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ACT24・BAD ENCOUNT

 ラネット・アルトラスの目的は、人間界で願いの欠片(ウィッシュガスト)を集め、魔法使い昇進試験に合格すること。

 現在ウィズラントでもっとも権威のある存在、大賢者の称号。

 ラネットは、その遥かな高みを目指して邁進する魔法学校の生徒なのだという。

 より高位な、上位の席に行くのなら、数々の試練を越えなければその座には辿り付けないのだという。

 魔法使いとしての勉強は勿論、願いの欠片(ウィッシュガスト)の収集も。そして、彼女の目的はひとつ。

 全知全能、大賢者をも超える存在。   

 ウィズラントに伝わる伝説の称号だった。


「神野くん」

 光太朗が教室に登校してきたのは、昼になる寸前のことだった。

「・・・大丈夫だった?」

 昨夜、蛇ノ目を通じて連絡を貰った。

 テレビで流ていた事故のニュース。涼香が帰る最中にその事故に巻き込まれたことを後に知った。それを助けるために真っ先に飛び出したことも。

 百合花にも、一織にもそのことを告げずに向かったことを責めてやるな、と蛇ノ目は言い残して。

 それは、決して他人の力を得て解決しようとしていないわけではないということを。

 今日、光太朗は午前中に涼香が入院している病院へ見舞いに行った。

 涼香は「あはは。ドジッちゃった」と努めて陽気な笑顔で光太朗を出迎えた。自分のせいではないのに。

「・・・大丈夫だ」

 涼香は、まだベッドから起き上がることが叶わないものの、幸いにも後遺症もなく、安静にしていればじきに退院できるという。

 その際、「退院の日に迎えはいらないよ」、と。涼香は退院の日そのままに地元に戻るのだという。今度会う時は、元気になった自分が料理を作りに来る時だと。

「大丈夫?神野くん」

 話が話だけに、小清水はいつもの追求も影をひそめ、心配そうな表情をその顔に浮かべている。

「何か困ったことがあったら言ってね。助けになるから」

「私達も力になるよ!」

 百合花だけでなく、クラスメイトに、広がる優しさ。

「ありがとう。でも大丈夫だ」

 先ほどと同じ言葉を吐き、光太朗は笑顔を浮かべる。

 百合花は、それが強がりであることを見抜いていた。

 本当は、その心が涼香に対する心配で満たされているのを知っている。

 光太朗の『水晶花(フロスタル)』が、儚くも危うく揺れ動いているから。


 放課後。

 百合花は蛇ノ目の研究所に呼び出されていた。

「来たな」

 地下の研究施設ではなく、一階の台所だ。そのテーブルの上には、膨らんだビニール袋が鎮座している。見ると、その中には様々な食材が詰まっていた。

「叔母君の助けを借りられない今、光太朗の食生活は不安の一途を辿っておる。せめて温かい食事を提供してやりたい」

 それに百合花は困ったような表情を浮かべている。

「料理だったら、アフロディーテの方が適任だし、ここに食べに来れば済む話では」

「ワシは研究で忙しい。アフロディーテも光太朗がリングを身に着けていない今では、街の危機を監視する役割に身を置いてもらっている」

 百合花はあまり料理が得意ではない。そりゃ、必要最低限の物は作れるが、それを胸を張って人様に出せるほど、自信はない。

「料理の上手い下手は関係ない。いかに温かい食事を提供できるかが大事なのだ。やつは、それを求めておる」

 蛇ノ目の言葉に百合花はしばらく思案した後。

「・・・わかった。やってみる」

 百合花も、光太朗を元気付けたい。助けになりたい。その気持ちに偽りはない。

 百合花はスーパー帰りの主婦の如く、袋を手に蛇ノ目宅を後にした。


 光太朗の食事問題など、アフロディーテを神野家に向かわせればそれは一発で解決できる問題だ。でも、それでは光太朗の身にはならない。

 あわよくば、光太朗と百合花の距離を縮めさせたいという目論見の祖父心、いや、蛇ノ目は光太朗にとって、祖父でもないのだが。

 一織も光太朗には兄に対する感情とは異なる、並々ならぬ想いも感じるが、彼女と光太朗の年齢差はいかんともしがたい。いや、今はそんな時代でも無いのかも知れないが。

 蛇ノ目はの心境としては、ここはひとつ光太朗と百合花を戦闘においてもプライベートにおいてもタッグとして推していきたいところではある。

 蛇ノ目は百合花の去ったのち、椅子に背を預け、その顔にたおやかな笑みを浮かべたのだった。


 デジャブのような感覚に、百合花は苦笑する。

 百合花は神野家の前で佇んでいた。

 だが、その時とは違う、先日のカバンの忘れ物を届けに来た時とはまるで異なる緊張が百合花を包む。冷静になって考えてみると料理を作りに、だって?それではまるで通い妻ではないか。

自分の妄想に、百合花は自分で赤面する。

 いや、ただ食事を作って施すだけ。味の保証はしないでもいい。そういう頼みだ。

 百合花はインターホンに指を掛け、押す。

 涼香は入院中で、玄関から出てくるのは光太朗本人しかいないはずだ。

 彼は大丈夫だろうか。気落ちしていないだろうか。

 どうやって、話そう。彼にとっては、料理を施してもらう言われはないだろうけど、食べないと、力も出ない。

 ガチャ。扉の開く音で百合花は意識を引き戻される。

 これも、先日味わった既視感と重なった。

 だが。

 玄関から姿を現したのは、

「・・・だれ?あんた」

 光太朗ではなかった。


 神野家のリビングには光太朗。

 対面にはふたりの女子。

 片方は百合花、その隣の席に座するのは、百合花の知らない女だった。

 名を、ラネットと言った。

 母親では当然ないと思うし、涼香とは似ても似つかない。その他の親戚がいるとも聞いてはいない。

 衝撃的な事実を知ったのは次の時だ。

「・・・この家に、居候?」

 光太朗は不服そうに、少女はそれがさも当然、当たり前のように。

 その経緯に至った話も聞いた。

 先日のゴンドラ救助の事件。

 解決したその後、変身を解除した光太朗の姿を、その少女が写真に収めていたのだ。

 ヴァイオレットバイパーの正体を隠してヒーロー活動している光太朗にとって、その正体を明かされるのは都合が悪い。

 ヒーローの正体見たり、と光太朗の元へ興味本位の野次馬が押し寄せるかも知れない。光太朗に成敗された悪人が、彼に復習の気持ちを抱いたとしても何ら不思議ではない。

 それを盾に、この少女はここに居座ることを求めたのだ。

 確かにこの家は身を隠す、という意味においては最も適しているだろう。

 それよりも。

 男の子が住む家に、女の子が転がり込む。この意味をお互い分かっているのだろうか?

 ラネットの目的は、願いの欠片(ウィッシュガスト)なるものを収集することだという。

 普通なら何をバカなことを、とただの戯言だと聞き流していたところだが。

人間の持つエネルギーの存在を知っている百合花にとって、その言葉を一蹴することはできない。

 涼香を心配する光太朗。光太朗を想う涼香。お互いがお互いを強く結びつけたその時、そのエネルギーは生まれるという。

 差し出された小瓶に満ちる輝く液体がその証拠なのだという。

「ふぅむ。我も見たことのないエネルギーだ」

 小瓶の周りをゆっくりと、値踏みするように半白半黒の猫は目の中に映す液体を一瞥。

水晶花(フロスタル)でも、スタープリズムの持つ輝きでもない。何より第三者にもこうして視認できる、物として現れる。エネルギーとしてよりも、現象と呼ぶほうが適切なのか」

 半白半黒の猫、ニアはそんな感想を漏らす。

 当然と言うべきか、ラネットもロディマスも、喋る猫に驚いたりはしない。

「そういうこと。あたしはこの願いの欠片(ウィッシュガスト)を規定数集めるのが目的」

 だからといって、年頃の男と女がひとつ屋根の下?

 そんなのは、ダメだ。

 爛れた関係だ。

 自分で考えておきながら、百合花は身体を襲う熱と共に顔の温度が上昇していくのを感じる。

「ダメよ!貴方はここに身を置くことはなりません!」

 激昂した百合花が、両手をテーブルに打ち付けつつ、立ち上がり絶叫。

 そんな様子を、ラネットは半眼になりつつ、見上げる。

「どうしてそれを、あんたの許可を得なくちゃいけないの?」

 そして、

「それに、そもそもアンタはコータローとどんな関係なのよ。アンタに指図される筋合いはないっての」

「わ、私は神野くんのクラスメイトよ!」

 ラネットは、百合花の言葉にことさら表情を歪めて、

「尚更関係ないじゃない。あたしがどこの家にいようと、勝手」

 百合花の怒りもどこ吹く風。極めてあくまで平坦に、ラネットは百合花の言葉を聞き流す。

 まるで柳のように自分の主張を受け入れないラネットに、百合花は憤慨。

「じ、神野くんはいいの!?こ、こんな得体のしれない女の子を自分の家に招き入れるのを!」

 百合花の怒りに、光太朗は表情を複雑に変えて、

「・・・願いの欠片(ウィッシュガスト)が貯まるまでだ」

・・・信じられない。百合花は目の前が真っ暗になる感覚を覚えた。

「ほら、家主の許可がでたんだから、部外者はさっさと帰りなさいよ。・・・あ、これお土産?」

 ラネットが図々しくもテーブルの上の食材の詰まった袋を見る。

 むんず、百合花は伸ばしかけたラネットの手を払い除け、スーパーの袋を手に取ると、ラネットを一瞥して、神野家のリビングを後にする。

「白崎」

 玄関先、そして外まで追ってきた光太朗の顔が見れない。

 彼の家庭環境が複雑なのは、同情する部分があった。でも、だからといって見ず知らずの女の子を匿うためとは言え、家に置くのはいかがなものだろうか。

 あまりにも危機管理がなっていないし、不用心過ぎると思うのだ。それに、彼女の存在を相談もしてくれなかった光太朗に対しても、不穏な気持ちが芽生える自分が嫌だった。

 だから、捨て台詞のように「また、明日」と言うことしか出来なかった。


「ヴァイオレットバイパーの正体を盾に取られては、彼も動きようがなかったと思われる」

 百合花の歩く道。

 その横。塀の上を、ニアは百合花と同等の速度で追随し、言う。

「・・・ウィズラントか。それも含め、彼女のことは我の方でも調べてみよう」

 博識のニアでさえ、その名は初めて聞く世界の名なのだろう。

「それにしても驚いたな」

 ニアがポツリとそんな言葉を呟いた。

「君があれほどまでに気を荒ぶらせるのを初めて見る」

 長い付き合いのニアと百合花ではあるが、戸惑いと共に怒気を孕んだ声を放った、それも、異性のことに対してだ。

「あ、あれは。別に。ただ、本当に年頃の男女が一緒に住むなんて、破廉恥だ、っ思っただけよ」

「その点に関しては、あの使い魔の犬がいる。君の思う最悪の事態に陥る可能性は低いだろう」

 自分流の最悪の事態を想像し、百合花は顔を真っ赤に染めた。

 その指摘に、「私はただ、あくまで心配しているだけで」と必死の形相で抗議をするので、ニアは疎ましそうに尻尾を振ってそれを制した。

 周囲は夕暮れの色が陰り始めている。

「ニア」

 百合花の声に、半白半黒は髭を揺らして反応。

「私、博士のところに行ってくるね」

 手にした荷物もあるのだろう。

 だが、ニアはそこに決意めいた物を感じ、長年の友人の行く先を見送った。


 先ほど送り出した少女が戻ってきたことに、蛇ノ目は驚きを隠せなかった。持たせた食材の詰まった袋もそのままだったからだ。

「アフロディーテ」

 台所で博士の夕食の調理を勧めているメイドロボに、百合花は決意を込めた声で、口を開いた。感情の宿らぬ瞳が百合花を見る。

「なんでしょう、百合花様」

 百合花はテーブルの上にビニール袋を置きつつ。

「教えてもらいたいことがるの」

 そう言って、百合花は真っ直ぐと、アフロディーテの目を見つめたのだった。

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