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異世界の住人が皆チート過ぎてチートがチートになってない件について【リメイク版】  作者: よしみん
第四章 女神激戦

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村長の秘密

大魔帝ハーレム達が去ったあと、空母の甲板に残されたのは、燃え盛る国民達と、おっさん勇者達、シロ、そして村長だけだった。


さっきまで神だ魔帝だと空も海もひっくり返るような騒ぎだったのに、今目の前で起きているのは、火だるまの国民がまだ「熱い熱い」と叫びながら走り回っているという、妙に現実的でどうしようもない地獄だった。


村長はそんな国民達を、まるで道端の雑草でも払うみたいに、適当にいなしている。


燃えながら抱きついてきた男を片手でひょいと避け、別の一人を足で引っかけて転がし、そのまままたこちらへ向き直る。


動きに一切の無駄がない。


「……何ですか、今のは……」


アシヲが、ようやく絞り出すように言った。


さっきまでの光景がまだ理解できていないのだろう。

無理もない。


突然現れた村長が、大魔帝の放ったビームを一万倍にして叩き返し、そのまま地の果てまで吹き飛ばしたのだ。

理解しろという方が無茶だった。


「ん?」


村長は、燃える国民の襟首をつまんでぽいっと投げ捨てながら、のんびり答えた。


「母上が新しくワシに埋め込んだチートがなかなか面白くての。さっきチートは失ったが、身体が覚えておったんで再現してみただけじゃ」


「再現って、そんな簡単に言います!?」


アシヲが思わず飛び上がる。


「義父上! チートを失われたのに、なぜそんなに強いのですか!? それに今、“母上”って……女神が義父上のお母様なのですか!?」


質問が一気に飛び出した。


それに答えたのは、村長ではなくシロだった。


「そうだピョン!」


白い耳をぴこっと動かして、シロが胸を張る。


「女神はボクのお婆様で、お父様は戦神だピョン!」


「「「えぇぇぇーっ!?」」」


おっさん勇者達の声が見事に揃った。


燃え盛る国民達の悲鳴とは別の意味で、甲板がざわつく。


「佐藤A……」


佐藤Bが、アシヲの肩に手を置いた。


「お前、知らずにとんでもない家に婿入りしたんだな……」


「僕が一番驚いてるよ!?」


アシヲが半泣きで叫ぶ。


「シロさんも、じゃあ神様なんですか?」


田中が慎重に訊ねる。


シロはぶんぶんと首を振った。


「ボクのお母様は兎人(バニーマン)の人間だから、ボクは一応“神様の使い”って扱いだピョン。人間だピョン!」


そして、何かを思い出したように慌てて付け加える。


「あっ、でもあの気持ち悪い天使達とは全然関係ないからね!? あれはお婆様がチートで改造した、ただの人間ピョン!」


村長は、また一人、燃える国民を肩で受け流しながら、小さく息を吐いた。


「ワシは母上に会うために、この異世界――黄泉(よみ)へ来たのじゃ」


その声色だけが、少し変わった。


軽口ではない、本当に古い話を語る声だった。


「じゃが、母上はもう壊れておった」


甲板を吹き抜ける熱風の中で、その一言だけが妙に冷たく響いた。


「何としてでも暴走を止めたかった。じゃが、その頃のワシにはどうにもできなんだ」


村長は、自分の手をちらりと見た。


その手には、今も十分すぎるほどの力が宿っているように見える。

それでも“どうにもできなかった”と言うのだ。


「母上に、チートという呪縛をかけられておってな。行動を縛られ、いざという時には肝心な一手が打てん。斬りたくても斬れん。進みたくても進めん。そうやって、ずっと止められておった」


「……」


おっさん勇者達は、誰も口を挟まなかった。


「じゃが、諦めんかった」


村長は言う。


その声音には、静かな執念があった。


「何千年かかったかは、もう数えておらん。だが、ようやくワシにかけられた呪縛チートを剥がすことができたのじゃ」


「そこで、ボクの出番だったんだピョン!」


シロがぴょこんと前に出る。


「ボクはお婆様に近づいて、操られてるフリをしてたんだピョン!」


「なるほど……」


田中がゆっくりとうなずいた。


「それで我々を罠に嵌めるフリをして、姉御に“はじめての村”を担当していた女神を倒させたのですね」


「そういうことじゃ」


村長が頷く。


「エーコは、ワシの姉御の血を引く。太陽神の末裔。そして鏡の真の力を扱える存在じゃ」


その言い方は、エーコ個人を褒めるというより、ずっと前から決まっていた役目を確認するようだった。


「そこへ、母上を強く憎む男をぶつける」


村長の視線が、一瞬だけ海の方へ向く。


「天高原架とエーコを組ませれば、いずれ鏡は母上へ向く。あとは流れが勝手に育つ」


「“流れが勝手に”って……」


佐藤Bが引きつった顔になる。


「それを作るのが一番大変なんだろうが……」


「微調整はシロに任せたからの」


村長が、さらりと言った。


シロがぴくっと反応する。


「微調整っていうより、ほぼ丸投げだったピョンよ!? ボク、どれだけ苦労したと思ってるピョン!」


白い耳をぶんぶん揺らしながら抗議する。


「王国側にも合わせて、女神側にも合わせて、かけるぴょん達にも不自然に見えないようにして、しかもお婆様に怪しまれないようにして……ボク、ずっと胃が痛かったピョン!」


「そのわりには随分元気そうだな」


「今は終わったから元気なんだピョン!」


シロはふんすと胸を張った。


そこで、アシヲが遠慮がちに手を挙げた。


「えっと……じゃあ、僕の役割は何だったんですか?」


少しの間、沈黙が落ちた。


シロがぱちぱちと瞬きをする。


それから、あっけらかんと言った。


「アシヲぴょんは好きだったから結婚したんだピョン!」


「えっ」


アシヲが固まる。


「ムカデや蜂で襲ったのは、ただのヤキモチじゃよ」


村長まで平然と続けた。


「ワシの娘の婿になるからには、架より立派な王国を作れるくらいの甲斐性がないと困るがの」


そして、妙に真顔になる。


「このあとすぐ作るのじゃ」


「無茶言わないでくださいよ!?」


「アシヲぴょん大国、楽しみにしてるピョン!」


「楽しみにしないで!? プレッシャーになるから!」


どうやらアシヲは、壮大な作戦の中心人物ではなかったらしい。


ただ好きだったから選ばれた。

その上で、ついでにとんでもない家に婿入りさせられたようだ。


その理不尽さに、おっさん勇者達が一斉に肩を震わせる。


「……何だろうな」


佐藤Bがぽつりと言う。


「今の話、全部重いはずなのに、最後だけ急に家族会議なんだよな……」


「そこがこの一家らしいと言えばらしいですね……」


田中が眼鏡を押し上げた。


村長はそんなやり取りを聞き流しながら、ふっと海の方を見た。


さっき大魔帝ハーレムが吹き飛んでいった先。

そして海の深く、架とエーコが消えていった方角を。


風が吹く。


燃え残った炎が揺れ、海面が鈍く光る。


村長は、小さく呟いた。


「それにしても……カケル、いや、タケルか」


その名は、独り言のようでもあり、ひどく昔を知る者の呼び方でもあった。


「今回こそは、オトタチバナと結ばれるといいのう……」


誰に向けたとも知れぬその言葉だけが、熱と煙の残る甲板に静かに落ちた。

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