大魔帝ハーレムVS村長一家
「どいつもこいつも……ふざけやがって!!」
怒声が、空気を裂いた。
さっき地の果てまで吹き飛ばされたはずの大魔帝ハーレムが、何の前触れもなく空中に現れ、顔を真っ赤にして叫んでいた。
「我が究極のチートが、この程度で負けるわけがないのだ! まとめて地獄に叩き落としてやる!!」
「わっ!? 急に現れたピョン!?」
シロが耳を跳ね上げる。
「あの感じじゃと、瞬間移動で戻ってきたんじゃな」
村長は刀を肩に担いだまま、妙にのんびりと言った。
「うわっ、本当に【なんでもあり】だね」
アシヲが顔をしかめる。
理不尽の塊みたいな敵を前にしているのに、村長一家の空気だけは妙に落ち着いていた。
それが気に障ったのか、大魔帝ハーレムの額に青筋が浮かぶ。
「笑っていられるのも今のうちだ!」
両腕を広げ、甲板を見下ろす。
「ハーレム召喚!!」
その声に応じるように、空中にいくつもの光の穴が開いた。
そこから、四天王と魔人娘達が次々に姿を現す。
「あっ、ハーレム様だポン!」
「「「おかえりなさ〜い!」」」
ハーレムのハーレム達は、まるで少し席を外していた主人を迎えるみたいに、妙にのん気な声を上げた。
「のんびりするな!!」
大魔帝ハーレムが怒鳴る。
「ヤツらを叩きのめせ!!」
「「「は〜い!」」」
返事だけは素直だった。
次の瞬間、四天王と魔人娘達が一斉にこちらへ襲いかかってくる。
「さて」
村長が、ふっと笑う。
「真面目に戦うかのう。アシヲ! シロ! 一緒に行くのじゃ!」
「了解!」
「ピョン!」
三人は同時に地を蹴った。
次の瞬間には、もう空中だった。
まっすぐ飛び込む村長。
その後ろを追うアシヲとシロ。
襲い来る魔人娘達の群れに、真正面から突っ込んでいく。
「【優しい動物園】! チュー太郎! 皆! オイラを守ってくれ!」
アシヲが叫ぶと、周囲に小さな生き物達が次々と現れた。
「「チュー!」」
「「ブンブン!」」
「「カサカサ!」」
「「ゲコゲコ!」」
ネズミ、蜂、虫、カエル――。
まるで動物園をひっくり返したみたいな面子だが、今はそれが頼もしい。
召喚された動物達はアシヲの周囲を一斉に飛び回り、肉の盾のように彼を守る。
「さぁ、ワニザメさん達!」
シロが海へ向かって大きく手を振る。
「ボクの仲間と君達の仲間、どっちが多いか数えるから並んでピョン〜!」
その言葉に応じるように、海面がぼこぼこと盛り上がった。
ワニザメ達が次々と跳ね上がり、空中に一列に並んでいく。
まるでサメでできた足場――サメロードだ。
その上を、アシヲとシロが駆け抜ける。
「ロケットアニマル! ロケットアニマル!」
アシヲは両手にチュー太郎達を掴むと、次々に四天王達へ投げつけた。
「チューーーッ!!」
ネズミ達が悲鳴のような声を上げながら飛んでいく。
次の瞬間。
ドガガガーーン!!
空中で爆発。
以前、高橋が【ピッチャー返し】でチュー太郎を爆破したのを見て思いついたのか、完全に使い方が変わっていた。
「ビーマシンガン!」
今度は大量の蜂が、一直線に飛び出した。
ブブブブブブブブゥーーン!!
弾丸みたいな速度で飛ぶ蜂の群れが、敵陣へ突っ込み、次々に針を突き刺していく。
「アウチッ! アウチッ!」
リーペが尻尾を逆立てる。
「う〜っ! ニャにをこれしき! キルビースプレーにゃ!」
空中に巨大な殺虫スプレーを創り出し、得意げに構える。
その瞬間だった。
「アーッ! ハーレム様が蜂に襲われて死にそうになってるピョン!?」
シロが、いかにも大変そうな声で叫んだ。
「オゥー! ハーレム様レスキューナウにゃ〜!」
リーペは一瞬でそっちを向き、殺虫スプレーを全開噴射した。
ブシャアアアアッ!!
「うわぁっ!? ゲホゲホゲホ!!」
殺虫剤まみれになったのは、大魔帝ハーレム本人だった。
「リーペ!! 何をする!? 敵はあっちだ!!」
顔を押さえて空中でもがく大魔帝ハーレム。
黒い翼がばたばたと情けなく暴れる。
「嘘だっピョ〜ン」
シロが舌を出した。
「ジーザス! ダマしたにゃ〜!?」
リーペが飛び跳ねる。
その一瞬の隙を、村長は見逃さなかった。
「隙ありじゃ!!」
低く踏み込み、後ろへ回り込む。
「うにゃ〜〜!!」
ドバーーンッ!!
村長の刀の峰が、見事にリーペの背中を叩きつけた。
リーペはそのまま海へ真っ逆さまに落ちていく。
「うおおぉぉ!!」
アシヲがサメロードを駆け抜ける。
視線の先にはミミ。
「来ないで! 虫は嫌いですわっ!」
ミミが後ずさる。
だがその目には、まだ余裕があった。
「でも、好き嫌いはいけませんわっ! 【なんでも食べちゃうわっ】」
大きく口を開く。
その瞬間。
「ミミちゃん! 後ろから攻撃が来ますわ!」
シロが大声で叫んだ。
「ミミ! ダマされるな! また嘘だ!」
大魔帝ハーレムが慌てて怒鳴る。
「了解ですわっ!」
ミミはきっぱり前を向いたまま答える。
「本当だっピョ〜ン! なのじゃ!」
今度はシロと村長の声が重なった。
「キャァア〜〜!?」
ミミが思わず振り向いた、その瞬間。
ドバーーンッ!!
村長の一撃が背中に決まった。
「わっ……!?」
ミミは何が起きたのか分からない顔のまま、そのまま海へ落ちていく。
シロが胸を張った。
「ボクは嘘つかないピョン?」
「シロ! ナイス!」
アシヲが満面の笑みを浮かべる。
「流石はワシの娘じゃ!」
村長も珍しく素直に褒めた。
シロは耳をぴこぴこ揺らしながら、村長とアシヲにハイタッチした。




