憧れの水着回
砂浜を歩くたび、
むぎゅっ、むぎゅっと湿った音が足元から返ってくる。
湖から吹いてくる風はひんやりとしていて、
肌にまとわりつく暑さをすっと洗い流してくれた。
俺たちは、
村長(大勇者)湖の浜沿いを、北へ向かって歩いていた。
「浜沿いに行けば水も飲めるし、
いつでも魚が取れるから安心だね」
「マンモス肉も美味しいよぉ〜」
横を見ると、
エーコがちぎり取ったマンモス肉を
もしゃもしゃと幸せそうに頬張りながら、
十数トンもあるマンモスをこちらに差し出してきた。
全力で断った。
……改めて彼女の足元を見ると、
膝あたりまで砂に沈んでいる。
マンモスを多少食べて軽くしたとはいえ、
超重量の巨体を担いだまま、
さらにメイスや鉄パイプなどの鈍器一式を背負っている。
重い。
彼女の愛が重い。
今は比喩じゃなく、完全に物理的に重い。
それでもエーコは、
地面に沈むことなどまったく気にせず、
ずんずんと前へ進んでいく。
森側へ進もうとしたら、
マンモス肉が木に引っかかって
ゴリゴリ削れ始めたので、
「やだぁぁ! もったいない!!」
と全力で止められた。
……浜沿い一択らしい。
しばらく歩いていると、
遠くにカラフルな物体が見えてきた。
近づくにつれ、
それがビーチパラソルだとわかり、
さらにその下に――
水着姿の人々が大勢いるのが見えてくる。
「架様!
半裸の男女がいっぱい集まってますよ!?」
「お祭りでしょうか!?」
エーコはなぜか顔を真っ赤にして、
「お祭り…お祭り…」と小声で繰り返している。
「いや、あれは湖水浴場だ」
――しばらくして。
「お待たせしましたぁ〜」
「……エーコ、
ちょっと待て
なんでそんな格好してる」
エーコは、
湖の家でレンタルしてきたらしい
純白のマイクロビキニを身にまとっていた。
正直に言うと――
胸は平らだ。
だが、
だからこそ、
妙に視線のやり場に困る。
布の少なさと、
無邪気な笑顔の組み合わせが、
想像以上に破壊力を持っていた。
「えへへ、似合う?」
「……あぁ」
グラマーな体型より、
こういう方が効く場合もあるんだなと、
人生で初めて知った。
「女の子と湖水浴に来るなんてさ……」
俺は、
少しだけ感慨深くなる。
アニメや漫画で必ずある、
水着回。
ずっと羨ましいと思ってたのに、
現実では一度も縁がなかった。
――それが今、
目の前で起きている。
「……やっと王道ラブコメ異世界に来た気がする」
「いっきますよぉ〜!」
エーコが湖に入ると、
水をばしゃばしゃと跳ね上げた。
「やったなぁ〜」
俺も水をかけ返す。
冷たい水。
笑い声。
陽の光。
……あぁ。
異世界に来てやっと報われた。
もう、このまま終わってもいいんじゃないか
と一瞬だけ思った。
その時だった。
「キャーッ!
なにあれ!?」
「黒船だー!」
「魔帝城の方から来てるぞ!」
「魔帝からの攻撃か!?」
嫌な単語が耳に入った。
聞こえないふりをして、
人々が指さす方向を見る。
――湖の向こう。
巨大な影が、
ゆっくりとこちらへ近づいてくる。
しかも、
一つじゃない。
周囲に、
小さな影がいくつも浮かんでいる。
……嫌な予感しかしない。
「あれは……船だ」
次の瞬間、
湖水浴場の沖に姿を現したのは
空母。
駆逐艦。
巡洋艦。
湖の上に並ぶ、
明らかに異世界にあってはいけない艦隊だった。
――あぁ。
やっぱりこの世界、
クソゲーだ。




