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異世界の住人が皆チート過ぎてチートがチートになってない件について【リメイク版】  作者: よしみん
第四章 女神激戦

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Lv1になりました。

ヤバい。


その一言しか、頭に浮かばなかった。


【無限転生】がない。


今の俺には、それがない。


死んだら終わりだ。

やり直しは、もうない。

しかも――Lv1。


マズい。

マズいマズいマズい。


心臓が、嫌な速さで脈打っていた。

喉の奥が乾く。

握っている剣が、さっきまでとは別物みたいに頼りなく見える。

足元まで、今にも崩れそうだった。


その時だった。


≪【勾玉】【鏡】【剣】が神格を取り戻した。【神の裁】の発動条件を満たしました。≫


頭の中に、冷たい声が響く。


「……神の裁き?」


なんだそれ。


名前からして嫌すぎる。

怖い。

普通に怖い。


今の状況で、そんな得体の知れない物騒な単語を追加するな。

意味が分からないのに、意味ありげすぎる。

背筋に、また別の寒気が走った。


「姉御! Lv1って本当ですかい!?」


佐藤Bが駆け寄り、エーコの顔を覗き込む。


「実は……俺もだ」


自分で口にした瞬間、ぞっとした。


言葉にしてしまうと、現実味が増す。

冗談でも聞き間違いでもなくなる。


「えぇっ!? 兄ちゃんもか!?」


佐藤Bの顔が、見る見るうちに引きつった。


「我輩達は、普通にLv変わってないぞ!?」


「周りの国民達も、チートを失った様子はありませんね」


田中が周囲を見渡しながら静かに言う。


「カケル殿とエーコ殿の共通点があるとすれば――」


そこで一拍置いた。


「復活地点が、はじめての村である事くらいでしょうか」


「あっ……!」


その瞬間、脳の奥で何かが繋がった。


邪神を倒した時のことだ。


ダンジョンの中にいた魔物達だけがチートを失い、外の魔物や魔人達は平然と力を保ったままだった。

あの時、違和感はあった。

だが、戦いの中で深く考える余裕がなかった。


今なら分かる。


あれは世界全体の一括解除じゃなかった。


管理の範囲ごとに、区切られていたんだ。


俺は反射的に、さっきまで女神がいた場所を見上げた。


そして息を呑む。


あった。


さっきの女神殿にそっくりな雲が、その上空にもう一つ浮いていた。


「女神は一人じゃない!」


気づけば叫んでいた。


「エーコが倒したのは、はじめての村を担当していた女神だ! あの雲の中に、まだもう一人いる!」


「エーコ! あの雲に鏡を――」


「待て!」


鋭い声で、田中が止めた。


エーコが鏡を構えかけた手を、ぴたりと止める。


「女神が二人だという確証は何処にある!?」


「……っ」


「もし三人いたら? 四人いたら? あるいは、それ以上だったら?」


言葉が詰まる。


邪神は二体倒した。

それでも、ダンジョンの外の世界は何も変わらなかった。


だったら女神も同じだ。


最低でも三人。

いや、人口や土地ごとの管理を考えれば、もっといる可能性だってある。


「下手に女神を殺して、我輩達までチートを失ったらどうなる?」


田中の声は冷静だった。

だが、その冷静さが今はひどく残酷に聞こえた。


「襲いかかってくる国民とエンジェル達だけが力を保ち、こちらだけが無力化される。そうなれば、女神の思うツボです」


「……」


「それに、こちらにはまだ最強の四天王達がいる。ならばまず、国民とエンジェルを無力化する方が安全で確実だ」


確かに、その通りだった。


俺は完全に焦っていた。

女神を見た瞬間、頭に血が上っていた。


だが、今の俺はLv1。

無限転生もない。


前に出る意味がない。

ここは一度引くべきだ。


四天王達に任せる。

神化したタヌーに、チートを積んだ無敵コンボ。

国民とエンジェル相手なら、本来なら押し切れるはずだ。


そうだ。

俺は一歩下がればいい。


「その……タヌー達」


俺が慎重に口を開いた、その時だった。


「ひどいポン!」


タヌーが怒鳴った。


「ずっとワッチ達をダマしていたんだポン!?」


「ミスターカケル、ダウトだニャ~!」


リーペが尻尾の毛を逆立てる。


「ミミの心は、深く傷ついてしまいましたわっ!」


ミミまで涙目だ。


「え……?」


一瞬、意味が分からなかった。


だが次の瞬間、背筋が凍りつく。


……あ。


そうか。


完全に、忘れていた。


四天王達はもともと、魔帝ハーレムのハーレムだった。

俺がチートスキルで洗脳し、味方にしていた存在だ。


今、俺のチートスキルが全部消えた。


ということは――


【洗脳】も、消えた。


「……マジかよ」


喉の奥が、からからに乾いた。


そして、それは四天王だけではなかった。


「キングカケル! 最低バニー!」


「優しそうで、ちょっと好きになりかけてたのに!」


「「「そうよ! そうよ!」」」


元ハーレムの魔人娘達まで、一斉に俺へ詰め寄ってくる。


二百人近い魔人娘が、じりじりと輪を狭めてくる。


その顔は怒っている。

怒っているが、同時に傷ついた顔でもあった。


軽口のように聞こえる声もある。

だが、その目は笑っていない。


俺は反射的に後ずさろうとして、足を止めた。


囲まれている。


前には四天王。

横には魔人娘達。

外では国民とエンジェルが暴れている。


逃げ場なんて、最初からなかった。


修羅場だ。


……そう思いかけて、すぐに訂正する。


違う。


これはそんな軽いもんじゃない。


俺が都合よく作った関係が、全部まとめて返ってきているんだ。


そして、その輪の中から。


一番来てほしくなかった相手が、静かに前へ出た。


クルゥリーだった。


彼女は怒鳴らない。

騒がない。

泣きもしない。


ただ、真っ直ぐに俺を見た。


「ずっと、信じていたのに……」


その一言が、どんな怒号よりもきつかった。


「あ……あぁ……」


何か言おうとする。


だが、何も出てこない。


言い訳が浮かばない。


利用した。

騙していた。

少なくとも、結果だけ見ればそうなる。


クルゥリーの瞳は揺れていた。

怒りよりも、失望と傷が深かった。


その色が、何より痛い。


外ではまだ爆音が響いている。

エンジェルが突っ込み、国民が叫び、船体が軋んでいる。


それなのに、今の俺には、この場の沈黙の方がずっと怖かった。


誰が最初に殴ってくるのか。

誰が見捨てるのか。

それとも、もう誰も俺の言葉なんて聞かないのか。


喉がひくつく。


せめて剣を握り直そうとして、俺ははっとした。


青銅の剣。


その軽さに、逆に絶望した。


今までの勇者の剣は、手に吸い付くような重みがあった。

振るえば応える感触があった。

自分が強者であると、握っただけで分かる武器だった。


だが今、手の中にあるのは違う。


軽い。

あまりにも軽い。


玩具みたいだ。


「……っ」


その瞬間、胸の奥に別の痛みが走った。


俺はずっと、女神を憎んできた。


あのクソみたいなやり方も、

他人を駒みたいに扱うところも、

気に入らなかった。


いつか必ずぶっ殺すと、何度も心の中で叫んできた。


なのに――


俺が今まで振るってきた力も、

その大半は女神が作った仕組みの上にあった。


チート。

勇者装備。

復活。

圧倒的なレベル差。


俺はそれを使って、ここまで来た。


クソ女神を殺すと叫びながら、

その女神の与えた力がなければ、まともに立つことすらできない。


その事実が、たまらなく悔しかった。


結局俺も、あいつの作った盤面の上で暴れていただけなのか。


これがLv1か。


これが、何も持っていない俺の重さか。


胸の奥で、何かが静かに沈んでいった。

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