龍の丸干しパーティー
「では皆さん!今回の航海の成功を祈りまして――カンパーイ!」
「「「カンパ~~イ!!」」」
空母の甲板では、大宴会が開かれていた。
中央には、三十メートルの海神龍の丸干し。
国民達がその巨大な干し肉に群がり、次々と引きちぎってはむさぼりついている。
「な~んかこの龍見るとイライラするのよね~!えい!えい!」
ドゴンッ!ドゴンッ!
エーコが龍の胴体を蹴ると、反対側に張り付いていたおっさん勇者達がまとめて吹っ飛んだ。
「うわぁっ!!」
「姉御!ヒドイっすよ~!Lv高いんですから気をつけてくださいよ~!」
涙目で抗議するおっさん達。
「ベリベリデリシャスにゃ~!」
「油が甘くて最高ですわっ!ミミのチートで全部食べてしまいたいくらいです!」
「それはズルいポン!味わって食べるポン!」
クルゥリーは――
黙々と食べていた。
クールな印象だったが、完全に夢中である。
意外だな。
俺はそんな事を考えながら龍の干し肉を一口かじった。
次の瞬間。
「うめえぇぇぇぇぇ!!」
思わず叫ぶ。
「なんだこれ!?干し肉なのに肉汁が出てくるぞ!?」
噛むほどに肉が締まり、脂が甘く広がる。
塩味が絶妙で、手が止まらない。
高級ステーキとは違う。
もっと野生的で、もっと旨い。
「いやぁ~おいしいなぁ!止まらない!」
「はいっ!アシヲぴょん!
どんどん食べるピョン!」
シロが肉を引きちぎり、佐藤Aに渡す。
佐藤Aはそれを恐ろしい速度で口へ放り込んでいた。
完全にチートスキル【無限胃袋】発動中である。
「おい佐藤A!こんな時だけチート使うな!この穀潰し!」
「ごめん!この肉うますぎて止まらない!」
モグモグモグモグ。
戦闘では微妙な佐藤Aだが、最近は厚生農林経済大臣として激務をこなしている。
……まあ今回は許してやるか。
「美味ですね。自分はA5ランクのステーキも食べたことがありますが、また違う美味しさですな」
田中が満足そうに言った。
「カケル殿はどうです?A5とどちらが美味ですかな?」
「A5なんて食ったこと……」
そこで俺は止まった。
……あれ?
肉を食べた記憶。
A5ステーキ。
いや、それ以前に――
転生前の記憶。
俺の名前は本当にカケル?
何も思い出せない。
おかしい。
だが。
海神龍が言っていた名前。
「オトタチバナ」
あの言葉だけは、どこかで聞いた覚えがある。
だが思い出せない。
転生で記憶を失ったのか?
でも、おっさん勇者達は普通に覚えているようだ。
頭がモヤモヤする。
その時。
「兄ちゃん、この近くに剣が沈んでるんだよな?」
佐藤Bが肉を噛みながら言った。
「ん?そうだけど?」
「田中。この辺ってスルガ大陸じゃなかったか?」
田中が首を傾げる。
「……確かにそうですね。自分は昔、天空の塔を探索するために来たことがあります。この辺りに大陸があったはずですが」
大陸。
そういえば。
この世界に来たばかりの頃。
あのクソ女神が怒って、
雲の下の大陸を沈めた。
……あれか?
「兄ちゃん!」
佐藤Bが急に叫んだ。
「うげっ!?あれは……!」
二人が空を見上げて固まっている。
「どうした?」
「兄ちゃん!あれを見ろ!」
俺も空を見上げた。
そして――
息を呑んだ。
雲の上から、
半壊した巨大な塔が
海へ向かって突き刺さるように伸びていた。
今にも崩れ落ちそうな、
天空の塔だった。




