Episode 67
「イライザ様!ご無事で何よりです!」
パトリックに抱えられたまま正門をくぐり、城の中にはいると、パトリックの側近のイボンさんをはじめ、いつも私のお世話をしてくれる面々が駆け寄ってきた。
「皆さん、ありがとうございます。……こんな格好のままでごめんなさい」
一向に私を下ろす気配のないパトリックの腕の中で、私は申し訳ない気持ちで微笑んだ。抱えられたままなのは恥ずかしいけど、防護魔法を展開しながらの重いドレスとハイヒールでの全力疾走という過酷な試練のせいで、正直足腰が限界だった。下ろされてもへたり込んでしまうかもしれないと思うと、迂闊に下ろしてくださいとも言えない。
「このままイライザを客間に運ぶ。着替えや診察を受けさせたいから、侍女と医者の手配を」
パトリックの指示に、イボンさんが「承知いたしました」と素早く頷いて去って行った。
客間のゆったりしたソファに優しく下ろされ、私ははぁーっと長い溜息を吐いた。疲労がどっと押し寄せ、身体に力が入らない。
「ここまで運ばせてしまって申し訳ございません」
「当然のことだ。危険な目に遭わせてしまってすまなかった」
謝る私の言葉に首を振りながら、パトリックは跪いて私のヒールを脱がせてくれる。恥ずかしさや申し訳なさもあるけど、それ以上に疲労困憊している私は、大人しくされるがままになっていた。
「靴擦れしているな。ストッキングに血が滲んでいる」
私の足を見つめ、パトリックが唇を噛む。
「あはは、さすがにこのヒールで全力疾走はきつかったです。前世でも取引先との打ち合わせに遅れそうになって走ったことはたくさんありましたけど、ここまで高いヒールじゃありませんでしたからね。ちゃんとお仕事仕様の見た目と機能性を両立したやつ履いてましたから」
私は冗談交じりに苦笑いしながら、パトリックの腕に手を添えた。パトリックの身体が小刻みに震えているのに気づいたからだ。攻撃されている私を見た時、どんな気持ちだっただろうかと思うと、胸が苦しかった。
でも、私は無事で、ちゃんとここにいる。本当に怖かったし身体も辛いけど、今はそれ以上にパトリックを安心させたい気持ちが勝った。
「パトリック様、隣に座ってくださいませんか?少し寄りかからせていただけたら嬉しいです」
私の言葉にパトリックは黙って頷き、隣に座った。そっと私の肩を抱き寄せ、自分に寄りかからせてくれる。私はそれに身体を委ねながら、パトリックの膝に置かれたもう片方の手に、自分の手を重ねた。
「あの時の閃光はパトリック様ですよね?助けてくださって、本当にありがとうございました。いつの間にかあんな魔法も習得されていたなんて、さすがですね。あの攻撃を見て、ああ、パトリック様が守ってくれる。もう大丈夫、って、すごく安心したんですよ」
パトリックは黙ったまま、私の手をぎゅっと握り返した。
「ちょっと疲れたのと、靴擦れしただけで、私は全然大丈夫です。――大丈夫なんですよ?」
黙ったままのパトリックが心配で、私はパトリックを見上げようとした。その途端、パトリックにすっと頭を撫でられ、上を向けなくされてしまう。
「悪い。今、ちょっと顔を見られたくない。イライザが好きなこの顔が、情けなく歪んでいるところは、見せたくないんだ」
震える声は、消え入りそうに小さく、沈んでいた。




