恐怖!チート過ぎるダンジョン!
「パクッ、パクッ、モグモグですわっ」
「ミミちゃんすご〜い!」
ぬめった通路の先で、ミミが小さな口を動かしている。
目の前にいたはずの魔物は、もういない。
床に残っていた影だけが、ゆっくり消えていった。
俺達は今、ダンジョン地下148階にいる。
99階を越えたあたりから様子は一変した。
敵は強いとかそういう次元じゃない。
斬れない。
潰れない。
燃えない。
消えない。
まるで「倒される」という概念を拒否している存在ばかりだった。
だから――
俺達はここまで、一匹も倒していない。
「ミミちゃんの【なんでも食べちゃうわっ】は無敵ポン!」
「戦ってすらいないですよね?」
「まだまだ食べれますわっ」
そう。
全部、食べさせてきた。
四天王ミミのチートスキル
【なんでも食べちゃうわっ】
何でも、いくらでも食べる。
必要なら吐き出すこともできる。
つまり――胃袋型の無限収納庫だ。
物だけじゃない。
魔物も、人間も、理屈の上ではこの星すら食べられるらしい。
……絶対やるなよ。
このダンジョンでは、これ以上ないほど役に立つ。
なぜならここにいる魔物は【無限転生】を持っている。
倒せば復活し、しかもチートが増える。
だが食べた場合は「倒していない」扱いになる。
つまり復活しない。
理屈としては単純だが、結果はとんでもない。
復活のループを完全封鎖する最強の封印になる。
「このまま最下層まで食べ進めるか」
「ボスも食べちゃうですわっ?」
「やめとけ、ボスが可哀想だ」
冗談半分に笑う。
……だが、笑いは長く続かなかった。
遠くから音が来る。
ざわ……ざわ……
水の流れとも、風とも違う。
生き物の群れが動くような音。
「何だ?」
「ダンジョンボスが魔物を引き連れて、凄い速度で階を上がって来ています」
「何だってー!?」
クルゥリーが水晶を覗き込んだまま叫ぶ。
声がわずかに震えている。
「ボスが上がって来たらダンジョンの意味がないポン!」
「イッツクレイジーなボスにゃ〜!」
「そんなにミミに食べられたいのかしらっ?」
「どーんと!来なさ〜い!」
冗談を言っているが、誰も笑っていない。
ダンジョンのボスは最下層を守る存在だ。
それが自分から上がってくるなど聞いたことがない。
ゴールキーパーがゴールを捨てて、敵陣に走り込んでくるようなものだ。
つまり――
守る気がない。
あるいは、
守る必要がないほど余裕がある。
嫌な汗が頬をつたい、手が震えてくる。
ざわざわという音が、だんだん近づく。
床のぬめりが、わずかに震えた。
「カケル様……」
クルゥリーの声が低くなる。
水晶を持つ手が、はっきりと震えていた。
「大変な事が判明しました」
「何だ」
一瞬、間が空く。
クルゥリーは目を逸らさず言った。
「このダンジョンのボスは――女神様です」
「はっ!?」
「「「えええぇ〜〜〜っ!?」」」
頭の中が、空白になった。
ダンジョンの奥から、
さらに大きな気配が近づいてくる。




