ヤンデレ無双
佐藤Bは体を小刻みに震わせながら笑っていた。
勝利を、確信している笑いだった。
――だが、それは長くは続かない。
「……ザケンナヨ?」
低く、乾いた声。
エーコはしゃがみ込み、
いつの間にかガラスの灰皿を手にしていた。
「あれ? お前……
なぜ、まだ生きているのだ?」
エーコには即死を無効にする
【蘇生&全回復】がある。
次の瞬間。
「ザケンジャネェヨォォォォ!!」
――ガンッ!!
「グハァ!!」
「ゲハァ!!」
「ゴハァ!!!」
エーコが、灰皿を振り下ろす。
一度。
二度。
三度――。
ガラスの灰皿の重く鈍い音と、肉が潰れる音が重なる。
佐藤Bは、
【殴った者を即死させる灰皿】で即死するたび、
次の瞬間には蘇生され――
そしてまた、殴られた。
「グハァ!! ゲハァ!! ゴハァ!!!」
「グハァ!! ゲハァ!! ゴハァ!!!」
終わらない。
死んでは殴られ、
蘇生しては殴られる。
地獄のループ。
「ごっ……ゴハァ!!
ごめん! ごめんなさい!!
グハァ!!」
涙と鼻水と吐血を垂れ流しながら、
佐藤Bは叫んだ。
「食べた肉は!!
ゴハァ!!
百倍にして返します!!
グハァァァ!!」
「……ヒャクバイ?」
ぴたり。
エーコの手が止まった。
「……ほんとぉ?」
その声は、
さっきまでの狂気が嘘のように、可愛らしい。
「は、はいっ!!
家に帰れば!!
マンモスの丸干しがあります!!
グハァ!!」
「……ふぅん」
エーコはにこっと笑い、
灰皿を下ろした。
佐藤Bは、
糸が切れた人形のように崩れ落ちた。
「わぁ〜!
すご〜い!
マンモスの丸干しだわぁ〜!」
俺達の前には、
三階建てのログハウスと――
それに寄り添うように立てかけられた、
巨大なマンモスの丸干しがあった。
体長五メートル。
逆さまの巨体。
四メートルはある牙が、地面に突き刺さっている。
「ぱくっ……
きゃあ、美味しい〜!」
つまみ食いしたエーコは、
嬉しそうに跳ね回り――
そのまま、
牙を掴んでマンモスを持ち上げた。
ぶんっ。
ぶんぶんっ。
ログハウスに、ガンガン叩きつける。
「や、やめてくだせぇ!!」
「我輩達の大事な家がぁ!!」
おっさん勇者達が、
青ざめて飛び回る。
……全員、生きている。
彼らは殴られて気絶しただけだった。
下手に殺せば、
チートを増やして復活しかねない。
殺さなかったエーコの判断は、正しい。
――心は、完全に折れているが。
「エーコ。
色々貰ったんだし、家くらい許してやれ」
そう声をかけると、
エーコは素直にマンモスを下ろした。
「「「あ、ありがとうございますぅ〜!!」」」
俺達は、
感謝するおやじ勇者達を背に、歩き出した。
このままログハウスで暮らすのも悪くない。
……一瞬、そう思った。
だが、引きこもれば、
また女神に目をつけられる。
結局、旅に出るしかない。
「エーコ……
武器、持ちすぎじゃないか?」
「いいのよ。
くれるって言ってたんだから」
エーコは、
メイス、鉄パイプ、釘バット、ゲバ棒を背負い、
ガラスの灰皿は封印の包帯でぐるぐる巻きにしてカバンへ。
そのうえで、
巨大なマンモスの丸干しを担いで歩いている。
……どんな腕力だ。
湖から吹く風が、
草を揺らし、
血と鉄の匂いを、
水と土の匂いへと薄めていく。
この状態で抱きつかれたら、
俺の背骨が先に折れる。
仕方なく、
左手に封印の包帯を巻き、
エーコと手を繋いだ。
エーコは一瞬きょとんとしてから、
こっちを見て、にこっと笑う。
頬には、
焼いた肉の炭が少しだけついていたが、
本人はまったく気にしていない。
「……ちゃんと、手。
離さないでね?」
指先に、
少しだけ力がこもる。
あぁ――
このまま平和に、
二人で旅ができたらいいな。
そんなことを思いながら、
俺達は歩幅を合わせ、
ゆっくりと歩いていくのだった。




