水上移動国家カケル王国誕生!
「キングカケル万歳!!」
「「キングカケル、バンザイ!!」」
「カケル王国は不滅なり!」
「「カケル王国は不滅ナリッ!!」」
空母の巨大な甲板が、ひとつの大陸のように震えていた。
艦隊は、もはや水平線そのものだった。
無数の船影が連なり、百万の歓声が波のように押し寄せる。
風すら熱を帯び、祝福の渦が空へと昇っていく。
勢いというものは恐ろしい。
気がつけば、この超大艦隊は「カケル王国」と呼ばれ、
俺は――王として即位することになっていた。
国土。
国民。
統治者。
三つが揃えば国家は成立する。
理屈の上では、確かにそうだ。
巨大ディスプレイに映る自分の姿を、どこか他人事のように見つめていると、
エーコが静かに歩み寄ってきた。
彼女は俺の首に、勾玉の首飾りをかける。
王冠ではなく、勾玉。
……古代日本かよ。
内心でツッコミを入れながら、歓声に押されて笑ってみせた。
「これより、キングカケル様の即位を宣言しますにゃ〜!」
リーペの声が、甲板全体に響く。
俺は青銅の鏡を手に取り、エーコへ差し出した。
この世界では、王女は鏡を持つらしい。
どう見ても三種の神器のノリだ。
少し照れた顔で、エーコがそれを受け取る。
沈んだ王都の王族の血を引くA家。
湖の底に沈んだ王城へ「結婚のためならエンヤコラー!」と突撃し、
神器を回収してきたあいつの姿を思い出して、思わず苦笑した。
……だが、らしい。
勾玉と鏡が揃った瞬間、儀式はそのまま結婚式へと移行した。
甲板には紅白幕。
提灯が風に揺れ、やぐらの周囲には露店の灯り。
空母の上とは思えないほど、祭りの匂いが満ちていた。
「ヤンデル時もジーザスな時も、フォーリンラブをオーケーしますにゃ?」
リーペが神父役として、妙な英語を混ぜながら問いかける。
「誓います」
「誓います」
俺たちは同時に答えた。
「ではぁ〜、誓いのディープキッスをゴーにゃ〜!」
……今、ディープって言ったな。
エーコと向き合う。
短いようで長かった時間。
女神への怒りも、このクソみたいな世界も、何一つ終わってはいない。
それでも。
エーコがいたから、ここまで来られた。
――ありがとう。
そう思った瞬間。
「お祭り……」
エーコが小さく呟いた。
「え?」
ドンッ!!
視界がひっくり返る。
「むぐっ!?」
押し倒され、次の瞬間には激しいキス。
いや、激しすぎる。
鼻まで塞がれて――息ができない。
「ちょっ……むぐっ……息……!」
声を上げようとしたその時、
駆逐艦隊から花火が打ち上がった。
ドォォン!!
爆音が歓声ごと飲み込む。
酸素が足りない。
視界が、ゆらぐ。
花火の光が、水の中から見ているみたいに歪んでいく。
耳の奥でゴボゴボと泡の音がした。
遠くで鳴る花火は、水中の雷のように鈍く響く。
……苦しい。
胸が焼ける。
暗い水の底。
重たい身体。
上へ、上へと伸ばした手。
――あれ?
俺、どこで溺れて……
遠くから声が聞こえた。
「……くん……架君!」
必死に呼ぶ声。
エーコに似ているけど、もっと遠くて、もっと昔の――
ふと、胸をよぎる。
もしかして。
これは――
死ぬ前に見るっていう、走馬灯とか……?
異世界転生なんて都合のいい話じゃなくて。
ただ沈んで。
落ちて。
流されて――
ここに辿り着いただけなんじゃ……。
意識が沈みかけた、その瞬間。
「ミスターカケル!?にゃあああ!!」
現実の叫び声が、頭の奥を叩いた。
「ストップにゃ〜!!」
「死亡確率90%です」
「顔が紫ポン!」
「おやめになってっ!」
四天王たちが駆け寄る。
だが――Lv1000億。
誰も止められない。
「【なんでも食べちゃうわっ】ですわっ!」
ミミが小さく口を開く。
ぱくっ。
一瞬だった。
エーコの姿が消える。
「グッジョブポン!」
「ミミちゃん、あっちに吐き出すポン」
「はーいですわっ」
ぺっ。
唾液でべたべたのエーコが、少し離れた場所にぽふっと現れた。
「えっ? あれ?
私、さっき架様とお祭りしてたはずなのに……?」
きょとんとするエーコ。
俺は咳き込みながら甲板に倒れ込む。
やっと肺に空気が戻る。
生きている実感が、胸の奥でじわりと広がった。
空には色とりどりの花火。
歓声は止まらない。
王即位と結婚式。
その中心で、俺は思った。
……この国、たぶん、めちゃくちゃになるな。
でも。
それでも――悪くない。
そんなことを思いながら俺はまた意識を手放した......。




