レッツチート!
《チートスキル【触れたものを即死させる左手】を覚えた!》
その声は、頭の内側を直接なぞるように響いた。
耳じゃない。
考える前の部分に、いきなり触れられた感じだ。
気付いたとき、俺はまた――
はじめての村の中央に立っていた。
空気が、さっきより軽い。
土の匂いと、少し湿った風。
……生き返った、らしい。
「今度のチートは……」
【触れたものを即死させる左手】。
名前だけ聞くと最悪だが、
前回よりは理屈が通っている。
アメーバ(魔王)は、全身で包み込んで消化してくる。
つまり、取り込まれた瞬間、
必ず左手に触れる。
「喰われかけないと倒せないのは気にくわないけどな……」
でも【経験値一万倍】がある。
一匹倒せば、状況は変わるはずだ。
俺は深呼吸して、村の出口へ向かった。
「ここは、はじめての村です」
「ここは、はじめての村です」
出口には、村人が一人立っていた。
動かない。
瞬きもしない。
風が吹いても、服の端すら揺れない。
声だけが、そこに残っている。
「……」
生きているというより、
置かれている感じだった。
昔のRPGを思い出す。
村の名前を言うためだけに存在するNPC。
「あの女神……」
呪いでもかけたんじゃないだろうな。
看板役として固定するなんて、性格悪すぎる。
そのときだった。
ぽよん、ぽよん。
嫌に軽い音を立てて、
アメーバ(魔王)が草原の方から近づいてくる。
「村人! 危ない! 逃げろ!」
叫んだ声が、少し遅れて自分の耳に返ってくる。
しかし、村人は動かない。
「ここは……はじめての村ですぅう!!」
叫びながら、
村人はいつもの動作の延長みたいに、
村を示す仕草をした。
――拳が、振り抜かれる。
空気が、破裂した。
次の瞬間、
アメーバ(魔王)は二つに割れ、
地面に崩れ落ちた。
……え?
音が、遅れて聞こえた。
俺の頭が、理解を拒否している。
「ここは、はじめての村です」
村人は、何事もなかったかのように、
また同じ言葉を繰り返し始めた。
慌てて【なんでも鑑定】を使う。
――村人(勇者)Lv500
数字を見た瞬間、
背中に冷たいものが流れた。
ゆっくり、村の中を見渡す。
村人(勇者)Lv500
村人(勇者)Lv500
全員、同じだ。
村長を見る。
村長(大勇者)Lv5000
……笑えない。
草原が魔王だらけなら、
村は勇者だらけ。
「俺、完全に余計だな……」
それでも、やるしかない。
草原へ向かい、レベルを上げる。
「……Lv10000」
左手を突き出して、アメーバに突っ込む。
ひやりとした重さが、左手に触れる。
次の瞬間、
何もなかった。
消えた。
【経験値一万倍】の効果で、
数字が異常な速度で跳ね上がる。
途中、Lv999の殺人アメーバ(大魔王)が
勢いよく飛びついてきた。
左手に触れた。
一瞬、
冷たいゼリーみたいな感触。
次の瞬間、
それも消えた。
……正直、かなり爽快だった。
「やっぱ無双って最高だな」
体が軽い。
風呂上がりみたいな気分で、村へ戻る。
村の入口。
看板村人の横を通り過ぎた、その時。
「ここははじめての村で――ぐわはあぁぁ!!」
村人が、村を示そうとして、
俺の左手に――触れた。
触感が、来た。
柔らかいとか、硬いとか、
そういう感触じゃない。
人の体温だけが、
一瞬、左手に残った。
次の瞬間、
村人は血を吐いて倒れた。
音が、消えた。
村が――
一拍遅れて、息を吸う。
「ひっ……!」
「人殺しぃぃぃ!!」
視線が、突き刺さる。
叫び声と同時に、村人たちが襲いかかってきた。
俺は、左手を見下ろした。
まだ、
触れてしまった感じが消えない。
……まずい。
この世界、
勇者が多すぎる。




