ACT11・ぴょんぴょん!その名はバニーセイザー!
凄まじい勢いで視界の中の風景が通り過ぎる。
謎の化け物に展望台から投げ出され、光太朗は地面へと自由落下の身だ。
普通の人間なら即死コース。いや、改造人間だからといって無事が保証されている訳では無い。
・・・信じるぜ、博士。
「変身!」
風圧で定まらない中、腕の動きでなんとか変身プロセスを行う。
当然、下には観光客を含めた人の影が。地面に散らばる展望台のガラス片をのお陰で、人は上手い具合に真下からは退避してくれている。
それでも、なるべく人の少ないところへ・・・!
瞬く間に迫る地面。天から迫る紫色の塊を察知し、道行く人が悲鳴を上げる。
崩れかける体勢を空中で強引に正し、
ズウンッ・・・!
アスファルトが大きく陥没し、両足で衝撃を吸収する。
光太朗の全身を鈍い衝撃が貫く。変身した状態でこれかよ・・・!
生身なら、当然無事では済まない。
『アーマーダメージ、損傷無し。・・・お主はどうじゃ、流石にタワーの高さからの落下は想定しておらなんだ』
「・・・問題ねえ」
アーマーには傷一つ付いておらず、
光太朗の身体を襲った衝撃は、やや大きかったものの、それがダメージになるほどではなかった。ヴェノムスケイルの堅固さを思い知った。
突然の全身紫色の出現に、呆気に取られる通行人。
地面には無数のガラス片が着地の衝撃で僅かに宙に舞い、その範囲を広げている。それが幸いにも人払いにもなっている
光太朗は上空を確認。
展望台の近くには、光太朗が今ここにいる原因である四角錐が佇んでいた。
四角錐は水槽の魚のように大きく身体を捻り、空を泳ぐ。大きく軌道を変え、速度を乗せた突進で展望台に突撃する瞬間だった。
あんな巨大なものが突っ込めば、砕けたガラスごとメチャクチャになる。それに、中にはまだ百合花を含めた観光客がまだいる。
最悪の想定を光太朗が思い描いた瞬間。
どうんっ!
轟音と共に、四角錐の巨体が展望台の外に弾き出された。
四角錐はその身体を大きく捻じ曲げながら、無表情の中には怒りを滲ませているようにも見える。
・・・百合花か?
何にせよ、急いだほうが良さそうだ。
光太朗は周囲に広がるざわめきが大きくなる中、建物の外壁を蹴りながら、上空に向かって跳躍した。
ゆらり、と尻尾を揺らしながら、四角錐が体勢を整える。それが何かの前兆だとすぐに察した。
四角錐は、現れたピンク色のウサ耳少女をターゲットにした。明らかに纏うオーラが変わる。
赤いマントを見て高ぶる闘牛のように、四角錐の展望台の外で泳ぐ姿は、目的遂行のための準備運動に思えた。
百合花の予感は的中した。
大きく宙で旋回し、四角錐そのものが弾頭のように、加速したスピードに乗せて、突撃してくる。
早く、変身してなんとかしないと!
だが、変身する間もなく四角錐がウサ耳少女へと迫る。
「くっ!」
百合花は腕で身体をかばい、衝撃に備える。
百合花とは反対に、一織は冷静に自分の右腕を後ろに引く。大きく、振りかぶるモーション。
「バニー・・・!」
それと連動するように、一織の頭部の右ウサ耳が、引き絞られた右手同様の動きを真似る。
一織の右手が構えたまま展望台を飛び出すのと、四角錐の先端が展望台に突き刺さるのがほぼ同時。
瞬間。
「パンチっ!」
一織の振り抜いたこぶしが前に突き出されるのと同時に、右のウサ耳が銃弾のように撃ち抜かれた!
四角錐の体表がひしゃげ、突進してきたスピードと同じ勢いのまま、遥か後方に吹き飛んだ。
「むん!」
一織は展望台から完全に飛び出し、吹き飛んだ四角錐に険しい視線を崩さぬまま、大きく息を吐いた。
何が起きたかわからず身を固まらせているのは百合花だ。
驚くべきことは、一織はタワーの下に落下することなく、宙にその姿を留めている。
一織が纏うその姿は、自分たちの花の騎士の能力ではない。
花の騎士は花の聖飾の後ろにある花弁の翼と呼ばれるリボンを模した羽根で宙に浮く。厳密に言えば、それで空を跳ぶことは出来ない。
あくまで移動、滑空に使用するもので、直立を留めたまま宙に立つことは出来ず、あくまでそれは飛行を補助する能力だ。
一織は、足の裏に星のマークを出現させ、それを足場にして空中に立っている。
展望台から飛び出した時も、靴底から星型の文様が弾き出され、それを蹴り空中を駆けていた。
それだけ見ても、花の騎士とは異なる能力。
一体何者なのか、一織という少女は。
「ぼさっとしている時間はないぞ、百合花」
傍らに現れたニアも、一織への興味と警戒心を含んだ目を展望台の向こうへと向けている。
「安心しろ。あの小僧の命の火は消えてはいない」
「べ、別に心配はしてないわっ。それより花香剣を!」
ニアの半眼に、百合花は変身アイテムを要求。ニアは小さく息を吐き、背中の円状の輝きから棒状の突起が飛び出す。
それを百合花は空中でキャッチ。
「カラフル・コネクト・ルミナース!」
変身の呪文を唱え、百合花の姿が変わる。
百合花も砕けたガラス窓から飛び出し、大きく跳躍して展望台上、天井に着地した。
気配を感じ、一織が振り向く。
一織は大きく顔を輝かせ、飛び跳ねんばかりに百合花に近づく。
「わあっ!私たちの他にも『スターセイザー』がいるなんて!・・・お姉さんは何座ですかっ!?」
目を輝かせながら、ぴょんぴょんと跳ねながらも一織が詰め寄る。
もちろん、のんきに生まれの星座を聞いている訳ではないだろう。
百合花の困惑の視線が前に向いたことで、一織も気がついた。
四角錐が体勢を整え、再度突進の構え。
一織がボクサーのような構えで迎え、百合花も花香剣の刃を振りかざしたのであった。
光太朗の頭上で、巨体が吹き飛ぶ。
展望台のガラス窓を粉々にした元凶が大気を掻き分け飛んでゆく。
百合花の攻撃か?
違う。
別の誰かが、いる。
無論、四角錐はその『誰か』に入らない。
ひとりは当然百合花。すでに花の騎士の姿へと変身している。問題はもうひとり。
光太朗が吹き飛ばされる前。その場で意識を保っていたのは自分を除けば百合花と、もうひとり。
まさか。
背丈、表情共に似ている。
光太朗はなんとか展望台までの高さにまで辿り着く。
「あっ!お兄さん!」
変な格好をした少女は、全身紫色の鎧を身にまとっているのにも関わらず、光太朗に向けたものと同じ呼び方をする。
「もしかして、一織ちゃんか」
光太朗の問いに、少女、一織はきっぱりと答えた。
「・・・俺の正体を知っているのか」
光太朗のその言葉に、一織はぽかんとした後、
「商店街で、私を助けてくれました、よね!」
確かに、へし折れた支柱から、一織だけでなく街の人に降りかかる危機を脱し、助けた。
さすがに見られていたか。あの状況では仕方ないとは思ったが。
「ねえ!ちょっと!話し込んでる所悪いんだけど!」
焦りを含んだ百合花の声で光太朗は意識を引き戻される。
見ると、四角錐の体表が深い青から赤みを帯びた赤紫になっている。
「あ、少し急ぎますね」
一織が戦士の顔に戻り、体表の色を変えた四角錐に向き直る。
「とりあえず、アイツをなんとかしない限りはゆっくり話もできないってわけか」
光太朗も一織に倣い、前方の敵意に向かって構える。
この足場では戦いづらい。だが、見る限り奴の攻撃は突進のみ。尻尾はあくまで相手を捕縛するための手段。
光太朗は百合花や一織のように空中移動は不得意。なら、相手の突進を利用する。突撃に合わせ、カウンターで蹴りを放つ。それで終わりだ。
『バイパーストライク』
指示されるモーションパターンをなぞり、光太朗は構える。
右足に力が迸り、青い光を纏わせ、輝く。
視線の先の空間が歪んだ気がした。助走のない加速が、一瞬で最高速のスピードを生む。
早い。だが、目で追えないわけじゃない。
「あ!ちょ、ちょっとダメです!」
一織は、ヴァイパーの一撃の攻撃力を知らないだろうが、それでも止める意味がわからない。このまま押し通すだけだ。
四角錐が迫る。余裕だ。タイミングも余裕で取れる。
振り上げたつま先が、四角錐の身体を捉え、
「何っ!?」
なかった。
いや、正確には光太朗のつま先は四角錐の身体に触れた。だが、紫色の靴底は、四角錐の身体の中へ。そこに何もなかったかのように透過する。
音速の衝撃波が展望台上空の直線状を通り抜ける。弾丸のような突風で、光太朗の身体が吹き飛ばされる。空中で体勢を崩しながらも、なんとか展望台屋上の足場に着地。背後数センチは奈落の底。眼下には豆粒ほどの人影。再度自由落下する気は起きない。
それより。
どうなっているんだ。蹴りがすり抜けた?
機械のロボットだろうが、シェイドだろうが、例外なく砕き叩き潰せる威力の蹴りが、何の手応えも無い。
「『ダスター』の体組織は高密度のガスで出来ているんです!一切の物理攻撃は通用しません!」
攻撃が効かないだと!?
水を味方に付けた魚のように、駆け抜けた四角錐が宙で緩やかに反転。再度光太朗を狙って加速する。
瞬く間に鋭利な先端が光太朗の眼前まで迫り。
「ぐうっ!?」
凄まじい衝撃が全身を貫き、光太朗の身体を浮遊感を襲う。四角錐ごと、宙に投げ出される。それに伴い、光太朗も再度空中に投げ飛ばされる。
四角錐の先端、光太朗が両腕で掴む重戦車のように突撃するそれは、さっきの空を掴むような手応えの無さはない。そこには確かな手触りがあって。
・・・高密度のガスだと?触れられているじゃないか!
光太朗は片腕で突進を防御しながら、右腕を振り上げる。
高速で流れる景色の中、それを思い切り叩きつける。
だが。
空気の中をそのまま振りおろしたように、何も腕に触れる感触はない。
ばかな。
相手はこちらに触れられるのに、こっちの攻撃は通用しないのか。
じゃあ、この化け物はどうやって倒せばいいんだ。
振動を感じた瞬間、四角錐の身体が大きく吹き飛ぶ。それと同時に光太朗の身体も宙に大きく投げ出され、
「大丈夫ですか!?」
一織の頭から生える巨大な片腕に紫色の身体が絡め取られる。
今、一織は何をした?
攻撃が効かないと言ったそばから化け物を殴り飛ばし、光太朗を抱えて着地。
「ダスターの身体を捕らえるのは『スターセイザー』にのみ可能なのですわ!」
一織のそばをピョコンと跳ねるウサポ。
・・・そんなバカな。
「ここは私に任せてください!」
力強い頷きを見せ、靴底から星型の足場を生み出しながら宙を駆け、飛ぶ。
「・・・私達の出る幕、なさそうだね」
光太朗の攻撃が効かないということは、百合花の攻撃も同じ末路を辿るはずだ。
実際、花香剣での斬撃も、光破弾も通用しなかった。
「何でそんなに楽観的になれるんだ・・・!?」
苛立ちの滲む光太朗の言葉に、百合花は驚きを隠せなかった。
自分たちの攻撃が通用しない。それは相手を無力化出来ない。ひいては誰かを守ることが困難になる。
今は一織がいるからなんとかなるものの、もし四角錐を相手取ったのが光太朗だけだとしたら。被害を押さえられただろうか。
光太朗の水晶花は、熱く、煮えたぎるように燃え盛ってはいたが、それを押し込めたまま解き放つことが出来ない。そんなジレンマと無力感を、百合花はその輝きに感じていたのだった。
「スタープロテクション!」
一織が叫び、手の平をかざす。
高速で突撃する四角錐の身体が動きを止める。文字通り、まるで動画を一時停止をしたかのように。
一織の放った淡いピンク色の光が四角錐の身体を覆った瞬間の出来事だ。
光に包まれた四角錐がゆっくりと一織の手のひらの前にまで近づき、丁度四角錐の体表に触れるまでの距離で止まる。
そして。
「シュートっ!」
左手と入れ替わるように、一織は反対の手のひらを突き出す。今度は右手で叩きつけるように。
動きの止めた四角錐の姿が一瞬で消えた。
四角錐は、凄まじい勢いで空へ向かって飛び出していったのだ。さしずめ地上から空に走る流星か。
雲を裂き、四角錐の姿は消え失せ、周囲には静寂が戻った。
「ダスターは、スターセイザーならその実態を捉えることはできますが、倒すとなると話は別ですわ」
光太朗の傍らにウサポが現れ、注釈してくれる。
「詳しい説明は省きますが、ダスターはああやって宇宙に飛ばして処理するのが一番早く、確実ですの」
ダスターの、物理攻撃以外での倒し方に光太朗は興味はなかった。
ヒーローとしての力で倒せなかった事実こそが、もっとも口惜しいのだから。
スターセイザーというのは、不可思議な力を使う、魔法使いのことを言うのだろうか。
「スターリザレクション!」
一織が叫ぶと、穏やか、そして優しく温かな光がバニーセイザーから放たれ、展望台を包み込む。すると、信じられないことが起きた。
流れる時間が逆再生したかのように、遥か眼下から、無数の砕けたガラス片が展望台へと登ってくるのだ。
割れたフレームと呼べる窓枠に、ジグソーパズルのピースをはめ込むようにガラス片が収束。幾重にも広がる亀裂も、溶け合い、なかったものになる。
「・・・嘘でしょ」
百合花もその現象に言葉を失う。
「スターセイザーは、この世界、宇宙の均衡を保つ守護者、星より遣わされた使者ですわ!」
ウサポは自慢げに言うが、だからと言ってめちゃくちゃになった展望台、道路の陥没したアスファルトが元の姿に戻る理由にはならない。
『ワシも、流石に夢を見ている気分だわい』
メットの中から聞こえる蛇ノ目も、今までに聞いたことのない声色だ。
『・・・そっちのお嬢ちゃんにも話を聞きたい。ワシの研究所に連れてこれるか』
一織の存在も、蛇ノ目の意欲を刺激する、未知なる研究対象となったようだ。
「博士が、えーと。君たちに話を聞きたいっていう人がいるんだが」
「あ、変な人ではあるけど、悪い人ではないから」
百合花がフォローになっていないフォローを入れる。
「私も、他にこんな同じ能力を持つ人と出会えるなんて思ってもいなかった!それが『あの時』のお兄さんだなんて!」
一織は両手を組み、兎よろしくぴょんと跳ね全身で喜びを表現している。
地上から聞こえるサイレンの音。空中からはヘリコプターのローター音が聞こえてくる。
「・・・固まっているのはまずい。とりあえずここから離れよう」
ただでさえ謎の化け物の出現で大騒ぎになった展望台の中心にいるのだ。
「・・・あの公園でいいか」
この3人に共通する場所はそこしか思いつかない。
「わかりました。あ、夜宵ちゃんも連れてきていいですか?」
一織は知らない名を告げた。
「私と一緒にいた女の子です」
あの、やたら光太朗に良い感情を持っていない女の子か。この状況でその子を連れ立つのは、ただの仲良しだけ、という理由だけではないだろう。それは一織の正体を知っているか、または、『同類』。
その辺も含めて、ここでする話ではない。
一織は突如自分の尻に付いている、丸い尻尾の中に手を突っ込む。取り出したのはスマートフォンだ。
一織はそれを耳に当て、
「あ、夜宵ちゃん、そっちはどう?」
電話の相手は件の夜宵であるらしい。それよりも、何だこのシュールな光景は。
「私は夜宵ちゃんと合流してから行きます。あ、展望台の中のお客さんは全員無事でした」
恐らく、光太朗の足の下では、ひとりを除く全員が困惑していることだろう。
「白崎もそれでいいな」
「う、うん」
言うが早いか、光太朗は展望台の縁に足を掛け、空から飛び立ったのだった。




