突撃!チート過ぎるダンジョン!
「ヌルヌルゥ〜ポン」
タヌーの足が床を踏んだ瞬間、ずるりと滑った。
石のはずの床は、まるで油を塗ったように光っている。
「ウォーターをバキュームしたばかりなので、気をつけてにゃ〜」
リーペが尻尾を揺らしながら注意する。
だが注意した本人も、壁に手をつかないとまともに立っていられない。
「足元に気をつけて下さい」
クルゥリーが冷静に言うが、その直後。
「あうっ! ミミ尻もちついちゃいましたわっ」
ぺちゃっ、と小さな音がした。
「あははっ! よく滑るね〜!」
エーコが笑う。
笑い声が広がり――そしてすぐ吸い込まれる。
妙に音が響かない。
俺達は今、カケルダンジョン地下99階に来ている。
ここは人工ダンジョンの最深部。
そして同時に、湖の底に沈んでいた天然ダンジョンへと繋がる入口だ。
先日様子を見に来た時、ここは完全に水没していた。
天井まで満ちた水の中で魔物だけが蠢いていた光景は、今でも目に焼き付いている。
だからポンプで水を吸い出した。
今日は、その水が本当に抜けきっているか確認するための探索だ。
床一面には藻が張り付き、踏みしめるたびにぬめりが靴底にまとわりつく。
壁も、天井も、すべてが湿っている。
空気は重く、どこか腐った水の匂いがした。
二ヶ月。
たった二ヶ月水に沈んでいただけの場所とは思えない。
まあ、そのうち勇者達が歩き回れば削れて無くなるだろう――
そう思いかけて、やめた。
このダンジョンではチート禁止だ。
もしチートスキルで外壁が吹き飛ばされたら、上にいる勇者ごと湖の中だ。
だから違反者は、シロの【モンスター詐欺】で魔物を大量召喚して強制退場させる仕組みにしている。
魔物のレベルもシロが管理してる。
安全のはずだ。
……はず、なのに
嫌な予感が止まらない。
「下に降りてみよう......」
「ニャイニャイサー」
「了解です」
「わかったポン」
「はーいですわっ」
「はぁーい」
階段を降りるたび、水滴がぽつ、ぽつと落ちる。
音が遠い。
しばらく進むと、通路の先に揺れる影があった。
見覚えがある。
――アメーバ。
半透明の体が、呼吸するように膨らみ縮む。
表示されたLvは1。
「よし、エーコ。軽く頼む」
「どりゃあ!」
ソードメイスが振り下ろされる。
べしゃり、と潰れる感触。
……のはずだった。
「……あれ!?」
アメーバは形を崩さず、ただ揺れただけだった。
スキル『なんでも鑑定』を使うとログが浮かぶ。
【打撃無効】
【斬撃無効】
「は?」
試しにシロに許可をもらい勇者ビームを、威力を絞って撃つ。
【魔法無効】
嫌な汗が出る。
まさか、と思い即死させる左手で叩いた。
触れる。
確かな手応え。
だが――死なない。
【即死無効】
「耐性チート多すぎだろ!!」
倒す方法が、ない。
俺はすぐに理由を理解した。
水没だ。
窒息死 → 復活
窒息死 → 復活
それを繰り返してスキルが増えた。
王都沈没後、異常なチートを持つ勇者が増えたのと同じ現象だ。
つまりこいつは――
事故で強くなった存在。
通路の奥を見た。
暗い。
静かだ。
そして、嫌な予感だけが濃くなる。
「……最下層まで行こう」
誰も反対しなかった。
むしろ、全員同じ事を考えていたのだと思う。
もしこの先に、同じものが“沢山”いたら――
俺達は、何を作ってしまったのか。




