ヒロインのエーコちゃん
青い空の下、俺たちは湖のほとりに立っていた。
ここは本来、
ダンジョンと学園を擁する――世界最大の王都が存在していた場所だ。
だが今、その王都はない。
少し前、
村長(大勇者)隕石の直撃によって吹き飛び、
街ごと湖の底に沈んでいた。
「へぇ〜……これが村長(大勇者)湖ですか〜。
おっきいですね〜」
エーコは、のんびりと背伸びをしながら言った。
ちなみにエーコは、俺についてきた水色ポニーテールの美少女だ。
本名は「村娘A子」。
この村では、
A子〜Z子、あ子〜ん子までが存在し、
子どもを産むと名前を譲渡して「○夫人」に昇格するらしい。
A子の母はA夫人。
孫ができればA婆。
……実に雑で、実に合理的。
この村らしい命名規則だ。
それより問題なのは――俺の心境だった。
本来ならここには、
・命がけのダンジョン
・個性豊かな同級生
・先輩後輩との因縁
・そして青春ラブロマンス
そういう王道ファンタジーの全部が揃っているはずだった。
なのに。
全部、湖の底だ。
俺と村長の戦いの余波で沈んだ街。
戦うたびに都市が消えるとか、
この世界、設計からして終わってないか?
しかもこの前、女神は大陸を一つ沈めていた。
もう人が住める場所、
「はじめての村」くらいしか残ってないんじゃないか?
……あの村、住民全員ほぼ呪われてるけど。
王都が凄いと聞いて、
丸一日、全力疾走で来たというのに――
やることが、何もない。
俺が絶望に沈んでいると、
エーコが湖の水を一口飲み、じっとこちらを見つめてきた。
湖面がきらきらと光り、
その前に立つ水色ポニーテールの美少女。
――雰囲気、いいな。
そう思った次の瞬間。
「架様、お腹すきませんか?
どうぞ、この猪の丸干しを食べてください」
差し出されたのは、
A夫人や村長の血がこびりついた、肉塊。
「……それ、人を殴ったりしてたやつだよね?」
「大丈夫ですよ〜。
アタイの愛のこもった吐血で、ちゃんと綺麗にしてありますから」
エーコは俺の左手を掴み、
ぐへへ、と血を垂らしながら見つめてきた。
――目が、完全にアウトだ。
普通なら全力で引く場面だが、
俺は絶対的・見た目主義者である。
可愛い。
だから許す。
……いや、許すけど、
吐血まみれ肉は無理だ。
俺のグロ耐性には限界がある。
「食料は、自分で確保する」
そう言って、湖に向かって手をかざす。
「勇者ビィーム!」
光線が放たれ、
湖の水面が――真っ二つに割れた。
一瞬で湖底に降り、
ちょうどいい具合に焼けた魚を回収。
湖の水に海水が微妙に混ざった塩分で、
ほんのり薄塩味だ。
水が戻る前に陸へ戻り、
焼き魚をエーコに渡す。
エーコは嬉しそうに、
焼き魚と猪の丸干しを両手に持って、交互に食べ始めた。
……丸干し、もう捨てればいいのに。
「架様のビーム、ほんと凄いですね〜」
「エーコもLv1万くらいになれば、そのうち使えるよ」
そういえば――
エーコのLvは、まだLv1のままだった。
【蘇生&全回復】
【愛の鉄槌】
この二つがある時点で十分おかしいが、
この超鬼畜ハードモードな世界では、
何が起きるか分からない。
……仕方ない。
一応、
レベル上げも考えてやるか。




