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Episode 66

 王城の門から、騎士団の人たちが駆け寄ってくるのが見えた。ほっとすると同時に、攻撃が飛んできたら巻き込んでしまうかも、という危機感が焦りを生む。

「遠隔攻撃がきます!私は防護魔法があるから、私から離れてください!どこから攻撃が来ているのかを見極めて、襲撃者の位置の特定を!」

 私は走りながら必死に指示を出す。騎士団の人たちはすぐに私の意図を汲んでくれたようで、ぱっと私の周りを警戒しながら陣形を組んだ。

「防護魔法を使える者はすぐに展開!他の者は迎撃態勢に入れ!イライザ様をお守りしながら、敵の位置を捕捉せよ!」

 迎撃ができれば、周囲への被害も少ないはず。私は少しだけ安心しながら、門を目指す。ああ、でも、ドレスやヒールじゃ走りにくい!いくら身体が18歳とはいえ、イライザのような細身の令嬢じゃ、体力だってない。公爵令嬢が筋トレなんてしてるはずないもんね。私だってイライザになってからそんなのしてないし。体力の限界から、足がもつれて転びそうになる。なんとか体勢を立て直したけど、もう防御魔法は限界だった。それでも三分以上展開できていたから、頑張った方だ。でも、もう一度は無理。また遠隔攻撃が来たら、騎士団の人たちが迎撃してくれることを祈るしかない。だけど門はもう目の前。中に入れさえすれば、城壁がある程度攻撃を防いでくれるはず。


 力と気力を振り絞って走っていると、「いたぞ!あそこだ!」と背後で騎士団の人が叫んだ。

 振り返って皆が見ている方向に目を向ける。少し高い建物の屋上に人影。あの手元は、魔法を展開しようとしてる!――と認識した瞬間、その人影を閃光が貫いた。ドドォン!という大きな音が、光を追うように響き渡る。

「うがぁーっ!」

 叫び声とともに、その人物が後ろに倒れる。その建物に向かって、騎士団の人たちが矢のように走って行った。馬車を襲っていた集団はすでに制圧され、立っているのは護衛の人たちだけ。遠隔攻撃の間隔からして、おそらく術者は一人。その一人もさっきの閃光に倒れたなら、とりあえずは襲撃者たちは一掃されたと考えて大丈夫だろうか。それでも門をくぐらないことには、安心できない。私はやっとのことで門をくぐり抜けた。

「イライザ様!大丈夫ですか!?」

 王城の方角から、衛兵の人たちが駆け寄ってくる。今くぐった門は、城壁の門。王城の正門はさらに奥にあって、衛兵の人たちの詰め所はそっちにある。城門の外での襲撃を受けて、正門の守りを固めていたところに、私が姿を見せたから、駆け寄ってきてくれたんだろう。

「ええ、大丈夫よ」

 私は膝に手を置いて息を整えながら、なんとか笑顔を見せた。すでに猛ダッシュした時点で淑女らしさなんて欠片もないんだろうけど、それでも第一王子の婚約者として、あまりにみっともない姿を見せるわけにはいかない。ふぅっと大きく息を吐いてしゃんと身体を起こす。まだ気を抜いちゃいけない。もう少し頑張らないと。


 門の向こうをうかがうと、建物にいた襲撃者らしき人物が拘束され、建物から引きずり出されているのが見えた。

 それにしても、さっきの閃光…王城の方角から、ということは…。

「イライザ!無事か!」

 振り返ろうとした瞬間、後ろから強く抱きしめられる。ふっと香る、大好きな人の香り。

「パトリック様?」

 私の声に応えるように、抱きしめる腕にさらに力がこもる。苦しいくらいに強く抱きしめられ、私は自分に回された腕を大丈夫です、というようにポンポンと軽く叩いた。

「どこもケガはないか?」

 がばりと私を抱き上げる力強い腕。心配そうに覗き込む美麗な顔。その顔を見た途端、全身を覆っていた緊張が一気に解けていく。

「はい。大丈夫です。助けてくださって、ありがとうございました」

 私はそうしたいと思う気持ちに抗うことなく、ぎゅっとその首に腕を回し、その胸に頭を預けた。

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