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異世界の住人が皆チート過ぎてチートがチートになってない件について【リメイク版】  作者: よしみん
第四章 女神激戦

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国民の反乱

上空に浮かぶ巨大な雲――【女神殿】。


その中心、白く磨かれた神殿の最奥に、女神はいた。


玉座と呼ぶにはあまりにも軽やかな雲の椅子。

そこへ当然のように腰を下ろし、眼下の世界を見下ろしている。


口元には、うっすらと笑み。


慈愛ではない。

獲物を見つけた者の笑みだった。


「ふふっ……罠とも知らず、のこのこと近づいて来たわね」


女神の声は静かだった。

だが神殿全体に染み込むように広がり、薄い雲の壁をわずかに震わせる。


「シロ。準備はできているのでしょうね?」


その声に応えるように凛とした音声が響く。


「はいピョン。勇者達の誘導は、もう完了していますピョン。女神様が姿を現せば、全員いっせいに動き出しますピョン」


シロの声は、普段どおりだった。

震えもなく、乱れもない。


だが、通信の向こうでその白い指先だけが、ほんのわずかにこわばっていた。


「ふはははっ!」


女神はとうとう声を上げて笑った。


「この女神に抗った罪――その身に思い知らせてやるわ!」


笑い声が高く、長く、神殿の天井へとはね返る。

幾重にも反響し、雲の宮殿を満たしていく。


その下では、すでに戦いの歯車が動き始めていた。




超巨大空母《カケルダンジョン2》。


その甲板には、人、人、人。


隙間という隙間を埋め尽くすほどの勇者達が、びっしりと並んでいた。

剣を握る者。槍を掲げる者。杖を持つ者。素手の者。

だが、その表情はどれも似ていた。


目が据わっている。

口元は引きつり、呼吸は荒い。

興奮と狂気の境目が、もう曖昧になっていた。


そして次の瞬間、誰かが声を上げる。


「殺せっ!!」


それを合図にしたかのように、百万に届こうかという群衆の叫びが、同時に炸裂した。


「「「殺せっ!殺せっ!殺せっ!殺せっ!殺せっ!殺せっ!殺せっ!殺せっ!殺せっ!!」」」


巨大な甲板が、声だけで震える。


鉄の床がビリビリと鳴り、

空母そのものが群衆の熱に押されて軋んでいるようだった。


常識では考えられない光景だった。


本来なら勇者とは、人を守る側の名だ。

それが今、全員同じ方向を向いている。


狙う先はただ一人。


天高原架。


その名だけを標的にして、狂信の群れが息を荒げている。


空母ダンジョンは、架達のいる本艦へ向けて、重たい唸りを上げながら進み続けていた。


その時だった。


カッ――


直後。


ドッ!!

ゴォオオオオオオオオオン!!!!


大爆発。


上空で炎が弾け、遅れて圧倒的な爆風が叩きつけてきた。


空が、赤黒く染まる。

あれは、架王の火炎魔法だ。


「うおぉぉお!?」


「な、なんだ!?」


「伏せろ!!」


勇者達の身体がまとめて後ろへ吹き飛ぶ。

軽い者は転がり、重装の者でさえ数歩よろめいた。


だが、それでも群れは崩れない。

倒れた者を踏み越え、また立ち上がる。


狂っていた。


「おい!あれを見ろ!」


誰かの叫び。


全員の視線が一斉に上へ向く。


塔の先端にあった雲。

その雲の奥から、今、光が溢れ出していた。


弱い光ではない。

直視すれば目を焼くほどの、神々しい輝き。


そしてそれと同時に、空母の各所に設置された巨大ディスプレイが一斉に点灯する。


そこに映し出されたのは――女神。


いや、正確には、それぞれが思い描く“理想の女性像”だった。


ある者には優しい聖女の姿。

ある者には可憐な幼馴染。

ある者には艶やかな姫。

ある者には慈悲深い母。


それを見たその全ての口が、同じ言葉を発した。


「「「おおっ!! 女神様!! 女神様だーーーっ!!」」」


群衆が熱狂する。


そして。


ドカァァァァァァァンッ!!


空母ダンジョンが、ついに架達の本艦へと激突した。


鉄と鉄が噛み合う鈍い衝撃。

船体が大きく揺れ、甲板の先端同士が繋がる。


橋などいらない。

ぶつかったその瞬間、そこが戦場になった。


巨大ディスプレイに映る女神が、口を開く。


『決戦の時は来た!』


その声は甘く、鋭く、鼓膜の奥に直接刺さるようだった。


『標的は目の前!偽王を倒すのだ!!』


声そのものはシロのものだった。

だが、スピーカーから放たれる響きは、完全に“女神”だった。


「「「おおおおおおおおおっ!!」」」


群衆が爆発する。


叫びと同時に、勇者達が雪崩れ込んだ。


先頭が走る。

その背を押すように次が続く。

転んだ者を踏み越えて、また次が走る。


天高原架へ。


ただその一点だけを目指して、百万の狂気が流れ込み始めた。


本艦の甲板へと次々に飛び移り、武器を振り上げ、怒号を上げる。


もはや軍勢ではない。

奔流だった。




そのすべてを、暗い部屋からシロは見ていた。


ダンジョン監視ルーム。


壁一面に並ぶディスプレイ。

無数のランプ。

低く響く機械の駆動音。


そこには、シロ一人しかいなかった。


外の狂騒が嘘のように静かだ。

叫び声も、足音も、怒号も、ここまでは届かない。


あるのは、電子音だけ。


シロは、ゆっくりとマイクのスイッチを切った。


「ふぅ……ピョン」


深く、長い息が漏れる。


そのまま椅子にもたれかかり、しばらく目を閉じた。


肩は重い。

耳の先まで、じんじんと熱い。


自分が今何をしたのか、分かっていた。


一声で、あれだけの人間を動かした。

一言で、あれだけの殺意を加速させた。


それでも。


シロは、そっと祈るように両手を胸の前で組んだ。


お父様。

約束は守りましたピョン。


お爺様……叔母様……。


りょうぴょんとエーコぴょんに、どうか力を貸してくださいピョン。


お婆様の暴走を、ここで終わらせてくださいピョン。


祈りは短かった。


答えが返ってくるとは、最初から思っていない。


それでも祈らずにはいられない。


シロは目を開ける。


ほんの一瞬だけ揺れた瞳が、すぐにいつもの色へ戻る。


そして、再びマイクのスイッチへ手を伸ばした。


女神の声として働くために。

狂気を最後まで導くために。

終わらせるために。


小さな指が、静かにスイッチを押した。

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