預言者クルゥリーの大予言
大海原のただ中。
超大艦隊は、青く穏やかな海をゆったりと進んでいた。
波は静か。
空は高い。
甲板では勇者達が釣りをし、魔物イノシシの燻製が干されている。
平和すぎる。
俺は艦橋であくびをかみ殺した。
その時だった。
クルゥリーが、水晶球を覗いたまま固まった。
「……」
珍しい。
彼女が沈黙するのは。
「どうした?」
彼女はゆっくり顔を上げた。
「近々、恐怖の大魔王が現れ、この王国に襲いかかり世界は終わるでしょう」
「……は?」
思考が止まる。
「えええ!?」
「怖いポン!」
「エマージェンシーにゃ!?」
「この世の終わりですわっ!」
四天王が一斉に騒ぎ出す。
「待て待て。近々っていつだ?」
「分かりません。今、急に水晶が壊れた情報の欠片を受信しました。再度、占術を試みましたが……何も視えません。何かが、妨害しています」
妨害。
クルゥリーの占いを?
嫌な予感が背筋を走る。
俺が問い返そうとした、その瞬間。
ドガァァァンッ!!
衝撃。
空母が大きく傾いた。
「うわっ!?」
「きゃあああ!」
「兄ちゃん!氷山に衝突だ!」
佐藤B達が駆け込んでくる。
「氷山!?ここ温暖海域だぞ!?」
巨大ディスプレイに映るのは、
確かに白い氷塊。
海面から突き出た氷の山。
ありえない。
「水中防御層一層浸水。二層、三層は無事。リーペが修復中です」
クルゥリーが即座に状況を読み上げる。
とりあえず沈まない。
だが。
空が暗くなった。
風が変わる。
雷鳴。
海面が渦を巻く。
そして――
黒い影が浮上した。
「……なんだ、あれは」
巨大ディスプレイに映るのは、三十メートルはあろうかという黒龍。
海を割り、雷を纏い、巨大な翼を広げる。
その声は、雷鳴のように響いた。
「我は海神龍ウラガ!何千年もの間封印されし魔王である!驚くなかれLv99!」
……99?
「我が封印された氷山を砕いた小さき者どもよ!礼として死を――」
ドゴォンッ!!
エーコのソードメイスが、龍の頭を叩き潰した。
龍、甲板に落下。
終了。
「……」
しばし沈黙。
「丸干し作れますわっ!」
エーコが嬉々として龍の上に飛び乗る。
俺はディスプレイを見つめたまま呟く。
「……千年前は強かったんだろうな」
Lv99。
今の世界では雑魚。
時代が違う。
力の基準が違う。
そして。
龍が倒れる直前、確かに言った。
「オトタチバナ……」
誰だ。
どこかで聞いた名だ。
だが思い出せない。
タヌーが手を叩く。
「占いの恐怖の大魔王、これの事だったポンね!」
清々しい顔。
だが。
クルゥリーは笑わない。
「……何か、違います」
「シップにドーン!ドラゴンがガオー!ノープログレムにゃ!」
「占いの条件は一致しておりますわ!」
皆は笑う。
エーコは既に解体作業に入っている。
だが。
クルゥリーは水晶を見つめたまま、呟いた。
「これは……ただのノイズだったようです。すみませんでした。」
その時。
水晶の奥で、ほんの一瞬。
白い光が走った。
世界を包み込む何かが見えた気がした。
気のせいかもしれない。
甲板では、巨大な龍が干され始めている。
空は再び晴れた。
艦隊は進む。
まだ誰も気づいていない。
本当に壊れ始めていたのは、未来だった。
その先に、続きがなかったのだ。




