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王宮魔法使いは目立ちたくない

作者: 猫の手
掲載日:2026/02/03

 ロアは王宮の廊下を足早に歩いていた。

 この国の王女様に呼ばれて部屋まで馳せ参じたがその内容は極上のかき氷が食べたいという実にくだらないものであった。そういうことは料理長に言え!と、叫びたい気持ちを押し込め水魔法で氷を生成し、風魔法で繊細に削り、料理長の渾身の出来だというシロップをかけて召し上がっていただいた。ロアも一緒に頂いた。

 王太子である第一王女様はとても優秀ではあるが、時折こうしてくだらない用事で呼びつける。研究室にこもっているロアには王女様の王女宮は建物も人も煌びやかすぎて落ち着かないのであまり足を運びたくない場所だ。


「あぁ、眩しすぎる…」


 案内の侍女と別れ、久しぶりに見る陽射しは目に眩しすぎて中庭を横切る廊下を早足に通り過ぎながら研究室へ急ぐ。


「おや、珍しい場所にロアがいるね」


 突然聞こえた声に廊下の床を睨みつけていた視線を、太陽の下で銀糸のような艶やかな髪を揺らしながら近づいて来る男へと向けた。


「げぇ…何故こんなところに…」

「久しぶりに会った同僚になんて言い草なんだ」


 庭園に咲き乱れる花を背にして長い足をこちらに向けて来る男にロアは柱の日陰へと体を縮こませる。


「眩しい…眩しすぎる。髪の毛に太陽が反射して私の目が焼ける…」

「私の自慢の銀髪をそんな汚物を見る目で見る人はロアしかいないよ。また眼鏡を忘れたのかい?」


 頭ひとつ分小さいロアを覗き込みながらそのやたらと綺麗な顔を近づけてくる男にさらに表情を歪めた。


「急に王女様に呼び出されたからな。久しぶりに部屋の外に出たらこんなに明るいと思わなかったんだ」

「そりゃ昼だからね。どうせまた研究室こもって部下を困らせたんだろう。君、王女様の呼び出しぐらいのことがないと出てこないから」

「うぅ…ハイスはなんでここにいるんだ」

「私はちょっと防護壁の強化のことで用があってね。午前中に王女様と会ってその後そこら辺で昼寝してたら君の気配がしたから」


 このハイスという男、なんてことないように言ったがここは王女宮である。この男でなければ王女宮で昼寝など不敬罪で牢屋行きだ。

 ハイス・バイデン。この国の七星と呼ばれる大魔法使いの1人である。色素が薄いことが魔力量の多さの証明となるこの国で、彼の白に近い銀髪は膨大な魔力を持っていることが一目でわかる。彼曰く自慢の長いそれを綺麗に編み込み前へと垂らしていると嫌でも目に入り、光を反射してロアの目にしみる。

 同じように編み込んだ真っ黒な長い髪を背中に垂らしているロアと並ぶと、とても対照的な2人であった。


「私も魔法塔に帰るから一緒に帰ろう。ほら、私の影に入れば眩しくないだろう?」


 そういって目を細めるロアの手を引きながら歩きだす。


「新しい研究は上手くいってるかい?」

「あぁ、やっと水魔法と風魔法を組み込んだ浄化装置が出来そうだ。これで私の仕事もひとつ減るだろう」

「それは凄いけどたぶん君の仕事は対して減らないと思うけど」

「いいや!あれがあれば毎回水の魔法使いと風の魔法使いを池掃除に使う文官達を黙らせられるはずだ」

「まぁ水も風も汎用性高いからなぁ。君のとこの部下達は忙しそうだよね、いつも」

「お前のところはいつもなんか暑苦しいもんな。魔法使いなのに」

「私のとこは火と地の魔法使いだからね。なんか爽やかさがないんだよね、どうしても」

「戦闘においては群を抜いて強いけどな。お前のところは」


 手を引かれたまま足元を見ながら話しているとハイスの足が止まり、顔を上げた。


「ほらロア、君の塔についたよ」


 そう言って振り返ったハイスは切れ長の目を細め、薄く形のいい唇に弧を描きながらロアの顔を覗き込む。今まで細めていた目をようやくしっかり開いたロアの目と今日、初めて視線があった。

 ロアの魔法塔はロアが明るい光が苦手な為、窓には光をカットする特殊なガラスが使われており、他に比べると薄ら暗い。自室以外は気を使わなくていいと散々言ったのだが部下達が聞く耳を持ってくれず全ての窓に施されていた。


「ありがとう、ハイス。お茶でも飲んでいくか?」

「いや、さすがにそろそろ戻らないとどやされそうだからもう戻るよ」


 そう言いながらじっとロアの目を見ると、長い指でそっとその目元を撫でた。


「久しぶりに眼鏡越しじゃない君の瞳を見た気がする。たまにはいつもと違う所で昼寝するのもいいものだね」


 いや、王女宮はだめだろ。と心の中でツッコミながらそういえばハイスに会うのが1ヶ月ぶりだったことに気がついた。


「なんだ、会えなくて寂しかったのか?」

「…いや、まぁなんというか君ほんとに情緒がないよね」

「色仕掛けられてたのか?いまさらお前の顔を見てもなんとも思わないが」

「私の顔に笑いかけられたら頬を染めるぐらいしてもいいだろう」

「そういうところだぞ」


 長い間同僚をしているがハイスはロアの瞳が好きらしい。同じ職場の時は暇さえあれば眺めていたぐらいだ。


「まぁお前はほんとに私の目が大好きだからな。何かの拍子に落ちたら標本にしてお前にやろう」

「え、そんな気色悪いものいらないんだけど」

「失礼な、魔眼だぞ。国中の魔法使いが欲しがる、はずだ。たぶん」


 ロア・ホーキンス。ハイスや他の魔法使いと違い魔力なしの象徴とされる真っ黒な髪であるにも関わらず、最年少で大魔法使いとなり、終戦へと導いた英雄の1人だ。髪の代わりにその瞳は角度によって黄金にも虹色にも見え方が変わる魔眼と呼ばれる瞳を持つ。ロアからしたら魔眼だなんだと周りが騒いでいるだけで特別なことは何もなく光に弱い代わりに夜目が効く程度である。


「じゃあ目はいらないから今晩君の研究室で飲もう」

「じゃあってなんだ。全然関係ないだろう」

「仕事終わったら行くね。じゃあまたね」

「あ、おい!」


 機嫌良く去っていく背中を成すすべなく見送りながらロアはひとつため息をつくと大人しく自分の研究室に帰っていった。

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