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Episode 63

 私だってパトリックに凄まれたら、戦慄でしばらく動けないかも。美しすぎるからこそ、怒りを纏った表情は人外にも劣らぬ恐ろしさだ。もちろん、ゲームのパトリックはそんな表情を見せることはなかったけど、何せ中身はあの沢渡部長なんだもん。第二王子派の人たちも、妙な考えは起こさない方が身のためだと思う。

「それと、婚約披露パーティーで、陛下に俺を王太子に据えるという発表をしてもらうことになった。すぐに立太子の儀に向けての準備に入るという告知もしてもらう。陛下からの言葉があれば、第二王子派も今みたいにコソコソ悪巧みもしなくなるだろうからな」

「元々王太子になるのはパトリック様でほぼ決定だったんでしょうけど、よく婚約披露パーティーで発表していただけることになりましたね。本来はもう少し後に正式決定の予定だったんじゃないですか?」

「そりゃ、もちろん陛下にプレゼンしたからな。俺が王太子になることで、王室にどんなメリットがあるか、俺がこれからこの国のためにどんなことができるか。そして俺が王太子になることを少しでも早く発表することが、どんな効果をもたらすか。経済効果の試算も、俺に忠誠を誓ってくれると約束してくれた有力貴族の署名も添えたから、一発だった」

 おお、さすが沢渡部長。待つのではなく攻めに出たのね。きっと貴族の署名の一番上には、お父様の署名があったことだろう。


「陛下にしてみても、国内の不穏な動きはいつまでも放置できない問題だったからな。あえてしばらく傍観して、俺がどう対応するつもりでいるのか、注視していたようだ。以前からパトリックはきちんと仕事をこなしていたから、信頼も厚かったし、プレゼンもしやすかった。ただ、俺がパトリックになる前は、自分からここまで積極的に動く方ではなかったようだから、少し驚いたようだったけどな。イライザと婚約したことで、国にもイライザにも責任感が増したんだと言っておいた。それだけイライザが自分にとって大事な存在なんだとな」

 にっとパトリックが笑い、私の肩を抱き寄せた。

「いいご令嬢と婚約できてよかったとおっしゃっていたよ」

 耳元で囁かれ、かっと頬が熱くなってくる。

「そ、それは、よかったです」

 思わずぐぐっと顔を背けながら答える。もう!突然近いってば!いつまで経ってもこの距離感には緊張してしまうのに、急にこられるとさらに動揺する。

「相変わらず初々しい反応を見せるよな。そこが可愛いんだけど」

「だから、そういうこと言うのやめてくださいってば!しかもちょっとおじさんくさいですよ、その言い方」

 耳まで熱い。心臓の音がパトリックにも聞こえてるんじゃないだろうか。

「大丈夫。中身はアラサーでも、身体は18歳だから」

 何が大丈夫なんだ!焦っているうちに、パトリックの顔がどんどん近づいてくる。

「はは、真っ赤。本当可愛いな」

 言うなり、おでこにちゅっと唇が触れる。――え…おで…こ?これまでなら、確実に唇にキスされて、そのままどろどろに溶かされそうな流れだったけど…。いや、別にそれを期待してたわけじゃないけど!


 私の照れや驚きなどがごちゃ混ぜになった顔を見て、パトリックが堪えきれないように笑う。綺麗な長い指が伸びてきて、ちょん、と唇に触れた。

「いや、こっちにしたいのは山々なんだけど、抑えが効かなくなりそうで。今日もまだやらなきゃならないことが山積みだから、我慢した。イライザもこっちに欲しかったよな?お互い今日はおあずけだな。また今度、ゆっくり」

 にやりとされ、私はさらに顔を赤くした。

「べ、別に、不満に思ってるわけじゃないですから!」

「そう?俺は相当不満だけど」

「もう!――パトリック様はお忙しいでしょうから、私はこれで失礼します!また邸に着いたら連絡しますので!」

 私はさっと立ち上がり、きゅっとパトリックを睨んだ。パトリックも立ち上がり、私の手を取った。

「悪い、可愛いからって、ついついからかいすぎた。――でも、本当に気をつけて帰って。ちゃんと護衛と一緒にな。ここのところ送ってやれなくてごめん」

 急に真面目な顔で心配されて、私も睨んだ手前ばつが悪くなり、素直に頷く。

「はい。気をつけて帰ります。パトリック様も、あまり無理しないでくださいね。また、明日」

 ドアのところまで大人しくパトリックに見送られ、護衛の人たちに引き渡される。

「愛してるよ、イライザ」

「――!!」

 最後に耳元に爆弾を落とされ、せっかく落ち着いた私の頬は、また真っ赤に染まったのだった。

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