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異世界の住人が皆チート過ぎてチートがチートになってない件について【リメイク版】  作者: よしみん
第四章 女神激戦

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戦慄!恐怖の大魔帝

「ハハハハッ! Lv1の分際で、我に戦いを挑むのか?」


大魔帝ハーレムは、空中にゆったりと浮かんだまま、高らかに笑った。


その笑いには、余裕があった。

勝敗が決した盤面を眺める者だけが持つ、残酷な余裕だった。


「本来なら、無限の苦しみを味わわせながら殺してやろうと思っていたが……まあいい!」


黒い翼がゆっくりと広がる。

その影が甲板を覆い、昼だというのに辺りが少し暗くなった。


「その前に見せてやろう。神をも超えた――Lv∞の我が、どれほど絶対の存在かをな!!」


Lv∞……?


息が止まりかけた。


無限。

そんな数字、ありなのか。


しかも、こいつは俺のLvが1であることまで知っていた。

鑑定チートを持っていなかったはずの相手に、どうしてそこまで見抜かれている。


大魔帝ハーレムが、ゆっくりと両腕を広げる。


「苦痛無限増加!!」


禍々しい光が、一気に周囲へ広がった。


「「「ギャアアアアア!!」」」


「「「グェエエエエ!!」」」


悲鳴が、あちこちから噴き上がる。


エーコが膝をついた。

おっさん勇者達が顔を歪める。

戦っていた国民も、空を飛んでいたエンジェルも、さっきまで大魔帝ハーレムの元へ吸い寄せられていった四天王や魔人娘達まで、まとめて苦しみ始めた。


まるで、この場そのものが巨大な拷問器具に変わったみたいだった。


「やめろ!!」


俺は叫んだ。


「四天王達まで苦しんでるだろうが!!」


「フンッ」


大魔帝ハーレムは鼻で笑う。


「これは、人間などに親しくした罰だ」


その視線が、ゆっくりと俺へ向けられた。


「……それにしても貴様。何故、我の究極のチートスキル【なんでもあり】による攻撃に耐えている?」


【なんでもあり】。


その名前を聞いた瞬間、胃の奥がむかついた。


なんだその、腐った冗談みたいな名前は。


何をしても通る。

どんな理不尽も押し通せる。

そんなものが“能力”として存在していいのか。


奥歯が、ぎりっと鳴る。


胸の奥から、嫌悪感が込み上げてきた。

チートという言葉そのものが、汚く思えた。


だが、その嫌悪より先に、別の違和感が浮かぶ。


……待て。


なんで俺だけ、平気なんだ?


周りは皆、苦しんでいる。

エーコも、おっさん達も、さっきまで敵だった国民も、戻っていった四天王達でさえ痛みに顔を歪めている。


なのに、俺だけは息ができる。


胸元に、熱を感じた。


視線を落とす。


勾玉が光っていた。


淡い光。

けれど確かな熱を帯びて、胸の上で脈打つみたいに明滅している。


そうだ。


邪神に攻撃された時も、これが光って俺を守った。

あの時も、理屈は分からなかった。

ただ、この勾玉だけが俺を生かした。


熱い。


皮膚の上で焼けるほどじゃない。

けれど、確かにここにあると分かる熱だ。


心臓の鼓動に合わせるみたいに、勾玉が小さく震える。


「我のチートが効かぬなど……!」


大魔帝ハーレムの表情が、初めて歪んだ。


「人間の分際で、そんな事があってはならぬ!!」


人差し指が、光速で振られる。


空気が裂けた。


目に見えない刃。

激しい真空波が一直線に俺へ飛んでくる。


避けられない――そう思った、その瞬間。


「架様ぁ~!! キャアア!!」


エーコが、俺の前へ飛び出した。


鏡を構え、真空波を受け止めようとする。


だが。


鏡が弾かれた。


エーコの身体が吹き飛ぶ。

鏡は高く跳ね、陽光を反射しながら、そのまま海へ落ちていった。


「エーコ!!」


俺は転がるように駆け寄った。


「うぅ……っ」


エーコは苦しそうに目を開ける。

そして、すぐに鏡がないことに気づいた。


「あっ……鏡が……」


「鏡なら、海に沈んだよ」


「アタイ……何てことを……」


震える声。

自分を責めるような目。


「いいんだ」


俺はすぐに言った。


「エーコが無事なら、それでいい」


自分でも驚くほど、すんなり言葉が出た。


「エーコがいるなら、女神なんてどうでもいい。早くハーレムを倒して、皆と一緒に帰ろう……」


本当に、そう思っていた。


不思議だった。


さっきまで頭の中を焼いていた女神への怒りが、今は少し遠い。

消えたわけじゃない。

でもそれより、目の前のエーコが生きていることの方が、ずっと大事に思えた。


神だの裁きだの、そんな大きなものより。

今はただ、皆で生きて帰りたかった。


だが、エーコは首を振った。


「ダメ!」


その声は、驚くほど強かった。


「あの鏡は、架様との絆なの!」


一瞬、胸が詰まる。


「アタイ……取ってくる!」


「エーコ!?」


止める間もなかった。


ドバーンッ!! と派手な音を立てて、エーコが海へ飛び込んだ。


馬鹿か!

今のエーコはチート無し、Lv1なんだぞ!?


そんな状態で潜ったら、溺れ死ぬに決まってる!!


「馬鹿!! エーコ!! やめろ!! 戻って来い!!」


だが、海面は泡立つばかりで、姿は見えない。


駄目だ。


駄目だ駄目だ駄目だ。


海だけは駄目だ。


エーコを海へ行かせてはいけない。


胸の底から、説明のつかない嫌悪と恐怖が一気に噴き上がる。

息が乱れる。

手の先が冷たくなる。


心のどこかが叫んでいた。


――また失うぞ、と。


前世よりももっと前。

もっと古い、記憶ですらない何かの底で、俺はこうしてエーコを失ったことがある気がした。


意味の分からない感覚だった。

だが、ただの思い込みとは思えないほど、生々しかった。


膝から力が抜ける。


俺はその場に座り込み、混乱したまま海を見つめた。


どうする?


俺は一体、どうすればいいんだ!?


その時。


「助けに行ってこいよ!」


腕を、ぐいっと引かれた。


振り向くと、佐藤Bがいた。


「佐藤B……」


「ここはオイラ達に任せてくれ!」


その向こうで、佐藤Aが俺の肩を思い切り叩いた。


「そうだ! おっさん勇者五人、まだまだ捨てたもんじゃねぇぞ!」


「我々も意外と強いぞ」


田中が眼鏡を押し上げる。


「ダンジョンで見ただろう? 大丈夫、簡単には死なんさ」


「そうだぜ!」


別のおっさん勇者が親指を立てる。


「オレの【大気圏外ホームラン】を使えば敵無しだ!」


「さっさと姉御を助けてこい!」


さらに背中を押される。


「姉御がいないと、アドレナリンパーティが盛り上がらねぇからな! オラよっ!」


五人が前へ出る。


俺と海の間にいた敵を、力ずくでこじ開けていく。


大魔帝ハーレム。

四天王。

魔人娘達。


本来なら、どう見ても勝ち目のない相手だ。


それでも、おっさん勇者達は立った。


「すぐ戻るからな!」


俺は叫んだ。


「あぁ!」


佐藤Bが不敵に笑う。


「早く戻って来いよ!」


五人の背中を見た瞬間、不覚にも泣きそうになった。


俺は頷くと、そのまま海へ飛び込んだ。


冷たい水が全身を包み込む。


背後では、戦いの気配が一気に膨れ上がる。


「はぁ……」


甲板の上で、佐藤Bが小さく息を吐いた。


「格好つけて送り出したのはいいけど……ちょっと相手がヤバすぎるな……」


「兄ちゃん……」


別のおっさん勇者が、唾を飲み込む。


「マジで早く帰って来いよ……」


五人は息を呑み、大魔帝ハーレムと、その傍らに集う四天王達へと向き直った。

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