Episode 62
それにしても、自分たちの勝手な思惑でゆくゆく国を統べることになる王太子の問題に口出しをしようなんて、教育係の人たちってかなり不敬なんじゃない?内乱罪に問われてもおかしくないような…。実際に何かしたわけじゃないから、まだ罪には問えないのかな。でも、王妃様も知ってるってことは、国王陛下だってもちろん知ってるはずだよね?様子見でその人たちを泳がせてるのかな…。
国王陛下には何回かお会いしてるけど、聡明で思慮深い方だと思う。そんな方が表立って特に何もしていないということは、何かお考えがあるということなんだろう。第一王子のパトリックは文句なしに優秀だし、人に上に立つに相応しい人格者。わざわざ自分が手を下さずとも、パトリックが自分の力で解決するって思っているのかも。
「イライザ、考え事かな?」
目の前にぬっと完璧な美貌が現れ、私は悲鳴を口の中でかみ殺しながら、身体を後ろに反らせた。
「パトリック様!」
妃教育が終わった後、教本を片づけながら考え事をしていたせいで、なかなか部屋から出てこない私を心配した誰かが、すぐ向かいのパトリックの執務室に報告をしたんだろう。
「ごめんなさい、ご心配をお掛けしてしまったようですね」
入口に立つ護衛の人にも、頭を下げる。その人は首を振って一礼すると、部屋から出て行った。部屋には私とパトリックが残る。
「どうせ第二王子の問題でも考えてたんだろう?とりあえず、執務室に戻ろう。イボンがお茶を用意してくれているから」
パトリックに言い当てられ、私は苦笑いをした。
「最近、王妃様とお話しする機会もあるので、うかがったお話についてついつい考えてしまって…」
すっと差し出された手を取り、立ち上がる。こうした振る舞いも、もうお互い自然になってきている。この世界に馴染んできているんだな。変な感慨深さを抱きながら、パトリックの執務室に移動した。
「今日も問題はないか?」
お茶を入れてくれたイボンさんが部屋を出ると、パトリックがいつも通り沢渡部長の口調で私の顔を覗き込んだ。
「はい、何も。こちらもしっかり警戒しているので、相手も何もできないんじゃないでしょうか」
「それならいいが、とにかく警戒は絶対に怠らないように」
「はい。わかってます」
パトリックの心配は尽きないようで、毎日登城する度に護衛の人が増えている。お父様やアンドレと一緒に登城できる日はいいけど、二人も多忙なのでいつも一緒とはいかない。だからといって、パトリックよりも婚約者の私の方が護衛の人数が多いのはちょっと気が引けるんだけど…。
「今朝もちゃんと第二王子には釘を刺しておいた。それから第二王子の教育係を務めている侯爵家の人間に会う機会があったから、不相応な願望は身を滅ぼすとしっかり忠告しておいたよ」
――わあ、麗しいパトリックの顔が、魔王みたいに見えるー。
パトリックに凄まれて、平気でいられる人がいたら見てみたい…。




