登場即退場
「キサマかっ!!
貴様が我が城を半分、湖に沈めたバカかぁあああ!!」
魔帝ハーレム Lv1兆は、怒号とともに闘気を解き放った。
爆風のような圧力が砂浜を走り、ビーチパラソルが宙へ舞う。
黒い柱のような闘気は空へと伸び、雲を割り、まるで宇宙へ届きそうな勢いだった。
「貴様……苦しめてから殺してやる!!」
だが魔帝の視線は、俺ではなく――空。
……ん?
上を見ると、小さな影が落ちてくる。
「ぬ? お主の事など知らぬのじゃ~!
架様はどこにおるのじゃ~!!」
ドゴォォォォン!!
空から降ってきた村長(大勇者)が、そのまま魔帝ハーレムへ蹴りを叩き込んだ。
砂が爆ぜ、湖面が揺れる。
「ククク……触れたな」
魔帝は笑った。
「触れたら絶対∞に即死する全身!!」
禍々しいオーラが広がり、空気が歪む。
「チートスキル反射!!」
村長が光の盾を展開する。
だが――。
オーラは跳ね返らない。
むしろ反射の光ごと飲み込み、村長の身体へまとわりついた。
「な、なんで離れぬのじゃ……!」
「我の即死はな、“結果”そのものだ」
魔帝ハーレムはゆっくりと歩み寄る。
「反射?無効?意味がない。
絶対∞に死ぬ、それだけだ」
「そ、そんな……ズルいのじゃ……」
村長は膝をつき、血を吐いた。
「グハァ……」
「アハハハハッ!!」
魔帝の高笑いが響く。
完全な詰みだった。
――その瞬間。
ヒュン。
何かが、空気を切った。
「……?」
魔帝がわずかに眉を動かした。
カンッ。
後頭部に、小さな衝撃。
「……?」
振り返ろうとした、その一瞬。
体が止まった。
「グ……?」
次の瞬間。
「グハァァァ!?」
血を噴き、魔帝ハーレムが崩れ落ちた。
砂浜に転がったのは――ガラスの灰皿。
【殴った者を即死させる灰皿】
エーコが、湖の家の裏から軽く投げただけのものだ。
闘気が霧のように消えていく。
空へ伸びていた黒い柱も、嘘みたいに消滅した。
……静寂。
四天王たちがぽかんと立ち尽くす。
猫耳の少女が震え声でつぶやいた。
「……え?
ハーレム様……?」
俺も固まった。
……今のはエーコの力じゃない。
灰皿の即死効果。
背後からの不意打ち。
闘気をばらまいて、防御が空っぽだったタイミング。
ただそれが、たまたま重なっただけだ。
魔帝ハーレムは、ゆっくり砂に沈んでいく。
Lv1兆。
絶対∞即死。
全部関係なかった。
ただ、灰皿が当たった。
それだけ。
「……え、終わり?」
エーコが首をかしげる。
本当に、軽く投げただけらしい。
俺は深くため息をついた。
大勇者だろうが魔帝だろうが、
倒れる時はあっけない。
……この世界に、無敵なんてものはないのかもしれない。
遠くで波が寄せては返す。
さっきまで宇宙規模の戦いだったとは思えないほど、砂浜は静かだった。




