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異世界の住人が皆チート過ぎてチートがチートになってない件について【リメイク版】  作者: よしみん
第四章 女神激戦

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愛すべき四天王達

暗闇の中で、俺は自分の呼吸を数えていた。


一つ。

二つ。

三つ。


肺の奥に冷たい空気が出入りするたび、体のどこかが少しずつ死に近づいていく気がした。


もう終わりだと思っていた。


女神の罠に嵌まり、チートを失い、Lv1まで落とされ、四天王も魔人娘達も敵に回った。

無限転生もない。

ここで殺されれば、今度こそ本当に終わる。


だから俺は、来るはずの死を待っていた。


だが。


死は、訪れなかった。


代わりに、唇に柔らかい感触が触れた。


あまりに現実離れした温度に、俺は一瞬、自分がまだ死んでいないのかどうかすら分からなくなった。

ゆっくりと目を開ける。


目の前にいたのは、クルゥリーだった。


涙で潤んだ瞳。

強がる時の冷たさはどこにもなく、今にも泣き崩れそうな顔で、彼女は俺を見つめていた。


「それでも……」


その声は震えていた。


「それでも、皆、あなたの事が好きなんです……」


あ……。


言葉が出なかった。


俺は、キスをされた唇にそっと指を当てた。

頭が真っ白だった。


さっきまで、終わったと思っていた。

全部失ったと思っていた。


なのに。


クルゥリーの後ろで、四天王達が、魔人娘達が、俺を見て小さくうなずいていた。


「クルゥリーさんだけズルいポン!」


「ミミもキスしたいですわっ!」


「ディープキスフォーユーにゃ〜!」


「「私達も……その……キスしたいバニー!」」


「「「ワタシもーー!!」」」


次の瞬間、何人もの体が一斉に俺へ飛びついてきた。


柔らかい腕。

髪の匂い。

頬に、額に、唇に触れる熱。


誰かが泣きながら抱きしめてくる。

誰かが怒った顔のまま、それでも離れまいとしがみついてくる。

誰かが笑って、でも目の端に涙を溜めている。


絶望で空っぽになっていたはずの心が、急に熱で満たされていく。


「みんな……」


喉が詰まる。


「皆、洗脳してすみませんでした!」


気づけば叫んでいた。


「みんな大好きだ!!」


情けないくらい声が震えた。

でも止まらなかった。


俺は一人じゃなかった。

そう思えた。


この世界で、こんな俺を、それでも好きだと言ってくれる連中がいる。

なら、まだ終われない。


彼女達のためにも、絶対に女神に勝たなければならない。


その時だった。


「フンッ! 我のハーレムを奪って、随分楽しそうにしておるようだな!」


空気を叩き割るような声が響いた。


甲板の空気が、一瞬で変わる。


俺は反射的に顔を上げ、その声の主を見て絶句した。


そこにいたのは、金髪に黒い角、黒い翼を持つ男。


今この場にいていいはずのない存在。


魔帝――


いや、鑑定が告げる名は違っていた。


大・魔帝ハーレム。


「アーッ! ミサイルが撃てなくなったから、復活しちゃったんですわっ!」


「ミステイクだニャ〜!」


「でも、魔帝城からここまでかなり距離があるポン!? どうやって来たんだポン!?」


「恐怖の大魔王が現れるとはこの事だったのですね……。大魔王ではなく大魔帝。たった一文字ですが、生まれてはじめて占いが外れました」


クルゥリーが呆然と呟く。


そうか。


そういう事か。


女神の狙いは最初からこれだったんだ。


俺をチート無しのLv1に落とす。

四天王達の洗脳を解いて、味方を失わせる。

そこへ、死にまくって異常強化された大魔帝ハーレムをぶつけてくる。


最悪だ。


……だが、女神。

甘かったな。


四天王達は、まだ俺の味方だ。


そう思って彼女達を見る俺をよそに、大魔帝ハーレムはゆっくりと四天王達へ視線を向けた。


その目が怪しく光る。


「我のハーレム達よ」


低く甘い声が、空気そのものに染み込んでいく。


「我の元へ、帰ってくるがいい」


次の瞬間だった。


四天王達の目から光が消えた。


クルゥリーの瞳が、トロンと眠たげに緩む。

リーペの尻尾が力なく垂れる。

タヌーの耳がぴくりと震え、ミミの唇がぼんやりと開く。


魔人娘達も同じだった。


一人、また一人と、体がふわりと宙に浮く。


「おい――」


声が裏返った。


「おい! 何してるんだよ!?」


だが彼女達は、俺の方を見ない。


夢遊病者のように、ふらり、ふらりと浮き上がり、大魔帝ハーレムの方へ吸い寄せられていく。


「おい! 何だよ!」


気づけば、全力で叫んでいた。


「クルゥリーを返せよ! リーペを! タヌーを! ミミを! 魔人娘達を返せよ!!」


喉が裂けそうだった。

胸の奥が焼けるように痛い。


嘘だ。


さっきまで、皆、俺の事が好きだと言ってくれていた。

抱きついて、泣いて、笑って――


それなのに。


何で、こんな簡単に。


「何が返せだ!」


大魔帝ハーレムが唇を歪める。


「元々、我のハーレムだ!」


怒気の混じったその声には、ただの虚勢ではない本物の怨念が滲んでいた。


「この屈辱……簡単に晴らせると思うなよ!?」


あぁ、そうだ……。


俺はアイツからハーレムを奪ったに過ぎなかった。


チートで。

洗脳で。

都合よく。


相手が悪だから。

自分は正しいから。


そんな理屈を並べて、俺は彼女達を自分の側へ繋ぎ止めていた。


今、その報いが返ってきている。


胸の奥が、冷たく沈んだ。


だが――


俺は、一歩前へ出た。


青銅の剣は、情けないほど頼りない。

腕に力は入らない。

相手は大魔帝ハーレム。

こっちはLv1。


勝ち目なんて、どこにもない。


それでも、ここで黙ったら全部終わる気がした。


「大魔帝ハーレム!」


俺は、その名を叩きつけるように呼んだ。


喉が焼ける。

足は震えている。

それでも、声だけは不思議なほどまっすぐに出た。


「俺は間違ってた!」


その一言は、自分の胸にも深く刺さった。


「洗脳で繋いだ関係なんて、本物のはずない……今なら分かる!」


四天王達の顔が浮かぶ。

怒鳴り声。

涙をこらえた目。

全部が胸に刺さる。


だからこそ、もう目を逸らしたくなかった。


「それでも俺は、あいつらともう一度ちゃんと向き合いたい!」


息を吸い、青銅の剣を握り直す。


軽すぎる。

今まで自分が、どれだけ力に頼っていたのかを思い知らされるほどに。


だが、今の俺にあるのはこれだけだ。


「笑ってる顔も、怒った顔も、泣いてる顔も……全部ひっくるめて、あいつら自身を取り戻したい!」


俺は剣先を、まっすぐ突きつけた。


「だから返せ!!」


一歩、さらに踏み込む。


「大魔帝ハーレム! 彼女達の自由を返しやがれ!!」


Lv1の俺は、そう宣言した。

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