スルガ天空の塔
俺達のいる超大艦隊の上空には、信じられない光景が広がっていた。
長い。
とてつもなく長い塔が、雲の中から海へ向かって伸びている。
塔は途中で崩れ、海と雲のちょうど中間あたりで宙に浮いたまま止まっていた。
本来ならば、重力に引かれて海へ落ちているはずだ。
だが落ちていない。
まるで、何かに支えられているかのように。
俺はしばらく黙ってその光景を見上げていた。
おそらく、この塔は大陸の上に建っていたのだろう。
大陸が沈み、地面と接していた部分だけが崩れ去った。
だが、それならば塔全体が海へ落ちるはずだ。
それなのに、塔は雲の中で止まっている。
俺は雲をじっと見つめた。
そして、ある事に気づいた。
「なぁ」
俺は言った。
「あの雲の中に、女神がいるんじゃないか?」
「「「えっ!?」」」
皆が一斉に空を見上げる。
しばらく沈黙。
そして、おっさん勇者の田中が「あぁ……」と小さくうなずいた。
「なるほど」
「確かに、ダンジョンに邪神がいるなら、天空の塔に女神がいても不思議ではありませんね」
田中は腕を組みながら続けた。
「天空の塔には【天の使い(エンジェル)】という連中が占拠していて、最上層まで辿り着いた者は誰もいません。あの塔のボスが女神という可能性は、十分あります」
【天の使い】。
その言葉を聞いた瞬間、俺はある光景を思い出した。
はじめての村。
ゾンビのような目をした村人達が、俺達に襲いかかってきた。
狂った信仰。
あの連中も確か、女神を信じていた。
俺は奥歯を噛みしめた。
「間違いない」
「クソ女神はあの雲の中にいる
早く海から剣を回収して、
ぶった切ってやる!」
俺は骨付き肉を、雲に向かって突きつけた。
その時だった。
「塔から何か来ます」
クルゥリーが静かに言った。
彼女は目を細め、崩れた塔の先端を見つめている。
「何が来てる?」
「……分かりません」
「水晶が反応しなくなりました」
「は?」
クルゥリーの占術が?
あのクルゥリーが?
そういえば――
恐怖の大魔王を占った時も、未来の詳細が見えなかった。
あの時と同じだ。
占術が妨害されている。
女神がやっているのか?
それとも……
「敵機ロックオン!」
「チートシースパローミサイル!全弾発射ファイヤーニャ~!!」
次の瞬間。
駆逐艦の甲板から、無数のミサイルが空へ撃ち上がった。
ババババババババッ!!
シュゴォォォ!!
ドドドドドドドドドン!!!
塔の周囲で連続爆発が起こる。
炎。
煙。
衝撃波。
「ゲホゲホゲホ!!」
「煙で何も見えないですわ!」
空は黒煙で覆われ、視界は完全に遮られた。
全部倒したのか?
それとも――
「ダークウィンド」
クルゥリーが水晶を掲げた。
水晶から黒い光が放たれ、天へ昇る。
次の瞬間、上空の大気が渦を巻いた。
渦巻く黒い風が煙を吹き飛ばす。
……魔法だ。
そういえば、まともな魔法を見るのは初めてかもしれない。
皆チートスキルばかり使うからな。
勇者ビームも勇者装備の機能で、魔法とは違うし。
……いや。
そういえばダンジョンで田中が「マルチバリア」とかの支援魔法使ってたな。
すっかり忘れていた。
「オールグリーンにゃ~!」
「やったか!?」
空には――
何もいなかった。
「まだですポン!」
タヌーが叫んだ。
見ると。
塔の中から、ゾワゾワと影が這い出してくる。
人の形をしている。
……だが、人間の動きじゃない。
今さらだが――
……あれは敵なんだよな?
もし普通の人間だったら――
俺達はまた、大量殺戮をしている事になる。
「ミレニアムファイヤー!」
「クマソボンバー!」
「アイスバーン!」
「ソニックサンダー!」
「ロケットアニマル!」
おっさん勇者達が魔法を撃ちまくる。
炎。
雷。
氷。
爆発。
塔から溢れた敵の群れが次々と吹き飛ぶ。
俺も負けていられない。
「えーっと……」
「魔法ってどうやって使うんだ?」
「Lvアップした時に聞こえた魔法名を叫ぶだけです」
クルゥリーが風魔法を放ちながら言った。
「ウィンドホール!」
巨大な竜巻が発生し、敵の群れを巻き込む。
敵はぐるぐる回されながら一箇所へ集められていく。
やがて。
団子状の巨大な塊になった。
よし。
あの団子を狙うか。
「確か、Lv一万の時に覚えた魔法が……」
「クリム……?」
「クリムゾン?」
「あっ!」
思い出した。
「クリムゾンフレア!!」
一瞬。
光が走った。
次の瞬間。
ドゴォォォォォォォォォン!!!!!!
巨大な爆発が起こった。
空が、真っ赤に染まる。
塔の一部が吹き飛ぶ。
敵の塊は跡形もなく消し飛び、爆炎が空を覆った。
数秒後。
衝撃波が艦隊に到達した。
「うわぁ!!」
「きゃあああ!!」
「おおおお!!」
爆風で皆が吹き飛ぶ。
「火力高すぎだポン!!」
タヌーが怒鳴った。
「もう少し弱い魔法を使ってほしいポン!」
「兄ちゃん!」
佐藤Bも叫ぶ。
「高レベルでの魔法使用は下手すると味方殺しになるぞ!」
「ご、ごめん……」
怒られた。
「高火力でも効果範囲の狭い魔法を使うといいですよ」
田中が真面目にアドバイスしてくる。
「敵と味方の距離、敵の数、強さに合わせて使い分けてください」
なるほど。
魔法って、ただ強ければいいわけじゃないのか。
……思っていたより、ずっと難しい。
その時だった。
「架様!」
エーコが叫んだ。
「見てください!」
彼女は指をさしていた。
燃え尽きた塔の先端。
そこに残っていた雲。
小さくて最初は分からなかった。
だが。
目を凝らすと――
確かに見えた。
雲の中に立っていた。
光り輝く――
あのクソ女神が。




