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朧
不慣れな隊列を成した一群を見送っていたのは、一匹の大きな亀だった。
よく見れば、頭に鹿の如き角を生やし、神木に水脈を彫ったような甲羅の後ろに蓑毛を靡かせている。
「施明の奴め、いつの間にか呪を解いておったな? ならば、儂も解くとするかのう」
ゆっくりと歩き出した奇妙な亀は、何かを思い出したかのように歩を止めると、振り返えるようにして遠くなる一群に目を向けた。
「諸葛恪か……。呪にかかったままの方が、幸せなこともあるのだがのう。果てさて、どうなることやら」
その奇妙な亀は再び独語すると、山の方へ向かってゆっくりと歩き出した。
その山からは、風に乗って微かな子どもの笑い声が聞こえていた。
妖しの渓嚢が、笑ったようだった。(了)




