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ACT20・RESTART

 そびえ立つ高層ビルに、吊られるゴンドラが風に揺れて不穏な動きを見せている。

 清掃用に屋上から吊るされたゴンドラの中には作業員がふたり。軋むワイヤーとゴンドラが大きく揺れることに、その表情を恐怖に歪めている。

 その高さ、数十メートル。

 下の見物客が首を持ち上げないくらいには、高い。おまけに、揺られるゴンドラがその恐怖をさらに煽っている。

 清掃作業中のゴンドラが、作業中に吊るワイヤーが破損。そのせいで、横長の鉄のカゴが傾きかけようとしている。

 救助は難航しているらしい。

 ビルの下では、見物人の姿がゴンドラの行方を見守っている。 

 ぎぎぎ、と明らかに普通ではない異音に、もうあまり持ちそうになさそうな雰囲気が見て取れる。

「一織ちゃんに連絡する?」

「いや、ダスター案件じゃないんだ。俺たちだけで十分だろう。…フォローを頼む」

 そんな光景を、件の隣合うビルの屋上から眺める影がふたつ。

 ひとりは全身紫色の、奇妙な鎧に身を包んだ、男の声。

 もうひとりは、花をモチーフにしたような、派手な衣装に身を包んだ、女子。

 どちらにせよ、両者ともこの場所には相応しくないし、似つかわしくない。

「分かったわ」

『ヴァイオレットバイパー』の言葉に、『花の騎士(プリマエクス)・ホワイトリリィ』は、空中でそれぞれの方向へと飛び、散開した。


 ばきん!と嫌な音が鳴り響き。

「うわあっ!」

 ゴンドラが上から支える力を失い傾き、作業員の叫び声が重なった。

 哀れ、ゴンドラは地上に落下。

 だが。 

 何に引っ張られるように、鉄のカゴが落下の動きを止めた。

 当然、どこかに引っかかったわけでも、ワイヤーが生きていて吊るされた訳では無い。

 紫色の鎧を纏った人型が、片手片足でビルの壁に張り付き、空いた片手だけでゴンドラを支えていた。

 ゴンドラだけで数百キロはある。ただの人間に支えられる重さではない。

 清掃員たちは、その姿に覚えがあった。

 世間では、『紫仮面』『紫の君』などの異名を持つ、謎のヒーローだ。

 その正体は不明。

 ただ、世を陥れる悪を許さぬ正義の戦士であるということ。

 悪事を働く狼藉者をちぎっては投げ。

 犯罪者たちからは疎まれ、街に生きる市民からは英雄視されている。

 今も、危険に晒されている自分たちを助けに来た。

『怪我人はいるか』

 電子音声に変換された声に、作業員は首を横に振る。それを確認すると、人間ではない動きで屋上まで跳躍する。その手にゴンドラの縁を掴んだまま。

 自分よりも遥かに大きい鉄の塊を抱えたまま、まるで何も持っていないかのような動きで、ゴンドラを屋上へと乗せたのだった。

 しかし、紫仮面の動きはそれで終わらなかった。

 紫色の戦士は手早い動きでゴンドラと屋上を繋ぎ止めるワイヤーを、まるでそれがただの糸のように引きちぎる。

『しっかりゴンドラに掴まっていろ』

 最初、作業員は何を言われているか分からず、だが、再度揺れるゴンドラにおののき、手近な場所を掴み上げる。

 次の瞬間には、ゴンドラが浮遊する感覚を覚え、安全ヘルメットから覗かせる視界が数センチ高くなったのだ。

 紫仮面は何を思ったか、ゴンドラを掲げ、肩に担いだのだ。

 そして。

 気が気ではない行動に、正気ではない何かを悟る。

 作業員の、頭を掠める嫌な予感は現実になる。

 紫仮面はゴンドラを担いだまま、ビルの屋上から飛び降りたのだ。

 ゴンドラの中に絶叫が満ちる。

 視界の中に流れる窓が、凄まじい速度で通り過ぎていき。

 清掃員の覚悟と共に、ゴンドラを抱えた紫仮面が地面に激突する瞬間。

 瞬間的に重力が消え失せ。

 凄まじい速度だった自由落下は強制的に殺され。

 ふわり、と形容できる動きで、ゴンドラを抱えたまま、紫仮面の両足が地面に着地する。

 ごとり、とゴンドラも無事、地面に生還する。

 最後にゴンドラの中に異常が無いのを見届けると、紫仮面はその場を跳躍して去る。

 ゴンドラに吊られていた時以上の恐怖がその顔を支配していたのは、見なかったことにする。

 ビルの壁を駆け上がり、空高く消えていく姿を、作業員は未だ恐怖とないまぜになった表情で見送っていた。


「ちょっと、飛び降りて助けるんだったら、前もって言ってよ!」

 ホワイトリリィこと白崎百合花は、傍らのヴァイオレットバイパーこと神野光太朗を薄い目で睨む。

 百合花の能力での補助がなければ、光太朗自身は無事でも、作業員がただでは済まなかったであろう。

「お前の能力を当てにしていなけりゃ、出来ない芸当だ」

 風に揺られるゴンドラのワイヤーが千切れたら、被害が大きくなっていたのはわかる。

「その言葉も嬉しく、結構だけど、無茶はよくないわ」

 街の平和を守る理念から反している。いくら街を救っても、人が傷ついたら意味はない。

「・・・以後気をつけます」

 百合花の鋭い視線を受け、光太朗は力なく答える。

 光太朗が平和を守る活動を続けて暫く経つ。

 一介の高校生である光太朗が、珍妙な紫色の鎧を身に纏い、世のため人のために奉仕することになったのには理由がある。

 自分の身体が事故により破損し、変身ヒーローのような身体を手に入れたのと引き換えに、光太朗は高校生には到底返せないような借金を背負った。

 その原因である蛇ノ目博士との約束で、世にはびこる悪、街を陥れる敵を排除した時、借金を減額する契約を交わす。

 今回の件は、高所作業中のゴンドラの異変。借金減額の対象内ではあるが、現代技術を使用したならず者の対処ではないため、その減額は微々たるものだ。それでも塵も積もればなんとやら。借金完済のため、日々街を救う仕事に従事しているのだった。

 神野光太朗は、ヴァイオレットバイパーと呼ばれる全身紫色の正義のヒーローとして。

 白崎百合花は花の騎士(プリマエクス)と呼ばれる魔法少女として。

 同じ学校に通う、同じクラスの同級生。

 そして。

 世界を覆う悪と戦う、戦士だった。


 ゴンドラの外されたビルから、ふたりの奇妙な格好をした影が立ち去って数刻。

 問題のビルでは、残ったワイヤーを取り外す作業が早くも行われている。

 そのビルより遥か上空。

 鳥でも飛行機でもない何かが、そこよりも遥か高い、そのビルですら眼下の如く収めている。

「なーんか面白いもの、見っけ!」

 ひとりの少女が不敵な笑みを浮かべ、光太朗と百合花の去った方向を眺めていたのだった。

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