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【時の間(ときはさま)のヤマト スピンオフ】

作者: とんだす

インド洋の深淵を、ユーラシア連邦の誇る攻撃型原子力潜水艦K-8605が静かに、しかし確かな存在感をもって航行していた。艦を駆動するのは、最新鋭のエキゾチック物質強化型高速増殖炉。その莫大な出力は、艦を前例のない速度で推進させ、同時に高度なソナーやドローン搭載巡航ミサイルといった兵装を稼働させるエネルギー源となっていた。彼らの任務は、日本の超護衛艦「ヤマト」の極秘裏の追尾。水上を滑るように進む「ヤマト」は、その全貌が謎に包まれており、K-8605の乗員たちは、プロフェッショナルとしての警戒心を決して緩めなかった。艦橋のモニターに映し出されるヤマトのシルエットは、どこか現実離れした幻影のようでもあった。

その時だった。何の予兆もなく、虚空が引き裂かれるような現象がヤマトの周囲で発生した。まるで巨大なブラックホールが突如開いたかのような、おぞましい光と闇の渦。それは**「時のときはざま」**だった。ヤマトは抵抗むなしく、その歪んだ空間に吸い込まれていく。K-8605は緊急回避を試みたが、時すでに遅し。艦全体を襲う強烈な衝撃と、計器の狂乱、そして乗員たちの混乱の叫びの中、K-8605もまた、ヤマトの後を追うように「時の間」の底なしの闇へと飲み込まれていった。艦内は阿鼻叫喚に包まれ、誰もがこのまま虚空に消え去ることを覚悟した。

K-8605が再び意識を取り戻した時、そこは理解不能な、物理法則が歪んだ空間だった。通信は完全に途絶し、ソナーはありえないノイズと虚像を捉え、時間と空間が不規則に揺らぐ。食料も水も限られ、閉鎖された艦内では乗員たちの間に絶望が募っていく。しかし、艦長のアレクセイ・ヴォルコフは冷静だった。彼は直感的に、艦をさらに深く、深く潜らせるよう命じた。

それは一縷の望みにかける賭けだった。そして、その賭けは奇跡を生んだ。

ある特定の深度以下に潜航した途端、艦内の揺れが収まり、計器の異常が軽減されたのだ。深海は、まさに**「時の間」の時空の歪みから隔離された、安定した領域**だった。外は依然として混沌の渦だったが、K-8605はこの深海の繭の中で、わずかながら安定した航行を取り戻した。

安定した深海から、K-8605の高性能ソナーは、上層で不規則に転送されるヤマトの姿を捉え始めた。突如として出現し、すぐにまた消え去るその巨艦の姿は、K-8605の乗員たちに、この異常な空間の性質とヤマトの不可解な能力を理解させるには十分だった。彼らはヤマトの転送パターンを分析し、僅かながらその出現の兆候を読み取ることに成功した。この深海での漂流は、まさにヤマトの能力を知るための、意図せざる観測所となったのだ。

K-8605が「時の間」に飲み込まれてから、外界での時間は大きく流れていた。艦長ヴォルコフは、深海で得たデータと僅かなエネルギーを元に、外界への脱出タイミングを緻密に計算した。そして、一瞬の隙を突き、K-8605は再び現実世界へと浮上した。

しかし、そこに広がっていたのは、K-8605がインド洋で見た世界ではなかった。南海トラフ巨大地震、それに伴う水爆の誘爆、そして「時の間」から現れたヤマトによって、日本列島は激変していた。そして、その混乱に乗じて、周辺国が領土的な野心を露わにしているという、苛烈な国際情勢が広がっていた。彼らは、数週間、あるいは数ヶ月分の時間を「時の間」で過ごしたような感覚だった。

K-8605は決死の覚悟で、故国ユーラシア連邦への帰還を試みた。損傷した艦体、疲弊しきった乗員。それでも彼らは、持ち帰るべき情報が祖国の未来を左右すると信じて航海を続けた。ユーラシア連邦の港にたどり着いたK-8605の姿は、まさに奇跡としか言いようがなかった。彼らが持ち帰った「時の間」での体験、特に**「深海では時の間の影響を受けにくい」というヤマトの弱点ともなりうる情報**と、ヤマトに関する詳細な観測データは、ユーラシア連邦軍首脳部を震撼させた。最初は懐疑的だった幹部たちも、K-8605が生き残ったこと、そしてその艦体と乗員が語る情報、そして何よりもその先進的な性能が、すべての証拠となり、彼らの報告を信じるほかなかった。

K-8605は、その貴重な情報と、未だ現役で通用する卓越した性能から、即座にユーラシア連邦軍の**「北方進軍作戦」**の重要な戦力として組み込まれた。彼らの任務は、ヤマトが守る日本の北方領土への侵攻を、深海から支援することだった。

北海道沖の冷たい深海を進むK-8605の艦橋では、乗員たちが複雑な感情を抱えていた。かつて、友邦のふりをしてその能力を探っていた「ヤマト」。そして「時の間」という不可解な空間で、ある意味で奇妙な同胞として漂流した相手が、今や敵として目の前に立ちはだかる。

「艦長、ヤマトの反応です。目標海域に浮上しました。」ソナー担当の報告に、ヴォルコフは無表情で頷いた。

「よし。ドローン搭載ミサイル、発射準備。ヤマトの対空網を攪乱しろ。そして……我々は深海より、その行動を監視し続ける」

K-8605は、深海という絶対的な優位性から、ヤマトの予測不能な出現と消失を冷静に予測し、それをユーラシア連邦の作戦に組み込む。かつて追跡し、共に時空を漂流した超兵器。深海と海上、異なる次元の影響下で、K-8605は、その凍てつく深淵から、ヤマトとの再戦の火蓋を切ったのだった。

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