Episode 65
どうしよう。このまま馬車の中にいて、さっきの攻撃がまたきたら、馬車ごと潰されてしまうかもしれない。かといって、闇雲に外に飛び出すのも危険だろうし。私は身を屈めて大きくひしゃげた天井を見上げた。
きっと、遠隔攻撃だよね。風魔法で石とかを飛ばしてきたのかな。だとしたら、これだけ天井が損傷してるってことは、かなり大きい石のはずだ。風魔法の使い手だとして、そんな大きな石を飛ばせるってことは、相当な実力者だと思っておいた方がよさそうだ。
ドドドドッと馬車の外にいくつもの足音が近づいてきたと同時に、激しく剣がぶつかり合う音が聞こえてきた。身を屈めたままそっと窓の外を覗くと、護衛の人たちが武装した集団に応戦している。遠隔攻撃だけじゃなく、直接襲撃するための準備もされていたようだ。きっと、あの青果店の荷車の荷崩れも、仕組まれていたに違いない。襲撃者たちは十数人はいるだろうか。今日の護衛の人たちは五人。倍以上だ。護衛の人たちはパトリックが選んだ精鋭揃いとはいえ、腕が立つ襲撃者が倍以上となると、制圧は簡単ではないかもしれない。
――ドン!!
再び馬車に衝撃が走り、天井がさらに大きくひしゃげ、グラグラと馬車が大きく揺れた。身を屈めていなかったら、頭が潰れていただろう。粉塵が舞い、パラパラと天井の欠片が落ちてくる。次の攻撃が来たら、もう馬車はもたない。恐怖で身体が震えてくる。ああもう、こんなところで死ぬわけにはいかないでしょ!どうにかすることを考えないと!私は震える手をぎゅっと握り、自らを奮い立たせた。
「イライザ様、ご無事ですか!?」
外から護衛の人が呼びかける声。
「はい!私は大丈夫です!そちらは!?」
「目下応戦中です!馬車を取り囲んでいる襲撃者たちの制圧は間もなくですが、まだ遠隔攻撃をしてきている者の姿を捉えられていません!もう一度攻撃が来たら危険です!イライザ様、馬車から脱出はできそうですか?」
ドアを確認すると、幸いまだ開けられそうだ。
「ドアは開きそうです!ドアの前を空けていただけますか?」
「承知いたしました!」
防御魔法を展開しながら外に飛び出せば、王城の中まで逃げ込めるかもしれないけど、私を狙った遠隔攻撃が、護衛の人たちに当たってしまうかもしれない。
「私が外に飛び出したら、私から離れてください!遠隔攻撃は私を狙って飛んできます!あなたたちは、周りにいる襲撃者を完全に制圧してください!」
「ですが、それではイライザ様が…!」
「私は防御魔法を使えますから大丈夫!私の退路だけ確保していただければ、防御魔法を展開しながら王城に駆け込みます!時間がありません!私の指示に従ってください!」
さっきまでの攻撃の間隔から考えても、次の攻撃はもうすぐのはずだ。グズグズしている暇はない。
「し…承知いたしました!背後は私たちが必ずお守りいたします!」
「はい!お願いいたします!」
王城の門の目の前でこれだけ大規模な襲撃があれば、王城を警備している騎士団が駆けつけてくるはず。パトリックにだって、すでに連絡がいっている可能性も高い。だとすれば、門さえ通過できれば、きっとすぐに保護してもらえるだろう。
意を決してドアに手をかける。
「出ます!」
叫ぶと同時にドアを開け、防護結界を展開しながら馬車の外に飛び出す。
その直後、ドォン!と背後の馬車に攻撃が飛んできた。――本当に間一髪。馬車の破片が結界をかすって飛んでいく。護衛の人たちに大きな破片が当たらないことを祈りながら、私は彼らが身体を張って空けてくれた門までの道を全力で走った。




