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ACT12・星の時代

『それにしても残念だったな、光太朗』

 建物の屋上を蹴りつつ、上空を移動する中、蛇ノ目がそんなことを言い出した。

「・・・何がだ」

 展望台を遥か後方にしながら、光太朗は聞く。

『お嬢ちゃんとのデートが台無しになってしまって』

「そんなんじゃねえよ」

 今日の集いは親睦の位置づけだったはずだ。光太朗はもとより、百合花もそんな意識はないはずだ。

『良いではないか。殺伐とした世界と生活の中に訪れる一時の安らぎぞ』

 蛇ノ目の呑気な態度に、光太朗は頭の中の温度が高くなる感覚を覚える。

「そんな場合じゃないだろ!こっちの攻撃が通用しない敵が現れたんだぞ!」

 ダスターのガス状の身体は、光太朗の蹴りすらも透過した。機械の塊を捻り潰す威力を誇る必殺のキックすら、通用しなかったのだ。

『・・・そちらはあの新しく現れたお嬢ちゃんに任せればいいではないか。少なくとも、あの気味の悪い敵に関しては、あのお嬢ちゃんの方が詳しいだろう』

 ヴァイパーの攻撃は通用しないが、バニーセイザーへと変身した彼女にならダスターなる異生物は排除できる。

 だが、あまりにも幼い。

「まだ小学生だぞ。子供だぞ!」

 本来なら遊んでいたい盛りじゃないのか。少なくとも、まだ守られるべき存在じゃないのか。

『・・・お主、何を焦っておる』

 その問いに、光太朗は答えない。いや、答えられない。

『これだけは言っておくぞ、光太朗』

 光太朗の心の不安定さを察した蛇ノ目は、何時になく声色を落としたトーンで言う。

『ワシは、ただお前を戦いの中に向かわせるために命を救ったのではない。戦う力を授けたのではない』

 光太朗の中の異なる力は、虐げられる弱者を救うための力の筈だ。だからこそ蛇ノ目は実験台を必要とし、光太朗に改造を施したのではないのか。

『お前が日常生活を送り、高校生活を謳歌し、その上で平和のために協力してもらう。ワシが思い描いているのは、あくまでその程度のものじゃ』

 光太朗は答えない。

『生き急ぐなよ、光太朗』

 最後にそう言って、蛇ノ目は通信を切った。

 ビルの屋上を蹴り跳躍する光太朗は、無言で目的の公園まで、ただひたすらに何かに急かされるように飛び続けるのであった。


 公園に先に着いたのは光太朗で、次いで百合花。そして、黒髪の少女を連れた一織が姿を現した。

「一応聞くが、白崎は一織ちゃんと知り合いではないんだな」

 光太朗にとっては、ホワイトリリィも、バニーセイザーもシルエットから見れば大差ない。知り合いと言われた方がまだ納得する。

 光太朗の問いに、百合花は首を横に振る。

「うん・・・。私の仲間に小学生はいないもの」

 まるで、小学生で無ければ他に花の騎士(プリマエクス)がいるような口ぶりだ。

 一織の傍らにいる少女は、冷徹な目でこの場にいる人間を見渡した後、軽く息を吐く。

「あの程度のダスターに手こずるようじゃ、一織ちゃんの助けにはならないわね」

 夜宵ちゃん!と、一織にたしなめられる黒髪少女。

「・・・あ、自己紹介がまだでしたね」

 夜宵の言動を誤魔化すように、一織が光太朗たちの前に向き直る。

「私は出雲一織と言います。こっちはお友達の草薙夜宵ちゃん」

 ぺこり、という礼儀正しさを見せる一織に対して、黒髪の少女、夜宵には不遜な態度が見える。どうにも一織とは対照的な、友人関係になりそうもない性格に見える。

「それと・・・」

 一織が自分の肩掛けカバンに手を添える。カバンの中から除く黄色い物体。ウサポと呼ばれていた奇妙な生物(?)だ。

「ほら。お礼を言うんでしょ?」

 一織が優しく促すと、もじもじと身をよじらせたウサポがカバンから姿を見せる。

 宙を浮く星型がふらふらと宙を漂いながらも光太朗の元へと近づいてくる。 黄色い身体にかすかに灯る朱色を覗かせながら。

「あ、あの」

 言いにくそうに、ウサポは指先(?)をちょんちょんとつつき合わせながら口元をまごつかせている。

「あ、ありがとうございます、ですわ。わたくしを助けていただいて・・・」

 ダスターの攻撃で襲われそうになったウサポをかばったのを光太朗は思い出した。

「あ、ああ。無事なら何よりだ」

「私の貴方に対する無礼な発言、お詫びいたしますわ」

 ウサポがぬいぐるみだと気がついていなかったのはともかく、無遠慮に身体を弄ってしまったのは確かだ。

「いや、俺の方こそ、すまない。知らなかったとは言え」

 ウサポは宙をゆらりと泳いで光太朗の目の前まで来て、指(?)を差し出す。

「では、これにて手打ちにしましょう」

 光太朗は差し出された黄色い先端を握り返した。触った感触はぬいぐるみのままなのは不思議な感触だ。

 光太朗と百合花も、それぞれが名前を名乗ったところで、公園を後にする。

 なお、ウサポは一織のカバンには戻らず、光太朗の頭のてっぺんを座席にすることを決めたようだ。

「ウサポを手懐けたからって、調子に乗らないことね」

 光太朗の傍らの夜宵が、皮肉めいた言葉をボソリと言う。

「手懐けられてなどいませんわ!悪い人間じゃあないと気づいただけですわ!」

 顔を真っ赤にさせたウサポが夜宵に詰め寄る。当然、夜宵とウサポも顔見知りか。

 やがて、光太朗にとっては見慣れた場所に付く。一織と夜宵はその屋敷に埋もれた機械の塊に目を見開いている。

「・・・なにこれ、不潔極まりない」

 外の鉄くずの山。蛇ノ目邸の1階を経て、研究所に足を踏み入れた夜宵は、顔をしかめて雑多な部屋を見回した。

「帰りましょう、一織ちゃん。こんな汚い場所」

 その感想については光太朗も同意。今なら帰るのを止めやしない。

「おお、来たな」

 キーボード前が定位置の蛇ノ目が来客に顔をほころばせる。

 蛇ノ目は現れた光太朗たちの顔を一瞥、次いで床に転がる機械の塊や書類を見て、困ったように笑った。

「ここでは手狭かな。1階で話そう」

 部屋の汚さだけでなく、アフロディーテの存在にも驚いた顔を見せる小学生コンビを尻目に、一同は階段を逆戻りするのであった。


 蛇ノ目家の居間に通された4人と一匹は、長方形のこたつテーブルに座する。

 地下とは違い、あまりにも違う光景に夜宵はさすがに戸惑っているようで、周囲を訝しげに見回している。

 アフロディーテが人数分のカップにお茶を入れ、それぞれの前に差し出す。

ちなみにウサポは口腔での食事を必要とする種族ではないらしい。食べることは可能だが、それに夜栄養の補給は不要、とはウサポの談。

 まず初めにウサポを含むバニーセイザーたちの正体を語りだしたのはウサポ本人で。

「あらためて自己紹介しますわ。わたくしの名は、ウサギーナ・ポリュンスタッドと申します」

 やたら長い本名を名乗りつつ、ウサポは一礼。蛇ノ目は奇妙な生物への興味の目をモノクル越しに送る。

「早速聞きたいのだが、君の力は花の騎士(プリマエクス)とは別の存在なのだな」

 一織は百合花に視線を向けつつも、困った表情を見せている。その代わりに答えたのはウサポだった。

「わたくしも、スターセイザーと同じような能力を持つ戦士がこの地球上にいることが驚きでしたわ」

「そのスターセイザーとは一体何なのだ?」

 おほん、とウサポは咳払い。

「スターセイザーは、星神(ほしがみ)様の力を分け与えられた、この宇宙を守る戦士の名ですわ」

 宇宙、ときたか。

「星神、様?」

「この宇宙の中心で、地球を含めあらゆる星の動向を見守っている、全ての生命の母ですわ」

 誇り高くも胸を張るウサポ。だが、すぐに真面目な表情に戻る。

「この宇宙に配置されている星、惑星の意味をご存知ですの?」

 意味。そんな事は考えたこともない。宇宙のことなど、地上に生きるものにとっては手の届かない、見知らぬ世界の話だ。

「天体は、この宇宙の均衡を保つ結界ですの。悪しき者の意思、敵意の流動を防ぐ、堅固なる障壁」

 悪しき者。先程見た四角錐の化け物を思い浮かべる。

「・・・それがダスター、なのか」

 察しがいい、とばかりにウサポは光太朗を見る。

「星神様と相反する存在、それがダスター。そして、その長である凶星『カオススター』」

 一織の表情が悲しい色を見せ、夜宵は苦しさを滲ませる。

「じゃあ、そのカオススターとかいうやつを倒せば、いいのか?」

 ダスターを従えているのがカオススターとやらなのだとしたら、そいつを倒せば全てが万事に収まる。そういう話ではないのか?

 光太朗の言葉にも、ウサポは身体を横に振って、否定する。

「・・・カオススターは、もうこの世に存在しませんわ」

「え?」

 光太朗は思わず声を上げる。

「カオススターは一織ちゃんが1年前に、討ち、滅ぼしましたから」

 何だって?

 見ると、一織も複雑な表情。

「だから、この状況にわたくしも驚いているのです。カオススター亡き今でも、ダスターの影が見え隠れしていることに」

 光太朗と百合花は顔を見合わせる。

 これは、マギアスの状況に似ている。  

 百合花が倒したはずのアンチホープの存在。どちらもその残党が息を潜めていたというのか。

「ふうむ」

 話を聞いた蛇ノ目は、顎に手を当て思案。

「ワシらはこの世界に救う悪党を成敗し、生計を立てておる。手段はどうあれこの世界を守りたいと思う気持ちはお嬢ちゃんたちと同じじゃ」

 蛇ノ目は語る。

「どうじゃ。ここで集まったのも何かの縁。お互いの力や情報を共有して、手を組まんか」

「私は反対よ」

 真っ先に口を開いたのは夜宵だ。

「このおじいさんが欲しいのは、ダスターに対抗する能力だけよ」

 現状ダスターに対抗しうる手段はスターセイザーのみだろう。ヴァイオレットバイパーの攻撃も、ホワイトリリィの攻撃も一切通じなかったからだ。

「・・・私は、信じてみてもいいと思う」

 一織ちゃん!と、夜宵は声を荒げ、糾弾する。

「夜宵ちゃん、私達の使命は、この世界の平和を守るためだよ。それがひいては宇宙の均衡を守ることになる」

 それが、スターセイザーの務め。と一織は諭す。

 夜宵は納得いかないものを感じながらも、口をつぐみそれ以上言葉を発することはなかった。

 一見一織が子供っぽく、夜宵が大人びているように見えるが、この時は逆に見えた。強い、揺るがない意志が一織からは感じられた。


 ウサポの話を要約するのなら、スターセイザーは別名『星戦士』や『星の使徒』と呼ばれ、太古の昔から宇宙の平和、均衡を保ってきたのだという。

 ウサポことウサギーナのような存在は、星戦士を導く『星の巫女』でと呼ばれている存在らしい。

 曰く、人間には元来備わる不思議な力があるのだとウサポは言う。

 それは『スタープリズム』と呼ばれる力。

 スタープリズムは生命の輝き。

 人の持つ夢の力。

 活力。

 人間の根幹を支える精神的支柱。

 スタープリズムはダスターにとって極上の味らしく、それを好むダスターに奪われると人間は意識を失う。

 ダスターを束ねるカオススターは、自らを生命の頂点。神をも越える、生命の完成体を名乗る異次元生命体だった。

 星神は、宇宙創生の時代より、カオススターの存在を感知し、その魔の手から守るために星による結界を敷いてきた。

 だが、数千年、数万年に一度、星座の座標が動くことで結界の力が弱まり、その隙を突いたカオススターの魔の手が地球に現れる。

 その魔の手から地球を守ってきたのが星戦士、すなわちスターセイザーなのである。

 時は流れ、人類には文明、知恵が宿り、趣味嗜好が多様化した現代に生きる人類の住む地球は、ダスターに取って絶好の餌場。あらゆる味のスタープリズムが溢れている。

 その魔の手から人類を守るため、一織はスターセイザーの力を使い、戦ってきた。それが、1年前の話である。

「私達が力を奪われていなかったのは何でだろう」

 百合花の疑問。

 ダスターが人間の生命力を奪う存在ならば、それは光太朗たちにも該当するはずだ。

「おそらく、百合花さまはスターセイザーと同等の能力を持つ存在であるため、頷ける部分はあるのですが・・・」

 問題は光太朗だ。

 ヴェノムスケイルが、心の輝きや生命力を吸収する攻撃に対しての耐性があるとは思えない。

 それは、ニアも疑問に思っ潔た部分だ。

「お兄さんは正義の心に溢れている人だから、そんなものには屈しないんだよ!」

 一織は熱っぽく力説するが、夜宵は「どうかしら」とその意見には懐疑的。冷めた目を向けている。

 シェイドとダスターの人間の精神を蝕む攻撃が通じない光太朗の謎の能力の真偽はともかく、光太朗の心に訪れたのは新たな仲間を迎えた頼もしさではない。

 光太朗は自分の手の平を見る。それは全ての悪をも砕く力を秘めたこぶしであるはずだ。

 だが、そこに見えるのはただただ虚しく吹き抜ける、自分自身の無力さ、そして焦燥感だった。

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