受け取りましたぞ」


その声は、もう以前の軽さではなかった。


「この弟に、任されよ!」


戦神は分身を睨みつける。


「姉上の死は無駄にせぬ……!母上……!今は撤退しますが……、いつか必ず、この狂った連鎖から解放しに来ますのじゃ!」


そして戦神は、兎人達とともに、荒れ狂う闇の神気を避けながら三種の神器を抱えて逃げ去っていった。


その後、戦神は洞窟のすぐ近くに【初めての村】を作り、ワタシの魂の欠片から生まれた赤ん坊は、やがて一人の女王へと育ちました。


人間達と協力しながら、何代にもわたって、世界が崩壊しないよう均衡を調整し続けました。


その傍らで、戦神と兎人達はひそかに機会を待ち続けていました。母上に対抗できる強い意志を持った勇者達が現れるその日を。

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