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ACT18・終末の呼び声

「あのような使い魔を道化師が有している事案はない」

「ダスターもですわ」

 ニアとウサポのお互いの見解は合っている様だ。

 アンチホープにダスターのような姿をした存在はなく、ダスターにもまたしかりだ。

 特に人の姿を捨てたダスターは、人間の姿は過去に置いてきたものに過ぎず、今の姿こそが進化の果てなのだという。

 だとするのなら、アンチホープとダスターには何らかの繋がりがあり、最悪は協力体制を敷いている可能性がある。

 あの道化師は絶命する瞬間、かつての主の名などではなく、カオススターの名を呼んだ。

「彼らの目的はなんなのじゃ」

 蛇ノ目が聞く。

「あの道化師はお互いの目的は同じ方向を向いているとは言っていたけど」

 百合花は自身が貫いた黒衣の最後の言葉を思い出す。

「かつてのアンチホープの目的は、マギアスの聖王都、ラグナティールの秘宝である花の聖飾(アルマドレス)の破壊」

 ニアが忌々しそうに呟く。

「そして、水晶花(フロスタル)の輝きを奪い、デュミルアスの封印を砕き、マギアスを闇晶空域による恒久的な閉鎖と支配」

 それを、百合花が守った。

「カオススターの目的は、千年単位で起きる星座の結界のズレを狙い、宇宙を闇で覆うこと、でしたわ」

 それも世界を脅かす存在で、一織が救った。

 だが話を聞く限り、どちらの親玉もこの世には存在せず、世界には平和が訪れたはず。だからこそ百合花も一織も長い間戦うことはなかったのだから。

「ただ、完全にアンチホープが全滅したわけではない。我々神官が目を光らせているため、今まで大きな動きは見せていなかった」

「カオススターが消滅した今、ダスターが動く意味もわかりませんわ。スタープリズムを捧げる王がいなくなったわけですし」

 しかし、アンチホープもダスターの軍勢も健在で。それが脅威が続いているのを意味している。現に、無数の人間の水晶花(フロスタル)、スタープリズムが奪われる事件が相次いでいる。

「あの道化師とかいう奴をとっ捕まえて吐かせれば良かったんじゃないのか」

 そんなうまく行く訳があるまいよ、とニアにたしなめられる。確かに、話の通じなそうな雰囲気しかなかったからな。

「ダスターは・・・、そもそも喋らないか」

 だからこそ、あの無機質な立体の化け物に恐怖を覚える。生物的で有りながら、機械めいた静けさに。

「高位のダスターは喋りますわ」

「え、そうなのか」

 あの立体図形が喋る。それが本当だとしたら、不気味さに拍車がかかりそうだ。

「それゆえ、自分たちが宇宙を支配する高尚な生命体だと勘違いしているのですわ。手を取り合うことをしない。対話を良しとしない。自分たち以外はこの宇宙に必要ないと」

 ウサポの言葉に、一織は複雑な表情だ。彼女自身も、その思想と戦ってきたのだろう。

「とにかく」

 蛇ノ目はパソコンを見ずに打ち込みながら、

「ダスターとアンチホープの現段階での共通項は、お互い人間から生まれるエネルギーを欲する、という部分かの」

 水晶花(フロスタル)とスタープリズム。どちらも人間の根幹に宿るエネルギー。

「ダスターとアンチホープが共闘していたのは、お互いに都合がいいからなのか。襲う対象は同じだ」

 すなわち、人間だ。

 現段階では何も分かっていない。全て推測の域を出ない推察に過ぎない。その問いに答えられる人間はこの場にいないからだ。

「・・・ところで博士はさっきから何をやっているんだ」

 お茶を飲むのすら惜しいのか、湯呑みを口元に運ぶ役目を機械の腕に任せる理由。

 蛇ノ目はノートパソコンをぐるりと回して、画面を見せてくれる。

 複数のウインドウの重なる中、どこかで見知った画像がある。知っているどころか、そこにはついさっきまでいた場所だ。

 そこは七色タワーの展望台。

「定点カメラをハッキングした」

 軽く言うが、犯罪じゃあないのか。

「当然、研究以外での使用は誓って行わん」

 キーを操作すると、画像が巻き戻り。遠までのダスターと光太朗、百合花、一織を含んだ映像で停止する。

「シェイドはともかくとして、やはりダスターの体組織の解明にはもっとデータが要るでな」

 キーを押し、切り替わると別のカメラからの映像になり、展望台そのものより、遠い町並みを映す視点に変化する。

 七色タワーで起きたことが嘘のように、そこには平和な光景が広がっている。

 瞬間。

 光太朗の身体を不快な感覚を襲う。目眩にも似た、倦怠感。

 瞬間的に異常を悟る。この感覚は、知っている。

 どざっ。

 それを裏付けるように、蛇ノ目の意識が途切れ、ノートパソコンに顔を突っ込む。

「博士」

 弾丸のように飛んできたアフロディーテが蛇ノ目の身体を支える。

「これって」

「・・・一織、ちゃん」

 目を伏せる寸前。夜宵が友人の名を告げ、床に倒れ込んだ。一織と百合花が顔を見合わせる。現在の街の様子を示す画面にも異常をきたす。

 どうんっ!

 巨大な爆発音がディスプレイから聞こえ、街中から公園が吐き出される。小さく聞こえる悲鳴。

 連鎖するように建物が破砕。爆炎が撒き散らされた。その原因はカメラの死角から降り注ぐ、奇妙な光弾のせいだった。

 着弾するやいなやビルは弾け、炎を生む。

「何、これ」

 震える声で百合花が呟く。

 パソコンのディスプレイに映し出されたのは、見たこともない異形だった。


 街に飛び出ると、その異常さが際立つ。

 そこはまるで世界の終わりのような光景だった。

 あちこちで火の手が起こり、建物は崩れ去る。

 なのに、不思議と人の悲鳴は一切聞こえない。

 建物の崩壊や火事に巻き込まれた。そんな考えが浮かぶ。

 その原因は、倒れ込む人たちにあった。死んでいる訳では無い。街の人間全ての意識がなくなっていたのだ。

 その要因は、この街の上空にあった。

 巨大な塊が空中に座している。

その巨体を形成するのは、無数の立体がいくつも結合して、その巨体をなしている。まるで様々な形、大きさのダスターがひと塊になっているかのようだ。

 それはシェイドのように黒い禍々しい輝きを放っている訳でもなく、ダスターのように単色で形成されて要るわけでもない。

 例えるなら、ダスターとシェイドが混じり合ったかのような。

「ダスターとシェイドが、合体してますの・・・?」

 震える声でウサポが呟いた。どうやらウサポもそう結論付けたようだ。

 実際青や、赤。無数のダスターの中に巨大な黒晶核のような結晶がそれらを繋ぎ止めるように生えている。

 黒晶核にダスターが挟まっているのか、もしくは黒晶核をダスターが接着面として利用しているのか。

 ただひとつ言えることは、そのふたつの合わさった何かが確実に空に存在すること。

 当然、蛇ノ目たちの意識が失った原因なのは疑う余地もない。ただ、ここから研究所までは距離がある。それすらをものともせずエネルギーを奪ったのだ。

 蠢く体表が、震える。

 刹那。

 一筋の光線が放たれ、地面に一筋の溝を穿つ。

 吹き飛ぶコンクリート。焼ける樹木。雲が容易く吹き飛ぶ。

 意識のない人間は、逃げることを知らない。

 建物が吹き飛ぶ威力は、人の体など容易に吹き飛ばすだろう。

「やめろおおおおおっ!」

 たまらず、光太朗は飛ぶ。

 空中を黄金色の輝きで弾ける。子供が落書きで描くような星のマークがそこら中に散りばめられる。

「お兄さん!それを足場にして!」

 光太朗はジャンプし、片足を星の足場を踏む。

 どういう原理かは知らないが、まるで空中に足場が出来たように、その金色の星は踏みつけてもびくともしない。

 飛び石を渡るように星を辿って、駆け上る。徐々に近づく異形の巨体。

 星の足場を大きく踏み込み、光太朗は跳躍。

「待って神野君!街にの人たちを助けなきゃ!」

 並走し、飛ぶ百合花に咎められるが、光太朗は駆け上がるのを辞めるつもりはない。

『バイパーストライク』

 何より、ここでこの化け物を止めなければ、被害はさらに広がる。

 ありったけの力を込めて、空いている方の脚で足場を踏み込み、飛ぶ。

 それに分かっている。

 相手がダスターの要素があるのなら、攻撃は効かないと思っているのだろう。だが、それが立ち向かわない理由になるかよ。

 様々な色が混ざり合う部分へ、光太朗の足が貫く。確かな手応えを持って、巨大な化け物の一部分が吹き飛んだ。

「何っ!?」

 それに驚いたのは光太朗の方だ。

 蹴り込んだ反動で空中で回転し、星の足場に着地。

 攻撃が、効く!?

 抉れた体表が、色の付いた煙を吐き出しながら、大きな跡が生まれる。

 なら、やることは決まりだ。百合花を救助に回してもいい。

 だが。

 嫌な予感と共に脈動が生まれる。

 光線が吐き出され、地面に着弾大きな爆発をもたらす。

「くそっ!?」

 再度、バイパーストライクを起動。

渦巻く光の螺旋。

「神野君!落ち着いて!」

 抑制する声を背に、光太朗は飛び出す。

 大丈夫。いつも以上に冷静なつもりだ。

 力が籠もる足先を化け物に叩きつけようとしたところで、光太朗は目をメットの中で目を見開いた。

 さっき蹴り飛ばした部分がない?躊躇いが、僅かな隙を生む。

 光太朗の視界が白に染まり、迸る熱線が押し迫った。

 胸元に突風に煽られたかのような衝撃を受けたかと思った次の瞬間には、光太朗の身体は地面に叩きつけられていた。

 見ると、胸元が僅かに融解している。あれだけの攻撃を受けておきながら、これだけのダメージで済んだのは、やはりヴェノムスケイルのおかげだろう。そうでなければ、あの一瞬で消し炭になっている。

「くそっ!」

 地面に叩きつけられ、身体に伸し掛かる瓦礫を弾き返す。

「神野君!」

 すぐさま百合花が現れる。リボンを折り畳み、心配そうに光太朗へと駆け寄る。それを待つこと無く、光太朗は立ち上がり、すぐさま化け物へ立ち向かおうとする。

「待てっ!」

 それを厳しい言葉で引き止めたのはニアだ。

「またひとりで先走るつもりか」

「この状況でもたもたしている時間はねえだろっ!」

 無差別に、街が破壊されている。あの化け物にどんな目的と理由があろうと、それが事実だ。

 また、何の罪のない人達が苦しんでいる。しかも大量に。

「落ち着けと言うているッ!」

 より厳しい言葉が光太朗に投げつけられる。

「冷静さを欠くことは、理性を失うことと同義だ。あの化け物が再生したことすら気づいていないだろう」

「・・・再生?」

「貴様の蹴り飛ばした箇所は、綺麗さっぱり元通りだ」

 2度目の蹴りの時、違和感を覚えたのは気の所為ではなかった。

「あの機械人形に、老人の世話の後にこちらに助けに来るよう言伝している」

 街の人間はアフロディーテに任せる、とニアは言った。

 上空で、何かが弾ける。

 見ると、一織がスタープロテクションで化け物の動きを封じている所だった。

 だが。ふらり、とそれが最後の仕事かのように力尽き、地表に落下。飛び出そうとする光太朗を手で制して、百合花が抱きかかえ、救出。

 一織は額に玉の汗と、苦悶の表情を浮かべている。

「あれだけの質量を留めておくのは、そう長い時間持ちませんわ!」

 焦りを見せるウサポの表情から、スタープロテクションによる捕縛がそう長くないことを示唆している。

「そもそも、スタープロテクションが効くことが奇跡ですわ」

「・・・この基調な時間を無駄にしないようにしよう?」

 なだめるように、百合花の手が光太朗の肩に乗せられる。

「・・・そこの星の巫女と話をしたが、再生能力はダスター、シェイド共にありえない能力だ」

「恐らくあの個体は、ダスターとシェイドが合体したモノで十中八九間違いはないでしょう。その際に得た能力かも知れませんわ」

 これが、あの道化師の狙っていたことなのか?それはあの道化師がいない今、確かめる術はない。ただし、この場所にいてはならない存在というのは確かで。

 蛇ノ目との連絡が取れない今、助言に頼ることもできない。

「あれをダスターみたいに飛ばして倒す、とういうのは無理なの?」

「あの質量では・・・。大型のダスターも、一織ちゃんひとりでは浄化できませんでしたもの」

 一織は意識を取り戻し、身体を起き上がらせた。すぐさま上空を見上げて、スタープロテクションによる捕縛が健在であることを知ると、安堵の息を吐いた。

「・・・その姿も、大きさも、持ちうる能力も変わってしまいましたが、ただひとつ変わらないものがあるなら」

 急にウサポはそんなことを言い出した。

「あの巨大な化け物の中心部には、ダスターと同じく『核』が存在します」

「核、だと?」

「ダスターが気体でありながら、その姿を固体として留めておける要因ですわ」

 ダスターにはその中心部にその体躯に応じた核、即ち中心部があるのだと言う。

 それは重力下では脆く、時間経過により形を維持することが出来ない。その維持できる時間を越えると、爆発する。

 核の最たる特色が、常に何かの反応のから避ける、という点。普通の人間

いや、概念ではその核に手を触れる事が出来ない。早い話が、核はものすごい速度で体内で攻撃から逃げるのだ。

 だから、ダスターを浄化する際は、スターセイザーの能力でその身体を丸ごと飛ばし、摩擦熱で焼き尽くすしかないのだ。

 あの巨体のどこかにある、小さな核を見つけ、そこを人智を超えたスピードで打ち貫く。

 スターセイザーである一織からしたら、正攻法の倒し方ではないし、現実的ではない。

 光太朗は荒い息を整える。

 ここで自分たちが踏ん張らなければ、街どころか地上全体が火の海になる。

「・・・俺に考えがある」

 この場にいる全員の目を見ながら、光太朗は言う。

 やけになったわけじゃない。ニアに叱られてから、冷静さは保ったままのつもりだ。

 ただ、光太朗の頭では、あの化け物を倒す手段はこれしか思いつかない。

「みんなの力が必要だ」

 自分勝手だ。

 今まで散々ひとりで突っぱねて来たのに。

 百合花にした態度を忘れてはいない。

 子供だと甘く見て、一織を軽視したことを恥じろ。

 彼女たちは、光太朗よりも立派で、こんな自分を気にかけてくれる。

 そんな我儘に。

 百合花は何故か涙を浮かべて。

 一織は笑顔を浮かべて。

 本当の意味で、ふたりと2匹は、光太朗と仲間になったのかも知れない。

 そんな気がした。

 うん。

 と、百合花が信じて頷いてくれることが、光太朗は単純に嬉しかったのだ。

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